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韓国社団法人嘱託解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
韓国社団法人嘱託解雇事件
事件番号
神戸地裁 - 平成16年(ワ)第758号
当事者
原告個人1名

被告社団法人K
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年09月28日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、船舶の登録、検査等を目的とする韓国に主たる事務所を有する社団法人であり、原告は昭和62年10月被告神戸事務所において嘱託職員として採用され、平成元年8月23日付けで雇用期間1年の嘱託職員となり、その後も1年の雇用契約書を更新しながら勤務していた女性である。

 平成16年1月9日、被告は原告に対し、(1)会社のシステムが理解できず、定められた仕事ができない、(2)勤務時間中に個人的な業務をした、(3)会社のシステムとして韓国語を使用することが多くなり、韓国語の能力のない原告は業務に支障がある、(4)会社に対して不満が多いなどとして、同年3月31日をもって本件雇用契約を解除する旨通告した。

 これに対し原告は、本件雇用契約は1年の雇用契約書を締結してはいるが、期間の定めのない嘱託職員として勤務しているから、本件契約解除は解雇の意思表示であると主張した。その上で原告は、システムについて所長が説明を拒否したのだから、理解できないことに原告の責任はないこと、勤務時間中にパソコンで私的な文書を作成した事実はあるが、原告は注意を受けて反省しており、懲戒処分としても解雇は重きに過ぎること、原告は16年間も被告で勤務しているのに今になって韓国語の能力がないとの理由で業務に支障が生じるはずがないこと、原告は日本の法律の遵守を求めたに過ぎないことを主張し、本件契約解除は、解雇権の濫用として無効であると主張した。また原告は、平成14年3月に神戸事務所に赴任してきた検査員Aから、(1)原告の個人使用のロッカーを無断で開ける、(2)不必要に身体を接近させ髪の毛に触る、(3)襟元やペンダントに触ろうとする、(4)個人的な電話の通話相手に執拗に関心を寄せ、携帯電話を取るときに原告の胸を掴む、(5)路上で配布されたと思われるわいせつなチラシを見せるというセクシャル・ハラスメントを受けたとして、これによる精神的苦痛に対する慰謝料500万円、不当解雇による精神的損害に対する慰謝料500万円を被告に対し請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 本件契約について

 原告と被告との間の雇用契約は、期間1年の嘱託職員契約書を取り交わして行っており、韓国本社以外の海外事務所の職員は、業務量の減少に応じて機動的に職員を削減する必要があることからすべて嘱託の契約社員とされていること、現にいくつかの海外事務所では業務量の減少に伴って職員が不在になっていることが認められる。これらによれば、毎年の契約書の更新は、契約内容を見直した上で行われていたものと認めるのが相当であるから、形式的なものとはいえず、本件雇用契約は期間1年の期限付嘱託職員として採用する契約であったと認められる。

2 検査員Aの原告に対するセクハラ行為について

 検査員Aは、原告の髪、襟元、ペンダントに触ろうとしたこと、わいせつなチラシを見せたことについては一貫して否定し、原告のロッカーから傘を持ち出した行為についても、雨が降ったため困って持ち出したもので、原告も特にとがめだてしなかったことが認められる。また、Aが原告の胸をつかんだ点については、Aが携帯電話を奪い取ろうとして手を伸ばした際、右手の掌側が偶発的に原告の左胸に一瞬触れたもので、これをもって損害賠償義務を発生原因となるようなセクハラ行為と認めることはできないというべきである。

 Aが原告に対し不法行為を行ったことが認められない場合、被告が原告に対して適切に対応すべき義務も発生しないというべきであるから、被告は原告に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。

3 解雇又は雇止め及びその効力

 原被告間の雇用契約は、契約内容に変更はあったものの、1年間の期間の定めのある雇用契約として繰り返し更新されており、このような場合には、契約の一方当事者である原告においては、期間満了後も雇用関係が継続するものと期待する合理性が認められ、雇用契約関係は実質的に期間の定めのない契約と変わりがないというべきである。したがって、平成16年1月9日になされた本件契約解除は、実質的には、同年3月31日をもって原告を解雇する旨の解雇予告と見るべきである。

 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用として無効と解される。原告は、本件契約解除の真の理由は、Aの原告に対するセクハラ行為後、被告が適切な対処をしなかったため、原告を退職させ事態の収拾を図ることにあると主張する。Aが原告に対してセクハラ行為を行ったとは認められないが、セクハラ行為の有無はさておくとしても、これまで原被告間の雇用契約が更新されてきたところが、平成15年3月18日のセクハラ行為の問題が勃発し、平成16年度以降の契約が更新されなかったことに照らすと、原告がAのセクハラ行為を取り上げ、被告に対応を迫ったことが本件契約解除の背景となった可能性が全くないではない。

 被告は、本件契約解除には合理的な理由があることを基礎付ける根拠として、(1)ファイリング業務等定められた業務を行わず、所長から再三注意されても非を認めない勤務態度の悪さ、(2)韓国語の能力が低く、イントラネット導入による事務効率化という被告の経営方針に対応できないことの2点を挙げる。ところで原告は、被告における重要な業務であるファイリングを適切に行っていなかったこと、原告が主張するようにファイリング業務を行う時間がないとは認められないこと、したがって原告がファイリング業務を行わなかったのは、原告の同業務に対する姿勢、勤務態度に原因があるといわざるを得ないこと、また被告においては、平成15年3月にイントラネットが導入されたことにより、これまで以上に韓国語の能力が必要とされる場面が増え、求められる能力、資質がより高度になったが原告はこれに対応できる十分な語学力を有しているとはいえないこと、特別監査後においても勤務時間中にパソコンで私的な文書を大量に作成するなど、原告には従業員としての基本的な資質、態度の面でも問題があることが顕著になったことが認められる。
 本件雇用契約が期間の定めのない雇用契約と実質的には異ならないものと見ることができるとしても、被告は更新時期が到来する都度、雇用契約書を作成し、必要に応じて契約条件を変更していたことに鑑みると、被告事務所の業務量、業務内容など状況に応じて契約を更新しない可能性も否定できないところである。したがって、本件契約解除の合理性を判断するに当たっては、このような本件雇用契約の実態をも踏まえる必要があるというべきである。そして、各事実を総合すると、本件契約解除がセクハラ行為の問題が発生したことを理由とするものと認定することはできず、本件契約解除には合理的な理由があると認められるから、本件契約解除は解雇権の濫用として無効であるとの原告の主張には理由がない。
適用法規・条文
労働基準法18条の2
収録文献(出典)
労働判例915号170頁
その他特記事項
本件は控訴された。