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宝林福祉会調理員解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
宝林福祉会調理員解雇事件
事件番号
鹿児島地裁 - 平成14年(ワ)第1152号
当事者
原告 個人1名
被告 社会福祉法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年01月25日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、身体障害者療護施設、保育所などの経営を行う社会福祉法人であり、原告は平成12年6月1日に被告に採用され、身体障害者療護施設の調理員として勤務していた女性である。

 社会福祉事業法等の改正により、平成15年4月から従来の措置制度が利用制度に変わり、行政から支給される費用も措置費から支援費へと変更されることになることに伴い、被告は平成14年6月、入所者へのサービスの向上、経営の効率化を図るために給食業務の外部委託を決定し、原告を含む全調理員に対し、被告を退職した上で、従来通りの労働条件で受託業者に再就職することを求めた。原告以外の調理員5名は同意書に署名して、委託業者に就職したが、原告のみこれを拒否した。原告は、これまで受けていたいじめを中止することを求め、原告が所属する医労連と被告との団交の中で、被告の職員として雇用を継続するよう要求したが、被告は同年8月1日から給食業務を外部委託することにより調理業務を必要としないこと、原告を配転する余地はないことを挙げて、同年7月31日付けで原告を解雇した。

 そこで、原告は、本件解雇は整理解雇4要件のどの要件も満たしていないから、解雇権の濫用であり、本件解雇はいじめ及び不当労働行為に基づくものであることから無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金・賞与の支給を求めた。
主文
1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、平成14年9月から本判決確定の日まで、毎月末日限り金13万3758円を支払え。

3 被告は、原告に対し、平成14年9月から本判決確定の日まで、毎年3月末日限り金36万0627円、毎年6月末日限り金28万4829円及び毎年12月末日限り金36万を628円を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 この判決は、第2、第3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 整理解雇の有効性

 整理解雇は、使用者側の経営上の理由のみに基づいて行われるものであり、その結果、何ら責められる事情のない労働者の生活に直接かつ重大な影響を及ぼすものであるから、解雇権の行使も一定の制約を受けるというべきであり、これが有効か否かについては、(1)経営上解雇する必要があること、(2)使用者側が解雇を回避するために相当な努力をしたこと、(3)選定基準が合理的であって、被解雇者の人選が合理的であること、(4)解雇に至る過程で労働者や労働組合と十分協議を尽くしたことの、いわゆる整理解雇の4要件の該当性の有無、程度を総合して判断すべきである。

2 本件整理解雇の必要性

 平成15年4月より、従前の措置費制度から支援費制度への移行により、従前よりも収入が減少し得ることが予想されることから、本件解雇当時、被告が何らかの経費節減策を採る必要に迫られていたことが認められる。ところで、給食業務を全面的に外部委託している施設の割合は増加しており、本件施設等でも適切な委託をすることにより、食事レベルの向上、衛生面での管理の徹底、コスト管理の充実等のメリットが得られるものと思われることからすれば、本件解雇当時、被告が経費節減、サービスの質の向上を図るため、給食業務の外部委託を採用したこと自体については、一定の合理性が認められる。しかしながら、整理解雇の必要性については、個別具体的な事情の下、被告の経営上本件解雇を行う必要が存するか否かにより判断しなければならないのであり、被告による給食業務の外部委託が合理性を有することをもって直ちにそれに伴い廃止される調理部門の職員が余剰人員となり、整理解雇の必要性も認められるとすることは許されない。

 被告は、本件解雇直前の13年度決算において、3施設すべて黒字決算であり、経営的に逼迫していたとの事情は窺われない。確かに、整理解雇の必要性については、黒字決算であることが直ちにこれを否定することにはつながらないが、解雇以外の経営合理化策については格別、将来の収入減を見込んで積極的に解雇にまで踏み切る必要があったかについては疑問が存する。また、解雇された職員は原告のみであるから、原告を解雇する経営上の必要性を検討する必要性があるところ、給食業務の外部委託の結果、原告以外の全調理員(5名)は、給食業務委託業者へ転職することに既に同意していたこと、被告経営の2施設では計3名定員を上回る職員がいたものの、1施設では1名定員を下回っていたことからすれば、余剰となった調理員が原告1名のみになったこの段階において、更に人員を整理する必要があったのか疑問が存する。したがって、本件解雇当時、被告が何らかの経費削減策、サービス向上策を採る必要に迫られていたことを考慮してもなお、本件解雇を行う必要が存したと認めるには足りない。

