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京都消費者金融会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
京都消費者金融会社事件
事件番号
京都地裁 - 平成17年(ワ)第761号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名A、株式会社
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年04月27日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告会社は消費者金融を目的とする会社であり、原告は平成14年8月に被告会社に雇用され、平成16年2月九州地区に配属になり電話による債権回収を行っていた女性であり、被告Aは同時期に九州地区課長として配属された男性である。

 原告は、被告Aから次のようなセクハラ行為を受けたと主張した。

(1)平成16年5月頃から、勤務時間中「おはよう」「調子どうや」などといいながら肩、髪、背中を撫でるなどの身体的接触を頻繁に続けた。

(2)同年5月、勤務時間中、女子トイレ横の部屋で後から抱きつき、無理矢理身体を触った。

(3)数ヶ月に1度食事会が開催され、出席を強制されていたところ、同年6月、食事会で股や太ももあたりを撫で回したり、自分の足を原告の足に乗せようとしたりし、その際「単身赴任は寂しいものよ」「家で待っている愛人が欲しい」などと言った。

(4)同年11月、食事会で原告の股や太ももあたりを触った。

 また原告は、被告Aから次のようなパワーハラスメントも受けたと主張した。

(1)同年11月の食事会の際、原告が被告Aのセクハラ行為に抗議して手を払いのけたことに対する報復として、原告の評価を5から4に落とした。

(2)同年12月の勤務時間中、原告に対し「僕を誹謗しているらしいな。君の悪い噂がぽっぽっとでているぞ。ここにいられなくなるぞ」などと原告を退職に追いやる旨の言動を行った。

 原告は、被告Aのセクハラ行為及びパワハラ行為によって体調を悪化させ、不眠、神経過敏、抑うつ気分、食欲不振などの心因反応を来し、休業を余儀なくされたとして、被告A及び被告会社に対して300万円の慰謝料及び50万円の弁護士費用を請求するとともに、休業中の賃金の支払いを請求した。

 これに対し被告らは、食事会の出席は義務付けられてはおらず、セクハラ行為は行っていないこと、原告の悪い噂が流れていることから、何か思い当たることはないかと聞いただけであり、パワハラ行為はしていないことを主張して争った。
主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、110万円及びこれに対する平成17年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告会社は、原告に対し、50万9491円及び別紙未払賃金請求金一覧表記載の各未払賃金に対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告会社は、原告に対し、平成17年4月から平成18年1月まで毎月25日限り、1ヶ月17万2506円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とする。

6 この判決は1ないし3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 被告Aが原告に対して頻繁に身体的接触を行っていた点については、目撃者の書証もなく、原告がよく話しをしていた者の陳述書にも一切触れられていないことからみて、原告の主張に沿う供述部分はにわかに採用し難い。

 女子トイレ横の部屋で被告Aが原告に抱きつき無理矢理身体を触った点については、多数の社員の勤務時間中にそのような行為があり、原告が声を出せば大騒ぎとなり問題となることが予想されるのに、そのような行為を被告Aが敢えて行ったのか疑問が残る上、原告がその時点で被告会社に申し出たり、警察に届け出たり、殊更そのことを問題にしたことが窺えない等の事実を踏まえると、原告の主張に沿う供述部分は採用できない。

 被告Aが平成16年6月の食事会で、原告の股や太ももを撫で回したり、自分の足を原告の足に乗せようとしたり、単身赴任は寂しいなどと言ったこと、同年11月の食事会で原告の股や太ももあたりを触ったことについては、被告Aが敢えて原告の隣に割り込み、原告の身体と触れ合うような状況になったこと、当時食事会での被告Aのセクハラ行為が話題になり女性の間で注意喚起されていたこと、現に被告Aは、食事会後の二次会の席で女性にキスをしたり、キスを強要したり、抱きついたりし、「俺と付き合え」「今日は泊まっていけ」「やらせろ」などと言ったことがあったことから、これに原告の供述を総合すると、原告の主張に沿う事実があったと認められる。

 原告は、食事会の席で被告Aの手を払いのけたことに対する報復として、勤務成績評価を5から4に落としたと主張するが、一次評価者である被告Aの原告に対する勤務評価、二次評価者の人事部長の評価とも同年10月中に既に終了していたところ、被告Aが原告主張にかかる同年11月22日の出来事を理由として原告に対する勤務評価について低い評価をしたと認めることはできない。

 被告Aは、原告に対するセクハラ行為を行い、それについて原告が不快な思いを募らせていたこと、原告は被告Aと面談して間もなく心因反応から精神科医の診察を受け、同医師に症状の原因は上司とのトラブルであると訴えていること、原告は精神的・身体的状況が酷く、勤務を休まざるを得なかったこと、人事課長との電話でも、今回の症状について被告Aとのトラブルが原因であると話していること等の事実からすると、被告Aは、原告に対し、必ずしも原告に退職をしなければならない事由がなかったにもかかわらず、原告に対し圧力をかけ、退職を迫られたように受け止める言動を行ったことが認められる。

 被告会社が原告らに対し、使用者として、セクシャルハラスメントのない働きやすい職場環境を保つよう配慮する義務を負っていることはいうまでもない。ところで原告は、平成17年1月21日に被告会社宛に内容証明郵便を送付し、その中で被告Aに係るセクハラ行為の事実を明確に記載しているが、それまでは診断書などでセクハラ行為の事実は記載されていない。平成16年12月10日の原告と人事課長との電話のやりとりの際に原告が本件の事実を具体的に話し、調査を依頼していれば被告会社においても本件セクハラ行為について調査をし、その結果を伝えると思われるが、上記内容証明郵便が送付されるまでは被告社内で原告主張に係る調査などが行われた事実は認められず、却って人事課長は、原告との電話から間もない同月13日に、上司の人事部長宛に被告Aの原告に対するセクハラ行為ではなく、パワハラに係る事実を報告し、調査をしている。そうすると、被告会社が適切な調査・措置をとらず、セクハラ行為が継続的に発生する劣悪な職場環境を放置し、容認した旨の原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

 原告は、被告Aの食事会でのセクハラ行為及び退職を示唆するようなパワハラ行為により、精神的、身体的に体調を崩したが、原告を診察した医師は原告の治療のため平成17年3月末日までの通院加療を要する旨の診断をしているところ、その後、一進一退を繰り返しながらも次第にその症状が回復傾向に向かっていることが認められる上、原告が体調を壊した直接的な原因である被告Aが平成16年9月の原告以外の女性に対するセクハラ行為を理由として平成17年4月に転勤していることを踏まえると、遅くとも平成18年1月末日までの休業について被告Aの各行為と相当因果関係が認められ、また同年4月以降の休業との間には相当因果関係が認められない。

 原告が被告Aの食事会でのセクハラ行為及び退職を示唆するようなパワハラにより上記認定したとおりの精神的、身体的症状の発生、程度、その期間を踏まえると、被った損害は100万円とするのが相当であり、弁護士費用は10万円とするのが相当である。

 原告は、被告会社が使用者責任(民法715条)を負う被告Aの原告に対する各食事会でのセクハラ行為及び退職を示唆するようなパワハラにより平成16年12月6日以降平成18年1月末日まで休業せざるを得なくなった。以上の事実からすると、被告会社は同期間に係る原告の賃金、1ヶ月当たり17万2506円の割合による賃金の支払義務があり、同年2月1日以降はその支払義務がないといわなければならない。
適用法規・条文
民法709条、715条
収録文献(出典)
労働判例920号66頁
その他特記事項
本件は控訴された後和解した。