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Z航空会社退職強要控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
Z航空会社退職強要控訴事件
事件番号
大阪高裁 - 平成11年(ネ)第3716号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 航空会社
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年03月14日
判決決定区分
原判決変更(認容額等変更)・一部棄却(上告)
事件の概要
 控訴人(第1審被告)の客室乗務員であった被控訴人(第1審原告)は、昭和48年から18年以上勤務していたが、タクシーで勤務に向かう途中の事故で労災認定を受け、約4年間休業及び休職をした。その後復職に際し復職訓練をしたところ、3回とも不合格と判定され、その間控訴人は被控訴人に対し仕事を与えず、30数回の面談を行って退職を迫り、3回目の訓練が不合格になった後に労働能力の低下などを理由に、就業規則に定める解雇事由「労働能力の著しく低下したとき」に該当するとして被控訴人を解雇した。これに対し被控訴人は、本件解雇の違法無効を主張するとともに、控訴人の退職強要により人格権が侵害され著しく精神的苦痛を蒙ったとして、慰謝料1000万円、弁護士費用100万円を控訴人に対し請求した。

 第1審では、被控訴人には就業規則の解雇事由に該当するような著しい労働能力の低下は認められず、解雇には合理的理由がなく、解雇権の濫用であるとして本件解雇を無効とした。また、被控訴人に対する上司の態度は社会通念上許容し得る範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為に当たるとしたが、被控訴人は退職しておらず、被控訴人の態度が上司の言動を誘発した面もあるとして、慰謝料50万円の支払いを命じた。この判決に対し、控訴人は敗訴部分の取消しを求めて控訴し、被控訴人は慰謝料の額を不服として附帯控訴を行った。
主文
1 原判決の主文第三ないし第五項を次の通り変更する。

一 控訴人は、被控訴人に対し、毎月25日限り、平成8年3月は47万5109円、同年4月から同年10月までは毎月37万2500円、同年11月から平成9年3月までは毎月38万円、同年4月から平成10年3月までは毎月38万7152円、同年4月から平成11年3月までは毎月39万1187円、同年4月から本判決確定までは毎月39万3858円の各金員及び右各金員に対する各支払日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 控訴人は、被控訴人に対し、当判決の別紙請求金目録(2)の(1)ないし(8)記載の各金員及び右各金員に対する同目録(2)の(1)ないし(8)記載の各支払日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三 控訴人は、被控訴人に対し、金90万円及びこれに対する平成8年10月29日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

四 被控訴人のその余の請求を棄却する。

2 原判決の主文第1項についての被控訴人の附帯控訴並びに原判決の主文第2項及び第4項についての控訴人の控訴は、いずれもこれを棄却する。

3 訴訟費用は、第1・2審を通じて、これを10分し、その3を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

4 この判決は、第1項一ないし三に限り、仮に執行することができる
判決要旨
 本件において、被控訴人には、就業規則の解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当するような著しい労働能力の低下は認められないし、また、就業規則が規定する解雇事由に「準じる程度のやむを得ない理由があるとき」に該当する事由も認めることはできない。被控訴人の受傷後の経過、特に控訴人が平成7年5月頃以降被控訴人に対して執拗に退職を求めるようになった事実と併せ考えると、控訴人は、被控訴人の休業期間が長期化したこと、休業に関する手続きをめぐっての控訴人の担当者と被控訴人との折衝経過などから、被控訴人を退職させる方針を固め、そのために被控訴人に対する復帰者訓練の評価も特に厳しくなされたのではないかとの疑いも否定できないというべきである。以上によれば、本件解雇は就業規則に規定する解雇事由に該当しないにも関わらずなされたものであって、合理的な理由がなく、解雇権の濫用として無効というべきである。 

 被控訴人に対する控訴人の対応を見るに、その頻度、各面談の時間の長さ、その言動は、社会通念上許容し得る範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となるといわざるを得ない。被控訴人は、結局、控訴人に対して退職届を提出するには至らず、控訴人のなした解雇も、判決によってその効力を否定されたこと、被控訴人の側にも、控訴人からの連絡を避けるなど、担当者の言動を誘発したとも考えられる対応があったことなど、本件に現れた諸般の事情を総合すると、控訴人の不法行為によって被控訴人が受けた精神的損害に対する慰謝料としては80万円が相当であり、また弁護士費用は10万円をもって相当とする。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例809号61頁
その他特記事項
本件は上告された。