3 解雇回避努力

 被告は、本件解雇を行うに際し、職員の出向、希望退職者の募集、役員その他の職員の減棒を全く実施していない。本件解雇は原告1人であるから、本件解雇を回避する措置の1つとして非常勤職員、パート職員の希望退職募集等を実施すべきではなかったかとの疑問も存するし、正職員であった原告につき異動等を実施することが不可能であったとまでは認められない。更に、給食業務の外部委託後の平成15年度の給食費は減少したものの、人件費、業務委託費はそれぞれ増加していることからすると、被告は本件解雇を実施するに当たり、これを回避するために当然行うべき解雇以外のコスト削減策を検討していないか、検討が不十分であるとの疑いが存し、本件外部委託がサービス向上に資する可能性を強調したとしても、この疑問を否定するには足りず、被告が解雇を回避するために相当な努力をしたと認めるには足りないというべきである。

4 人選の合理性

 本件外部委託により被告の調理部門は廃止されたのであるから、受託業者への再就職を1人拒否した原告につき整理解雇を実施せざるを得なかったとの被告の主張は、人選の合理性との観点からは、合理性を有するようにも思われる。しかしながら、かかる被告の再就職要請は、調理員らに対する退職勧奨であると評価されるところ、本来、原告が退職勧奨に応ずるか否かはその自由意思に委ねられているのであり、これに応ずる義務は当然存しない以上、当該勧奨を拒絶したことをもって整理解雇基準(人選)の合理性を満たすとすることは許されない。また、栄養士らが原告に対し他の調理員に比し過重なメニューを課し、注意・指導も行わなかったとする同僚調理員の証言もあり、これが原告主張のいじめに該当するかは格別、原告が他職員に比し、経験・能力等の面で特に劣っていたと認めるには足りない。しかも、本件解雇当時、本件施設等には複数の非常勤職員、パート職員が在籍していたのであり、正社員である原告がこれらの者に先立って解雇されるべき事情は認められない。よって、本件解雇につき、被解雇者の人選が合理的であると認めるには足りない。

5 解雇手続きの妥当性

 被告は、本件外部委託を実施するに当たり、全調理員に対し書面で退職を求める一方、委託業者に転職を紹介し、原告以外の調理員は同意書を提出している。更に被告は、原告については、医労連と退職勧奨後にも団体交渉を行っていることからすれば、給食業務の外部委託については、全調理員に対し、ある程度、その必要性を説明し、理解を求めたと認められる。しかしながら、他方で被告は、団交において医労連が原告の働き続ける意思を伝えたにもかかわらず、医労連に伝えぬまま原告に対し退職の同意を求める書面を原告に交付しており、団交の席で検討結果を平成14年7月1日に回答すると約束しながら、同日突如として原告を解雇通知をしている。また、原告、医労連に外部委託について説明したのは同年6月10日であるにもかかわらず、それから1ヶ月も経過しない7月1日に原告に解雇通知しており、その間団交が行われたのは2回のみである。したがって、外部委託に伴う退職勧奨につき、被告がある程度、調理員らにその必要性を説明し、理解を求めていたことは認められるものの、退職を拒否した原告、医労連らに対し、十分に説明・協議を尽くしたとまではいえないというべきである。

 退職勧奨に応ずるか否かは原告の自由意思に委ねられており、これを拒絶しても退職を強要されるものではないから、仮に被告が退職勧奨につき、原告・医労連らに対して十分に説明・協議を尽くしたと認められる場合であっても、それだけでは足りず、少なくとも、あくまでも退職を拒否した場合には整理解雇に踏み切る可能性があることまで説明し、これについても協議を尽くしたと認められることが必要というべきである。したがってこの点からしても、本件解雇は、原告・医労連らとの間で十分な協議を尽くしたものであるとは認められない。以上より、被告は本件解雇当時、整理解雇4要件すべてにつき、これを満たしていると認めるに足りないため、就業規則の解雇要件を満たすとは認められないから、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効といわなければならない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例891号62頁
その他特記事項
本件は控訴された。