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北海道交通事業協同組合整理解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 北海道交通事業協同組合整理解雇事件
- 事件番号
- 札幌地裁 - 平成11年(ワ)第1411号
- 当事者
- 原告個人1名
被告北海道交通事業協同組合 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年04月25日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、一般乗用旅客自動車運送事業を営む法人を組合員とした協同組合であり、原告は、昭和48年3月、被告に雇用され、経理事務、一般事務、電話交換、無線センター業務などに従事してきた女性である。
被告は、平成7年3月、原告を含めた40歳以上で10年以上勤務している女性従業員11名の解雇を通知したが、原告のみ退職を拒否したことから、給与を減額した上で原告を無線センターに配転した。平成10年7月、無線センターに衛星通信回線を利用したGPSシステムが導入され、無線による配車作業が不要になったことから6名の余剰人員が発生した。そこで被告は定年間近の職員1名、電話の応対が良くなかった職員4名と地図検索・作成能力の劣る原告の計6名に退職勧奨したところ、原告のみが退職を拒否したため、原告の仕事がなくなったこと、原告は運転免許がないため乗務員にすることもできないことを告げて、平成11年2月28日をもって原告を解雇した。
原告は、本件解雇は就業規則の解雇事由である「事業の縮小、廃止、その他止むを得ない事業の都合により剰員になったとき」に該当しないことを主張した上で、整理解雇の要件である(1)人員整理の必要性は企業の存続が危うい程度に差し迫ったものでないこと、(2)原告は各種事務を担当する事務員として雇用されたものであり、無線事務のみの担当でも、乗務員として雇用されたものでもないこと、(3)被告は合理化によって得る収入により減員対象者を他の部門で吸収できるか否かも検討せず、解雇回避の努力を尽くしていないこと、(4)人員整理を進めるに当たっては、労働者に対しその必要性について納得させ、理解と協力を求めるという信義則上当然に要求される義務を被告は履行せず、解雇手続きの相当性、合理性の存否を満たしていないこと、(5)他の男性職員は乗務員として配転されたのに、原告についてのみ退職が強要されたのは原告が女性であることを理由とする差別的取扱いであることから、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張し、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 本件解雇は、被告の就業規則の「事業の縮小、廃止、その他止むを得ない事業の都合により剰員になったとき」に基づくものであるから、いわゆる整理解雇の性質を有するものと認められる。そして、整理解雇は労働者の責めに帰すべき事由がなく使用者側の都合による解雇であるから、人員整理をする経営上の必要性、被解雇者の選定の合理性、解雇回避の努力を尽くしたか否か、解雇手続きの妥当性などの諸事情を総合考慮して、整理解雇をする相当の理由がない場合には、解雇権の濫用として許されないと解すべきである。
これを本件についてみると、(1)人員整理の必要性については、経営者の合理的な判断に基づく裁量が認められるべきであり、タクシー業界の規制緩和・自由競争に備えて生産性を上げるためにGPSシステムを採用することは企業経営上合理的なものと認められるし、同システムの採用によって無線センターの職員を余剰人員として整理する経営上の必要性・合理性は肯定できる。(2)余剰人員の選定についても、他の職員に比べて地図検索能力に問題があった原告を選定したことに合理性がなかったとはいえない(原告が女性であることを理由とした選定とは認められない)。(3)原告は運転免許証がないから乗務員に配転することはできないし、原告を配転すべき事務職を見出すことはできず、原告の家庭状況(解雇による不利益は一家の支柱や幼い子供のいる者より少ないこと)も考慮した上、原告を解雇するとした被告の判断が不当・不合理であるとはいい難い。(4)被告の経営状況は、原告を解雇しなければ倒産が必至であるものではないことは認められるが、だからといって、配転すべき適当な職種がないにもかかわらず、余剰になった人員の雇用をなお継続することを法的に強制・要求することはできず、一時帰休や希望退職の募集の手段をとらなかったことをもって、解雇回避の努力を尽くしていないと評価することもできない。(5)被告の就業規則や労働協約において、いわゆる人事同意約款があるとは認められないし、本件解雇に当たり、原告所属の労働組合との団体交渉をしなかったことをもって整理解雇の手続きの妥当性を欠くと評価することはできず、本件解雇を無効とするだけの手続き違背があるとは認められない。(6)その他、本件解雇が女性故の差別であるとは認められないし、平成7年3月の解雇・配転をもって本件解雇が無効になるとの理由もない。
以上から、本件解雇は、被告の就業規則所定の理由があり、整理解雇として合理的な理由を欠き相当でないとすることはできず、解雇権の濫用とは認められない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例805号123頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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