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T社配転拒否懲戒解雇上告事件

事件の分類
配置転換
事件名
T社配転拒否懲戒解雇上告事件
事件番号
最高裁 − 昭和59年(オ)第1318号
当事者
上告人 株式会社
被上告人 個人1名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1986年07月14日
判決決定区分
原判決破棄・差戻し
事件の概要
 被上告人(原告・被控訴人)は、昭和40年4月に上告人(被告・控訴人)に雇用され、昭和48年10月当時上告人神戸営業所において営業担当主任の地位にあった。上告人は、瀬戸内地区の業績向上を図るため、新たに広島に駐在員を置き、その関連で広島営業所主任の後任として被上告人に広島営業所への転勤の内示をしたところ、被上告人はこれを拒んだことから、上告人は名古屋営業所主任を広島営業所の主任に充て、被上告人を名古屋営業所主任の後任とすることとし、被上告人に対しその旨発令した。しかし被上告人は名古屋営業所への転勤も拒否し、赴任しなかったため、上告人は昭和49年1月、被上告人を解雇した。これに対し被上告人は、労働契約上勤務地は大阪とする旨の合意があること、家庭状況から転居を伴う転勤は不可能であることを主張し、本件転勤命令は人事権の濫用で無効であり、本件転勤命令を拒否したことを理由とする解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。

 第1審においては、労働契約上勤務地が大阪に限定されているとの被上告人の主張は否定し、業務上の必要性があれば使用者は従業員を一方的に転勤させることができるとしながら、本件の場合、名古屋営業所に転勤させるのは被上告人でなければならない理由はなく、被上告人は家庭の事情から考えて、転勤するとなれば単身赴任にならざるを得ず、犠牲が大き過ぎるとして、本件転勤命令を無効とし、これを拒否したことを理由とする解雇も無効とした。第2審においても、第1審と同様な判断が示されたため、上告人がこれを不服として上告に及んだものである。
主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
判決要旨
 上告人の労働協約及び就業規則には、会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告人では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告人に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する合意はなされなかったという事情の下においては、上告人は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもって替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

 本件についてこれをみるに、名古屋営業所の主任の後任者として適当な者を名古屋営業所へ転勤させる必要があったのであるから、主任待遇で営業に従事していた被上告人を選び名古屋営業所勤務を命じた本件転勤命令には業務上の必要性が優に存したものということができる。そして被上告人の家族状況に照らすと、名古屋営業所への転勤が被上告人に与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。したがって、原審の認定した事実関係の下においては、本件転勤命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当である。

 以上の次第であるから、原審がその認定した事実のみから本件転勤命令を無効とした判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならず、右違法が原判決中上告人敗訴部分の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の点で理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決中右部分は破棄を免れない。そして、被上告人の主張する本件転勤命令のその余の無効事由について更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例477号6頁、判例時報1189号149頁
その他特記事項
本件は大阪高裁へ差し戻された。