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T社建物明渡・雇用関係確認等請求事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- T社建物明渡・雇用関係確認等請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成8年(ワ)第12148号建物明渡請求事件(本訴)
- 当事者
- 原告(反訴被告) 株式会社
被告(反訴原告) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年03月16日
- 判決決定区分
- 本訴棄却・反訴認容(確定)
- 事件の概要
- 原告(反訴被告)は、建設機械のリース等を目的とする会社であり、被告(反訴原告)は、昭和51年8月、原告の所有する寮の住み込み管理人兼賄婦として雇用された女性である。原告は、従業員の身分を喪失した場合には、喪失から1週間以内に部屋を明け渡す旨の約定の下に、被告に対し建物を貸し渡した。
被告は、平成3年5月に定年である57歳になったところ、原告社長は被告に対し「長い間ご苦労様」などと述べて、退職金名目で34万2895円を交付し、被告はこれを受領した。それから約10日後、原告は被告を独身寮の住込み管理人兼賄婦として雇用し、雇用期間を1年間とする雇用契約書を作成した。その後新たな雇用契約書を作成することなく雇用を継続していたところ、原告は平成8年4月30日付けの書面で、被告に対し嘱託期間満了により同年5月14日で雇用契約関係が終了する旨通知し、同日後の被告の就労を拒み、賃金の支払いを停止した。ところが被告が雇用関係の存続を理由に建物の明渡しを拒否したため、原告は被告に対し、建物の明渡しと賃料相当分の損害金の支払いを求めた(本訴)。一方被告は、本件雇用契約は終了していないとして、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めた(反訴)。 - 主文
- 1 本訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴原告と反訴被告との間に、雇用契約関係が存することを確認する。
3 反訴被告は、反訴原告に対し、255万6000円及び平成9年12月20日以降毎月25日限り14万2000円の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じ本訴原告(反訴被告)の負担とする。
5 この判決は第3項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 被告が一旦定年退職したか否か
原告(反訴被告)が、当時から被告(反訴原告)について就業規則の定年退職の規定の適用があると考えていたことは明白であり、また被告においても、定年退職扱いという趣旨を理解した上で、特段異議を述べることもなく退職金名目の金員を受領したものと認められるから、被告は満57歳に達した翌日をもって一旦退職したというべきである。
2 原告被告間で締結された本件嘱託契約の内容
(1)被告は、本件嘱託契約により管理人兼賄婦としての仕事を行っている期間中に昇給しており、賞与の支給も受けていること、(2)被告は、右期間中の平成3年8月に、勤続期間15年になるとして表彰を受けていること、(3)右期間中、当初の1年経過後は被告との間では更新の意思を明確にしたことはなく、結局のところ期間経過後も被告が従前と同様の業務に従事し、原告が賃金を支給することで暗黙のうちに契約が更新される関係であったことが認められ、以上の事実関係からすれば、本件嘱託契約は、「嘱託」の名称ではあるが、実質は雇用契約であると認めるのが相当である。そして、当初の契約が期間を定めたものであり、一応社報には1年単位での更新として記載していたこと等の事情を考慮すると、その後も1年毎に期間の定めのある契約として更新されてきたものと解するのが相当である。
3 本件更新拒絶の適法性
本件嘱託契約の期間は労働基準法14条で定める雇用期間の原則的最長期である1年であって、更新が繰り返された結果、嘱託契約期間は通算5年間にわたっている。また独身寮は、管理人が常駐することが予定されていると理解できる上、原告は被告の就労を拒否した後はパートタイマーを雇って管理をさせていることからしても、独身寮は管理人の常駐の必要性が高いと認められ、同管理業務は季節的労務や臨時業務とは異なった性質を有していると理解できる。更に原告の他の社員寮には被告よりも年齢が上の女性が住み込みで管理人兼賄婦としての仕事を行っている例が存在し、被告は定年退職の際には原告社長から今後も同じ仕事をして欲しい旨の話をされている。以上からすれば、本件嘱託契約は期間の定めのある契約ではあるけれども、その雇用期間の実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものであって、被告において雇用契約満了後も更新により雇用を継続してもらえるものと期待することに合理性があるというべきで、この期待は、期間の定めのない契約において労働者が有する雇用継続への期待と同様、法的保護に値するものといわなければならない。他方において、使用者側にも、期間の定めある契約を締結している以上、期間の定めのない契約を締結している場合よりも雇用契約関係を終了させやすいとの期待があり、合理的差異の範囲内であればその期待も考慮しなければならないので、その点をも考慮した上で、更新しなかったことの適法性を決するべきである。
本件において原告が更新しなかった理由として挙げるのは、賄いの利用度が極めて低かったこと、被告の評判が芳しくなかったことの2点であるが、いずれも具体的な主張がなく、被告に対し問題があると感じた場合に、原告がどのような指導・監督を行い、その結果がどうであったかも不明である。以上によれば、原告が本件更新をしなかった不作為は、期間を定めた契約にしている趣旨を勘案しても合理性を欠いており、解雇の場合であれば解雇無効となるような事情の下でなされた違法なものであるという外ない。したがって、原告は被告に対し、期間満了により雇用契約が終了したとすることはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例736号73頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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