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Y社配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- Y社配転拒否事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和52年(ヨ)第2405号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1978年02月15日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は建築内装材である石膏ボード等の製造販売を業とし、東京本社のほか全国に5ヶ所の自社工場、10ヶ所の系列工場を有する会社であり、債権者は昭和43年3月高校卒業後直ちに技能職(工員)として入社し、以来東京工場に配属され、昭和44年4月以降は事務職員として同工場に勤務していた。
債権者は、昭和52年3月11日、岡山営業所への転勤を内示され、次いで同年10月29日右転勤を命ぜられた。これに対し債権者は、本件転勤命令は業務上の必要性、合理性がないばかりか、夫婦、親子の別居を強い、債権者の家庭生活を破壊するものであって人事権の濫用であること、第一組合を壊滅させることを目的とする不当労働行為であることを主張して、本件転勤命令の効力を仮に停止する仮処分の申請を行った。 - 主文
- 本件申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者の就業規則には、業務上必要な場合従業員に転勤を命じ得る旨定められており、債権者はこれを承知して入社し、しかも債務者においてはこれまでしばしば転勤が行われていたことが明らかであって、かかる事実に照らすと、債権者債務者間の労働契約においては就労場所等の労働条件について使用者たる債務者に包括的な処分権が委ねられており、本件転勤命令は右権限の行使としてなされたものと認めるのが相当である。
転勤は労働者の生活に重大な影響を与えるものであるから業務上の理由に基づくものでも無制約に許されるべきものではなく、転勤につき業務上の必要性及び当該労働者を選択したことの妥当性の存することが必要であることはもとより当然であるが、他方転勤命令は使用者の有する労務指揮権の行使として発せられるものであるから、右命令の当否については相当大幅に裁量の余地が認められるべきであり、しかも労働者は使用者と労働契約を締結することによってその個人的生活に諸種の影響を受けることを当然予測すべきものであるから、当該転勤命令が合理性を備えている場合には転勤が労働者の生活関係を根底から覆す等の特段の事情がない限り、権利の濫用とならず、従って労働者は右転勤を拒み得ないものと解するのが相当である。
岡山営業所の付属倉庫は、西日本地域に存する債務者の九州工場等の集配送の拠点としての機能を有していることから、倉庫管理業務について知識を有するものを必要としたこと、そこで債務者は倉庫業務に8年の経験を持ち、知識が十分で、事務職への職種変更試験にも合格して営業員としての資格も備え、かつ入社後地方への転勤が1度もなく、岡山営業所長との年齢の釣合いも相当な債権者を選任したことが認められ、右事実に徴すれば、本件転勤には十分な必要性があり、かつその人選にも、債権者が営業未経験である点からいって必ずしも最適任者とまではいえないにしても、相当の妥当性が存するものといわなければならない。
債権者には債務者東京支店に勤務する妻(28歳)と長女(2歳)があり、債権者夫婦は長女を保育園に預けて共稼ぎを続けており、債権者らには他に頼るべき身寄りの存しないことが認められる。従って本件転勤命令により、債権者が岡山営業所に単身赴任するとすれば、夫婦の別居はもちろんのこと、妻が長女の送迎にあたらなければならず、これに要する時間は債務者に労務を提供し得なくなるため賃金カットを余儀なくされ、さらに別居に伴う支出増加等のため現在と比較して精神的にも経済的にも不利益を受けることは否定し得ないところであり、また妻が債務者を退職し、債権者と共に岡山へ赴くとすれば、妻の収入がなくなるため、現在に比べて経済的に不利益を被ることもまた否定できないところである。しかしながら本件転勤命令によって共稼ぎ夫婦である債権者夫婦が別居するか、その1人が退職するかは共稼ぎ夫婦の一方の転勤によって通常生ずる事態であり、通常予測されないような異常なものとはいえないし、さらに仮に妻が退職し債権者と共に岡山へ赴いた場合、なるほど収入は減少するが、支出も共稼ぎのときに比べて相当に減少するはずであるから、経済生活はやや窮屈になるとはいえそれほど悪化するとは考えられないし、赴任先での妻の就職斡旋等について債務者においても努力する旨約していることが明らかであり、更に債権者らが別居生活を営む場合、債務者は妻に保育園への送迎時間につき便宜を与える旨約して本件転勤に伴う不利益をできる限り防止すべく努めていることも明らかであるから、かかる事実に照らすと債権者が本件転勤によって被る不利益をもって債権者の生活関係を根底から覆すほどの特段の事情に該ると解することはできない。従って本件転勤命令が権利の濫用に該るという債権者の主張は失当であるといわざるを得ない。
債務者には不当労働行為あるいはその疑いの極めて強い行為の存したことが窺われるし、債権者もまた東京工場支部の結成に尽力し、同支部の執行委員を務めるなど第一組合員として組合活動を活発に行ってきたものであり、妻も分会執行委員として組合に従事していること等、債務者において、債権者を東京工場から排除し、もって第一組合の活動を妨害する目的の下に本件転勤命令を発したものとの推認を可能ならしめるような事情が存しないわけではない。しかしながら、債権者は昭和51年10月以降は組合の役職には就かず、第一組合においてそれほど指導的な役割を果たしていたとは認められないし、本件転勤につき業務上の必要性があり、またその人選についても相当の妥当性が存するから、直ちに本件転勤命令が債権者夫婦の組合活動を嫌悪し、債権者を東京工場から排除すると共に、第一組合を壊滅させることを主たる目的としてなされたものと即断することは相当でない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例292号20頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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