判例データベース
全国S会連合会事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 全国S会連合会事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成6年(ワ)第20282号 損害賠償請求
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 全国S会連合会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年06月02日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、各都道府県に設置された都道府県S会連合会(県連)を会員とし、各地のS会及び県連の健全な発展等を目的とする団体であり、原告(昭和10年11月生)は、昭和42年8月に全国S連協力会に雇用され、昭和44年2月に被告に出向した後協力会に戻り、平成元年9月以降再び被告に勤務し、平成8年3月31日定年により被告を退職した女性である。
被告は、昭和60年3月頃「事務局機構の合理化、簡素化」の一環として職員の定数削減を掲げ、その過程において、原則として40歳以上の全職員を対象に、退職の意向の有無等を確認した。原告は、昭和60年6月頃から12月頃にかけて、被告の常務理事や専務理事から再三退職勧奨を受けたが、一貫してこれを拒絶した。
原告は、有夫の女性であることから人員整理のターゲットとされ、歴代の役員等から執拗な退職勧奨を受けたが、これは憲法14条、労働基準法3条、4条の趣旨に反すること、退職勧奨を拒絶した昭和61年以降正当な理由なく昇格をさせず、平成2年4月からは昇給もさせなかったこと、被告による不当な差別がなければ平成7年度においては6級20号になっていたはずであること、不合理な配転を繰り返し、各職場において数々のいじめ、嫌がらせを受けたことを主張した。その上で、昇給・昇格差別による賃金等相当損害金500万円、昇給・昇格差別、配転差別、嫌がらせなどの人権侵害行為による精神的苦痛に対する慰謝料1500万円、弁護士費用200万円、本来支給されるべき退職金と現実に支給された退職金との差額588万0772円を被告に対し請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 退職勧奨について
被告は事業等の合理化・簡素化計画の一環として、原則として40歳以上の全職員を対象に退職の意向等を確認したというのであり、有夫の女性であることなどを理由に原告を特定して退職を勧奨したとは認められないし、また、その説得の手段と方法が社会通念に反し、違法性を帯びるほど執拗なものだったと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の原告に対する退職勧奨自体が不法行為を構成するかのような原告の主張は採用できない。
2 昇給・昇格の差別について
原告は、平成2年3月、被告から(1)出入り業者に対する代金支払遅延の件、(2)帳簿への記帳が不完全であった件、(3)事務の引継ぎが不完全であった件、(4)被告から貸与された制服の私物化の件について指摘を受け、これについて常務理事あてに顛末書を提出し、同年4月1日から向こう1年間の昇給停止を承服する旨付記した。原告は昭和54年4月に5等級に昇格し、その後の制度改正により新たに4級に格付けされ、平成元年4月に4級17号に達したが、平成2年4月の昇給は顛末書の経緯から見送られ、その後の昇給も勤務状況の改善が認められないとして見送られ、その後58歳になったことから昇給・昇格は停止された。原告は被告による不当な差別がなければ平成元年度には6級になっていたはずであると主張するが、その根拠について具体的な主張、立証はないし、被告が原告を5級以上に昇格させなかったことを違法と評することはできない。
昇給については、平成元年4月までは原告も毎年1号俸ずつ昇給しており、平成2年4月から58歳で昇給停止となる平成5年11月までの間1度も昇給させなかったことは、原告にとって些か酷ではないかとの感は否定できない。しかし、給与規程によれば12ヶ月以上を良好な成績で勤務したときは直近上位の号俸に昇給させることができるとされているところ、原告の勤務状況は決して芳しいものとはいえないこと、原告は顛末書の中で少なくとも平成2年4月から1年間の昇給停止を承諾したと認められることなどの事情を併せ考慮すれば、被告において原告が良好な成績で勤務したとは認められないと判断したことは、昇給の決定に関する被告の裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したりしたとまではいうことができない。したがって、被告が平成2年4月以降定年退職するまで原告を昇給させなかったことについて、当不当の問題が生じるのは格別、違法とまでは評することはできない。
3 配転差別その他の差別について
昭和61年以降の原告の配置転換について、その必要性がなかったとは認められないし、これにより原告が通常甘受すべき程度を超えた不利益を被ったと認めるに足りる証拠もない。もっとも、原告が配置された各職場において、必ずしも原告自身が満足すべき内容の職務を与えられたとはいえず、人間関係もうまくいかなかったことが窺われるが、これも原告の長年にわたる芳しくない勤務態度、とりわけ協調性の欠如に起因するところ大といわざるを得ず、これをもって、不法行為を構成するほど違法性を帯びた職場のいじめや嫌がらせとまではいうことができない。
4 退職金について
原告は、本来退職時には少なくとも6級20号の扱いを受けるべきであり、これを基礎に退職金の額を算定すべきであると主張する。しかし、その前提自体認められないし、平成5年4月以降実施された給与規程の改正については、退職手当の額の算定方式の改定も含めて、原告は他の職員とともに承諾したのであるから、今更改正前の給与規程の適用を主張するのは許されない。そうすると、原告の退職時の俸給月額(4級17号)に改正後の給与規程による勤続年数に応じた支給率を乗じて得た1751万6961円を退職金として支給した被告の措置に違法はない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例746号22頁
- その他特記事項
- 本件は退職金請求部分について控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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