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N銀行整理解雇事件(第2次)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- N銀行整理解雇事件(第2次)
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成10年(ヨ)第21249号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 N銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1999年01月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、東京支店の業務の一部を廃止することとして、これらの業務に従事していた債権者ら3名に対し退職勧奨したところ、原告のみがこれを拒否した。そこで債務者は債権者に対し他の業務への異動を申し入れたところ、債権者は異動については承諾したものの、給与の減額を拒否し、従前の労働条件の維持を主張した。そして債権者の退職に係る組合との交渉が継続する中、債務者は債権者に対し解雇通告をし、平成9年9月30日をもって債権者を解雇した。債権者は、本件解雇は就業規則に根拠のないものであること、整理解雇の4要件をいずれも満たしていないことから、解雇権の濫用として解雇の無効を主張した。
第1次仮処分においては、解雇について規定した就業規則に基づかない普通解雇も可能であるとしながら、本件解雇は整理解雇の1類型であるところ、整理解雇の要件のうち、被解雇者の選定の妥当性、人員削減の手段としての整理解雇の妥当性に欠けるものとして、解雇を無効とし、債務者に対し債権者への賃金の支払いを命じた。 - 主文
- 1 債務者は、債権者に対し、金60万円及び平成11年2月から同年12月まで毎月18日限り金60万円並びに同年6月30日限り金50万円及び同年12月30日限り金50万円をそれぞれ仮に支払え。
2 債権者のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 就業規則に基づかない普通解雇の可否
解雇は本来自由になし得るものであるというべきところ、最高裁判決により、解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合や、一応解雇事由があると認められても当該具体的な事情のもとにおいて解雇に処することが著しく不合理であり社会通念上相当なものとして是認することができない場合には、解雇権の行使は権利の濫用として無効であるというべきである。ところで、本件解雇の理由は、債権者の所属部門の閉鎖による担当業務の消滅であり、この解雇事由は就業規則に定める解雇事由のいずれにも該当しないが、債務者は普通解雇である限りは就業規則に定める解雇事由以外の事由を主張することが許されるべきであると解される。
2 解雇権行使の必要性、合理性について
企業がある部門において発生した余剰人員を削減しようとする場合に、その削減に経営上の必要性、合理性があれば、余剰人員を削減するためにする解雇は一応合理性を有するものと認められる。そして企業が現に倒産の危殆に瀕している場合には余剰人員の削減の経営上の必要性を肯定することができ、また、将来経営危機に陥る危険性を避けるために今から企業体質の改善、強化を図って行う場合も、余剰人員の削減の経営上の必要性を肯定することができる。更に将来においても経営危機が予測されない企業が単に余剰人員を整理して採算性の向上を図るというだけであっても、企業経営上の観点からそのことに合理性が認められるのであれば、その必要性を肯定できる。なぜなら、企業には経営の自由があり、経営に関する危険を最終的に負担するのは企業であるから、企業が自己の責任において企業経営上の必要性の有無を判断するのは当然のことであり、また、その判断には広範な裁量権があるというべきだからである。
ある部門の余剰人員の削減についての経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有すると認められるには、解雇によって達成しようとする経営上の目的と、その達成手段である解雇ないしその結果としての失職との間に均衡を失しないことが必要であると解される。均衡を失していないかどうかは、余剰人員の削減によって達成しようとする経営上の目的との関係で決せられることというべきであるが、将来においても経営危機に陥ることが予測されない企業が単に採算性の向上を図るために行う解雇については、通常は業績の拡大を図ることや今後数年間の自然減を待つことによって余剰人員を吸収すれば、結局は経営上の目的を達成できるのであって、そのような方法による余剰人員の吸収が不可能であるような場合を除いては、目的と手段・結果との間の均衡を欠くというべきである。
本件においては、債務者が東京支店のGTBS部門を閉鎖したのは、具体的な経営危機が想定されたためではなく、資本の効率を高めて収益の拡大を図るためであったと認められ、そのことは企業経営上の観点から合理性を有すると認められる。企業のある部門の余剰人員を他の部門に配転することが可能といえるためには、当該労働者の職種、能力の点で可能であること、その配転によって配転先に余剰人員が生じないことのほか、当該従業員が給与、待遇などの点で従前より不利益な取扱いを受けないことを要すると解するのが相当である。
ところで、東京支店において将来具体的な経営危機が招来されることが想定されていたわけではなかったのであって、GTBS部門の閉鎖によって達成しようとした経営上の目的からすれば、人員削減の方法として他に採り得る方法があるにもかかわらず、解雇という手段を直ちに選択したとすれば、解雇によって達成しようとする経営上の目的と手段ないしその結果との間には均衡が失われているというべきである。債務者は一律に終身雇用制ないし年功序列制を採用していると認めることはできないが、東京支店においては、担当する職務が消滅した場合でも、一般行員の場合は解雇という手段をとらず、希望者には配転などにより長期間にわたって勤務し続けさせていたといえる。債務者は、管理職はその専門的知識や経験などが経営に必要ないと判断されたときには解雇されることがあり得るというが、そうであれば、一般事務職として入行した行員が管理職に昇進するに当たって、管理職になれば以上のような理由で解雇されることがあり得ることを周知徹底すべきところ、そのことは全く窺われない。したがって、東京支店に一般事務職として入行し、その後管理職に昇進した行員が定年まで勤務し続けることが可能であると考えたとしても、それは無理からぬことである。以上を総合考慮すれば、債務者の東京支店に入行しその後管理職に昇進した債権者が定年まで東京支店で勤務し続けることを期待することには合理性があると認められる。
3 人員削減以外の方法の可能性
債務者の東京支店は、現に経営危機に陥っているわけではなく、債権者を雇用し続けることが困難な状況であったとはいえないこと、債権者は既にアシスタントマネージャーとして扱われていたこと等を総合考慮すれば、余剰人員となった債権者についても直ちに解雇せずに、廃止部署以外の部署のアシスタントマネージャーを補佐する形で配置し、今後数年のうちにアシスタントマネージャーの自然減を待つことによっていずれ債権者が余剰人員でなくなることを待ち、数年間が経過した時点でもなお債権者が余剰人員であった場合には債権者を解雇するという方法も採り得たものと考えられる。そうすると、債務者は余剰人員となった債権者について解雇以外の方法があったにもかかわらず、その方法を選択せずに解雇していることに照らせば、本件解雇については、経営上の目的とこれを達成するための手段ないしその結果との間に均衡が失われているというべきであるから、本件解雇は権利の濫用として無効であるというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例782号35頁
- その他特記事項
- 本件は第3次仮処分申請がなされた。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 − 平成9年(ヨ)第21200号 | 一部認容・一部却下 | 1998年01月07日 |
東京地裁 − 平成10年(ヨ)第21249号 | 一部認容・一部却下 | 1999年01月29日 |
東京地裁 − 平成11年(ヨ)第21217号 | 却下 | 2000年01月21日 |