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K信販会社整理解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- K信販会社整理解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成12年(ワ)第8149号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 K信販株式会社
被告 個人2名A、B - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年07月09日
- 判決決定区分
- 一部却下・一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告会社は、割賦販売斡旋などを目的とする会社であり、被告Aは被告会社の代表取締役社長、被告Bは専務取締役である。原告は、平成10年8月17日、被告会社にアルバイト時給社員として期間の定めなく採用された女性である。
被告会社は、合理化のためということで旅行事業部を廃止したが、同部に所属していた原告については配転する余地はないとして、解雇予告手当を支払った上で、平成11年10月20日をもって解雇した。これに対し原告は、被告会社は旅行事業部、会社全体とも黒字を計上しており、人員整理の必要はなく、旅行事業部長Mが管理職ユニオンに加入して交渉を求めるようになったことを契機として、原告とMを排除するために旅行事業部を他社に譲渡して解雇したものであるから、労働組合に加入したことを理由とする不利益取扱いとして不当労働行為に当たり、本件解雇は無効であると主張した。また原告は、被告AがMと原告がアメリカツアーに同行したことを捉えて、2人は男女関係にあると虚偽の噂を流し、被告Bもこの噂をやめさせなかっただけでなく、かえってこれを原告の問題として取り上げたこと、平成11年5月31日にMを解雇した後、原告に仕事を与えず、外出を禁止し、狭隘なスペースに机を配置替えするなど一連のいじめによって、うつ病の診断を受けるなど精神的苦痛を受けたことを挙げ、被告らに対し500万円の慰謝料を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求中、被告会社に対し平成12年2月20日まで雇用関係上の権利を有する地位にあることの確認を求める部分を却下する。
2 被告会社は、原告に対し、112万2128円及びこれに対する平成12年4月28日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、182万7600円及びこれに対する平成12年4月28日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
6 この判決は、第2、3項について、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件解雇の効力
被告会社は、旅行事業部は慢性的に赤字体質であったから、その廃止は合理的運営のために必要不可欠であったと主張するが、資料による裏づけはなく、旅行事業部の売上額は増加しており、同部の経営不振を窺わせる記載はない。したがって、被告会社の主張はそのまま採用することはできないし、仮に旅行事業部を廃止すべき必要性があったとしても、高度の必要性があったとまではいえない。そして被告会社は、本件解雇の直近の第14期においては、会社全体でみれば業績は好調であり、従業員3名を増員しており、仮に旅行事業部を廃止したとしても、これによる余剰人員を他の部門で吸収する余地がなかったとはいえないから、人員削減をすべき経営上の必要性が大きいとはいえない。しかし、被告会社は、原告の配転可能性を検討したことはなく、原告に配置転換を提案したこともなかった。被告Aは、旅行事業部の他の従業員と同様、原告に再就職の斡旋のため面談を申し出たが拒否されたと供述するが、判然としない上、原告の解雇に関する団体交渉に応じなかったこと、旅行事業部の廃止に先立ち原告のみ他の従業員より早く解雇しており、原告を他の従業員と同等に処遇する意思があったとはいえないことからすると、採用することはできない。また、被告会社が人件費及び諸経費を削減するための努力をした形跡はなく、役員に対する高額の報酬の支給を続けていたことからすると、被告会社が本件解雇を回避するための努力を十分に尽くしたとはいえない。更に、被告会社は、原告及び労働組合との間で本件解雇について十分な説明や協議をしたとはいえないから、本件解雇は、原告が時給社員であり正社員とは立場が異なるという被告会社の主張を考慮しても、客観的合理的理由を欠くものであるから、解雇権の濫用として無効である。
2 被告らの不法行為又は債務不履行責任の有無
被告らの原告に対する一連の行為は、その経緯に照らすと、原告を被告会社の中で孤立化させ、退職させるための嫌がらせといわざるを得ず、Mが懲戒解雇された以降はその傾向が顕著に現れている。そして、程度の差はあれ、このような嫌がらせが原告の入社後間もないころから本件解雇の直前まで長期間にわたり繰り返し行われたこと、被告会社の代表者であった被告Aと被告Bは当初からこのような事実を知りながら特段の措置をとらなかったこと、一部の行為は業務命令として行われたことからすると、これらの行為は、いずれも被告A及び被告Bの指示ないしその了解に基づいて行われたものというべきであるから、被告Aと被告Bは、それぞれ民法709条の不法行為責任を負う。そして、これらの不法行為は、被告Aと被告Bの代表者としての職務執行と密接な関係があるから、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項に基づき損害賠償責任を負う。
3 損害額
原告は、再び内勤業務となった平成11年6月から食欲不振や不眠を訴えるようになったこと、精神的ストレスから同年7月8日に全身にじんましんが出たこと、その後も食欲不振や不眠の症状は改善せず、うつ病との診断を受けたこと、その後も数ヶ月にわたり医師によるカウンセリングを受けたこと、本件解雇により事実上退職を余儀なくされたことが認められる。これらの事情及び本件に現れた諸般の事情を考慮すると、原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は150万円が相当である。
原告は、被告会社内における一連の嫌がらせにより精神的ストレスが蓄積し体調を崩していたこと、当時の被告会社の職場環境は原告が正常に労務を提供することができる状態にはなく、被告会社は職場環境の改善のための措置を取らなかったことからすると、原告の欠勤と被告らの不法行為との間には相当因果関係があると認められる。 - 適用法規・条文
- 民法709条、44条1項
商法261条3項、78条2項 - 収録文献(出典)
- 労働判例836号104頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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