判例データベース
S銀行整理解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- S銀行整理解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成11年(ヨ)第10060号
- 当事者
- その他債権者 個人2名A、B
その他債務者 銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1999年09月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、シンガポール共和国に本店を置く銀行であり、債権者らは債務者大阪支店に勤務する女性従業員である。
債務者は、平成11年3月4日、債権者を含む大阪支店従業員に対し、同年6、7月頃に大阪支店を閉鎖すると発表し、同年4月5日、(1)大阪支店全従業員に対し、希望退職に応じる旨の要請、(2)希望退職を募る条件として、就業規則の「自己都合以外の退職」の欄の退職一時金を支払う、(3)追加退職金として、平成11年6月1日時点における基本給及び職務手当の各6ヶ月分を支給する、との提案をした。
その後、債権者らとその所属組合は、東京支店への配転を求めて債務者と数度交渉を行ったが、債務者は追加退職金を6ヶ月上乗せすること、転職斡旋会社の費用を負担する等の提案はしたものの、配転には応じなかった。債務者は、大阪支店の従業員6名中4名が希望退職パッケージに応じる中で、債権者ら2名が希望退職パッケージに応じなかったため、債権者らを同年6月15日付けで解雇した。そこで債権者らは、本件解雇が解雇権の濫用であり無効であると主張し、債務者に対して従業員の地位保全並びに未払い及び将来分の賃金の仮払いを求めた。 - 主文
- 判決要旨
- 1 解雇回避努力義務
解雇が、被解雇者の生活に重大な影響を与えるものであることから、雇用者である債務者には、信義則上、人員整理をするに際しては、配転や希望退職の募集などの他の手段による解雇回避の努力をする義務があるとするのが相当である。
債権者らはいずれも大阪支店で採用された者であるが、就業規則上転勤を命ずる規定があり、雇用契約書上も就業規則に従うことが記載されていること、債権者らはいずれも東京支店への転勤を希望していたことからすれば、債務者が債権者らに対し東京支店への転勤を命ずることは可能であった。また、大阪支店の業務は東京支店へ移管されており、債権者らには幅広い業務経験があることから、東京支店においても十分に業務に従事し得たものであって、大阪支店副支店長も「部署は作ろうと思えば作れる」と述べており、それにもかかわらず、債務者は大阪支店閉鎖決定後、転勤不可との態度に終始していたものである。債務者は、平成6年以降平成10年までは、数名単位の新規採用を行っており、本件解雇に先立って東京支店で希望退職を募っていない。以上の諸事情を考慮すれば、債務者が本件解雇に際して、解雇回避のための真摯かつ合理的な努力を行ったとまでは認められないから、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
債務者は、東京支店と大阪支店は別個独立の採算体制をとっており、人事採用方法や給与体系も別であること、東京支店の従業員を辞めさせてまで、大阪支店の従業員の雇用を確保すべき必要はなく、仮に退職者がいたとしても東京支店の余剰人員を吸収するのが精一杯であること、更に債権者らを東京支店に配転した場合、家賃、帰郷旅費等の高い負担をしなければならないことから、東京支店において希望退職を募る必要性はなく、十分な内容の希望退職パッケージを提案することで解雇回避努力義務は十分尽くしていると主張する。しかし、過去東京支店から大阪支店へ転勤となった者がいたことに照らせば、債権者らの東京支店への転勤を妨げる事情とはいえず、債権者らを転勤させたとしても直ちに債務者にその経営上特段の不利益になるとはいえないから、東京支店における希望退職の募集も含めて、債務者としては債権者らの転勤の実現に向けて真摯に努力すべきであったといえる。債権者らの退職を前提とした希望委退職パッケージの提案を行ったのみでは、真摯かつ合理的に解雇回避努力義務を尽くしたとは到底評価できない。
2 金員の仮払いの必要性
債権者両名ともその収入により家族の生活を支えており、いずれもその収入がなければ生活が苦しいこと、債務者から、債権者Aについては、給料の約7ヶ月分に相当する金員が、債権者Bについては給料の約10ヶ月分に相当する金員がそれぞれ支給されていること、さらに本案の平均的な審理期間を約1年として、これらの事情を総合考慮するならば、本案判決言渡しまでの金員の仮払いについては、平成11年10月から、債権者Aについては毎月10万円、債権者Bについては毎月13万円とするのが相当である。
債務者は、債権者Bについて1年間の無給の育児休暇を取得予定であったから、保全の必要性は存しないと主張するが、右育児休暇については、そもそもその取得の有無や期間が確定していたわけではないこと、休暇中の給料の支給の有無について組合との交渉事項であったことなどに照らせば、現在育児休暇中が無給であることをもって直ちに保全の必要性がないとはいえない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例778号84頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 平成11年(ヨ)第10060号 | 一部認容・一部却下 | 1999年09月29日 |
大阪地裁 - 平成11年(モ)第57026号 | 取消 | 2000年05月22日 |
大阪地裁 − 平成11年(ワ)第12411号 | 棄却 | 2000年06月23日 |