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N銀行整理解雇事件(第3次)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- N銀行整理解雇事件(第3次)
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成11年(ヨ)第21217号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 N銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2000年01月21日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、東京支店の業務の一部を廃止することとして、これらの業務に従事していた債権者ら3名に対し退職勧奨したところ、債権者のみがこれを拒否した。そこで債務者は債権者に対し関連会社への出向を申し入れたところ、債権者は出向については承諾したものの、給与の減額を拒否し、従前の労働条件の維持を主張した。そして債権者の退職に係る組合との交渉が継続する中、債務者は債権者に対し解雇通告をし、平成9年9月30日をもって債権者を解雇した。これについて債権者は、本件解雇は就業規則に根拠のないものであること、整理解雇の4要件をいずれも満たしていないことから解雇無効を主張した。
第1次仮処分においては、解雇について規定した就業規則に基づかない普通解雇も可能であるとしながら、本件解雇は整理解雇の1類型であるところ、整理解雇の要件のうち、被解雇者の選定の妥当性、人員削減の手段としての整理解雇の妥当性に欠けるものとして解雇を無効とし、債務者に対して債権者への賃金の支払いを命じた。
また、第2次仮処分においては、ある部門の余剰人員の削減に経営上の必要性と合理性が認められる場合は、解雇は一応合理性を有する旨判断し、部門の閉鎖によって余剰人員となった債権者を配転することはできなかったとして、一応債権者の解雇に経営上の必要性を肯定しつつも、債権者が定年まで勤務し続けることを期待することには合理性があり、債務者は解雇以外の方法があるにもかかわらず解雇に及んだのは、経営上の目的達成と手段との均衡を失し、合理性を認めることはできないとして、本件解雇を無効とした。 - 主文
- 1 債権者の申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 就業規則に基づかない普通解雇の可否について
就業規則29条には、解雇事由が列挙されているが、それらはいずれも従業員の職場規律違反行為、従業員としての適格性の欠如等、従業員に何らかの落ち度があることを内容とすることが認められ、債権者について右の列挙事由に該当する事実はない。しかしながら、普通解雇については解雇自由の原則が妥当し、ただ解雇権の濫用に当たると認められる場合に限って解雇が無効になるというものであるから、使用者は、就業規則所定の普通解雇事由に該当する事実が存在しなくても、客観的に合理的な理由があって解雇権の濫用にわたらない限り雇用契約を終了させることができる。
2 解雇権の濫用について
債務者GTBS部門の閉鎖は、リストラ(事業の再構築)の一環として行われたものであるところ、このような事業戦略にかかわる経営判断は、それ自体高度に専門的なものであるから、基本的に、株主によって選任された執行経営陣等の決定を尊重すべきものである。そしてリストラを実施する過程においては、人材への需要が新たに生まれる一方、余剰人員の発生が避けられないものであり、この間の労働力の需給関係は必ずしも一致するとは限らないから、企業において余剰人員の削減が俎上に上ることは、経営が現に危機に陥っているかどうかにかかわらず、必然ともいえる。
他方、余剰人員の削減対象として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活維持に重大な支障を来すことは必定であり、特に景気が低迷している昨今の状況、終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、雇用の流動性を前提として社会基盤が整備されているとはいい難い今日の社会状況に照らせば、再就職にも相当な困難が伴うことが明らかであるから、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的と考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について当該労働者の納得を得るための説明を行うなど、誠意を持った対応をすることが求められるものというべきである。いわゆる整理解雇の4要件は整理解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。
GTBS部門の閉鎖により債権者が従前就いていたアシスタント・マネージャーのポジションが消滅するにもかかわらず債権者との雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま継続するためには、債権者を他の管理職に配転する必要があったが、これらのポジションに就いている者はいずれも、専門知識・能力を有するものと評価された結果として就いており、債務者が近い将来において新たな管理職のポジションの設置を予定していたとしても、債権者の従前培ってきた経験・技能とは異なる知識・能力を必要とするポジションであり、債権者がそれらを十分に有しているとは認められないから、結局債権者を配転させ得る管理職のポジションはなかったものといわざるを得ない。以上によれば、債務者としては、債権者との雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま他のポジションに配転させることができなかったのであるから、債権者との雇用契約を継続することは現実的には不可能であったということができ、したがって、債権者との雇用契約を解消することには、合理的な理由があるものと認められる。
3 雇用契約解消後の債権者の生活維持等に対する配慮
債務者は、債権者に雇用契約解約の申入れを行った際、就業規則所定の退職金800万円余に1800万円以上上乗せした退職金を支払っているが、これは債権者の年収1052万円余に照らし、相当な配慮が示された金額であるといえる。しかも債務者は、就職斡旋会社のサービスを受けるための金銭的援助を再就職先が決まるまでの間無期限で行うことも約束していることからすれば、債務者は、雇用契約終了後の債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をしたものと評価できる。
債務者は、経理部のクラークのポジションを年収650万円で債権者に提示したが、当時債権者の賃金水準を維持したままで提供できるポジションがなかったにもかかわらず債権者の雇用継続の希望に応ずるために提案したものであること、このポジションには当時年収450万円の契約社員がおり、十分な仕事をし、かつ退職の予定がなかったにもかかわらず、同契約社員を解雇してまで債権者にこのポジションを与えるべく提案したものであること、年収650万円はこのポジションの市場価格としては最高限度額と認められること、更に債務者は、賃金減少分の補助として退職後1年間については200万円を加算する提案もしたこと、加えて債務者は、債権者及び組合との間で、債権者の処遇について7回、3ヶ月余りにわたって団交を行い、雇用契約を解消せざるを得ない事情について繰り返し説明を行ったこと等の経緯からすると、債務者はできる限り誠意をもって債権者に対応したものといえる。
3 結論
以上の通り、債権者との雇用契約を解消することには合理的な理由があり、債務者は債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても債権者に繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること、その他諸事情を併せ総合考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえず、本件解雇は有効である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例782号23頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 − 平成9年(ヨ)第21200号 | 一部認容・一部却下 | 1998年01月07日 |
東京地裁 − 平成10年(ヨ)第21249号 | 一部認容・一部却下 | 1999年01月29日 |
東京地裁 − 平成11年(ヨ)第21217号 | 却下 | 2000年01月21日 |