判例データベース
K社女性生コン運転手解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- K社女性生コン運転手解雇事件
- 事件番号
- 鹿児島地裁 − 平成10年(ワ)第726号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年11月19日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被告は生コンクリートの製造販売等を目的とする株式会社であり、原告は平成8年1月被告に雇用され、大型ミキサー車の運転手として勤務していた女性である。
被告は、会社設立以降赤字決算が続き、経営状態は極めて悪く、人員削減を含めた事業縮小・合理化以外に倒産回避の方法はないとして、平成10年2月27日、原告ら4名に対し解雇予告を行った。その後の交渉で、原告以外の3名は解雇を受け入れたが、原告は復職を希望し、被告との話し合いが決裂したことから、被告は原告を同年3月31日付けで解雇した。
これに対し原告は、(1)被告が生コン運転手として多数のアルバイトを入れたりしていることから、人員削減の必要性はなかったこと、(2)原告らは労働条件変更に対し被告と交渉を持ち、その際最も活発に発言したのが原告を含む本件解雇の対象者であったから、(3)本件解雇は不当労働行為に準ずる違法・無効なものであること、本件解雇は事前に希望退職の募集等の解雇回避努力がされていないこと、(4)原告は平成9年12月から股関節痛、血尿等により治療中であり、これらは女性生コン運転手の一種の職業病に当たるところ、この治療中の解雇は労働基準法19条1項の規定からみて違法・不当であることを主張し、解雇の無効による従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が、被告との間に雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成10年4月1日から毎月末日に金19万6292円を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 この判決は、第2項及び3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 企業は、一定の経営判断に基づいて人員の削減を図るいわゆる整理解雇も本来自由になし得るところである。しかし一方で、整理解雇は、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、その生活・経済基盤を一方的に奪うものであるから、その経営判断にも一定の制約があって然るべきであり、被告の就業規則においても「事業の縮小、変更、廃止に伴う業務上の都合による場合」「その他前各号に準ずるやむを得ない理由がある場合」と自ら一定の制約を定めているところである。そして整理解雇が有効とされるためには、(1)人員整理の必要性があるか、(2)整理解雇対象者の選定基準及び基準の適用に客観的合理性があるか、(3)整理解雇を回避するための努力が尽くされているかなどの諸事情の存否を総合検討し、かつ、企業の規模、人員削減の必要性の程度、労働者の職種等の事情を勘案して判断するのが相当というべきである。
1 人員削減の必要性について
被告は、生コン業界全体の不況の下、経営が厳しい状態にあったことは否定できないところであるが、被告の売上げ損益自体は黒字が続いており、それにもかかわらず当期損失を計上し続けたのは、被告が本件解雇に至る前に行うべき経営努力を怠ったのではないかと考えられるところである。そして被告の設立の経緯やグループ内における位置づけからして、被告が平成10年2月当時、経営的に高度の危機下にあり、人員整理をしなければ倒産必須の状況であったとまでは認めることはできない。被告は平成8年頃までは赤字状態を脱却するための積極的姿勢をとっておらず、平成9年以降いわゆる金融機関の貸渋りによって資金繰りが困難となり、急遽即効的な対応をしたという面があり、他に取り得る経費削減策を十分検討・実行することなく本件解雇が実行された面があるといわざるを得ない。
2 人選基準及びその適用の合理性について
整理解雇者の人選については、当該企業の個別・具体的事情ないし状況に応じて異なるものであり、第一次的には企業側が自己の判断と責任に応じて諸般の事情を考慮して決するものというべきであり、人選の基準が不合理かつ恣意に基づくものであると判断されるような場合でない限り、合理性の判断においては企業側の裁量を尊重するのが相当というべきである。被告は、解雇対象者の選定基準を、欠勤、遅刻及び早退の頻度、勤務状況並びに経験年数、健康状況等を基準とし、原告の出勤状況及び健康面の不安等に照らし、原告を解雇対象者に選定したことが認められるところ、右選定基準そのものを不合理かつ恣意的であるということはできない。しかしながら、原告の欠勤は25回と全従業員の仲で最も多いとされるが、これは有給休暇と振替え休日の合計数であり、労働者に認められた年休の権利を労働者に不利に斟酌することは適当でないし、振替え休日の多さ自体を不利に斟酌することには疑問を呈さざるを得ない。また、股関節痛及び血尿による健康状態の不安も、女性生コン運転手の一種の職業病的な側面があることは否定できず、解雇の理由についてこれを正面から考慮することにも躊躇せざるを得ない面がある。原告ら生コン運転手は、平成9年7月頃、営業手当の廃止を巡る工場長との話し合いの席で、「会社の赤字は経営者が悪いのでは」などと述べたことが認められるが、被告が原告のこの発言を捉えて解雇対象としたとまで断ずることはできない。
3 解雇回避措置について
解雇回避措置は、労働契約上の信義則から要請されるものであるが、その程度は、ありとあらゆる解雇回避措置を取るべきことが義務付けられるというものではなく、その当時の会社の置かれた状況下において信義則上相当の経営上の努力をすれば足りるものというべきである。これを本件についてみると、生コン運転手については原告以外の者が解雇に応じていることから、更に原告に対する人員整理の必要性が緊急かつ高度であったとまでは認め難いこと、被告のとった経営合理化策は必ずしも十分なものであったとはいえず、他にとるべき手段も残されていたこと、更に被告が人員整理方針を立ててから4ヶ月後という短期間に本件解雇はなされており、その間に退職勧奨、希望退職の募集など明確な解雇回避措置が講ぜられたことは一切なく、また賃金カット、時間短縮等の人件費削減については、従業員らも被告の窮状を察しこれに協力する姿勢で応じてきたと認められること、そして解雇に至る経過を見る限り、本件解雇は労働者側からみて唐突で予期し得ないものであったことは否めず、労使間の信義に則ってなされたとはいい難いことなどからすれば、本件解雇は、信義則上相当の解雇回避努力を尽くしたとは認められないといわざるを得ない。
4 結論
以上の通り、本件事実関係の下においては、解雇回避措置が取られておらず、また、人員整理の必要性及び原告の人選方法にも疑義を差し挟まざるを得ないこと等を総合考慮すれば、就業規則所定の「事業の縮小、変更、廃止に伴う業務上の都合がある場合」「その他前各号に準ずるやむを得ない理由がある場合」に該当するとしてなされた本件解雇は、解雇権の濫用であって無効というべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例777号47頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|