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K建設協会雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
K建設協会雇止め事件
事件番号
京都地裁 − 平成17年(ワ)第1415号
当事者
原告 個人1名
被告 社団法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年04月13日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、建設事業者のための広報活動や建設事業施工の調査研究に関する事業などを行う社団法人であり、原告は平成9年8月、被告に「業務職員」として採用され、平成12年5月から管理員として水質データ入力作業等を担当してきた女性である。原告の上司である所長は、管理員としての雇用期間は1年で最長5年である旨原告に説明したが、5年後についてはわからないと答えた。

 その後原告は、被告との契約を更新してきたが、平成16年4月1日に管理員の辞令を受けた際、所長から管理員としての期間が5年になるので管理員としての更新はできないが、業務職員として働いてもらえるかとの打診を受け、これを受け入れる回答をした。原告は平成17年2月8日に、所長に対し、業務職員になった場合の給与の額や年休の扱い等について質問し、所長はこれらについて説明した上で、同年5月から業務職員として来てくれるか原告に尋ねた。原告はこれまでの管理員と同じ条件で引き続き雇用するよう要請したが、受け入れられなかったので、同年3月組合に加入し、団体交渉を行ったところ、被告は管理員の雇用期間は5年が限度であるとして、原告を引き続き管理員として雇用することはできない旨回答した。その後、同年5月以降は原告を管理員としても業務職員としても雇用できない旨の通知をし、同年3月29日、同年4月30日付けで雇用期間が満了する旨の雇用期間満了通知書を原告に対し交付した。一方原告は、同年4月9日、管理員が無理なら業務職員として働く意思があることを被告に伝えたが、受け入れられなかったため、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の後記第1の請求2項に係る金員給付を求める訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の訴え部分を却下する。

2 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3 被告は、原告に対し、平成17年5月から本判決の確定する日まで毎月25日限り18万8000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は10分し、その9を被告の、その1を原告の負担とする。
判決要旨
 原告と被告との雇用契約は平成9年8月以降平成17年4月30日まで毎年更新されてきたが、被告は原告に対し、1年の期間雇用であることを説明し、その更新に当たって、その都度原告の意向確認をしてきた。また管理員の雇用期間満了に当たっては期間満了の通知がなされ、各年度の4月1日に辞令が交付されるとともに職員の前でその辞令内容が読み上げられてきた。以上の事実からすると、原告と被告との間の雇用契約は「期間の定めのない労働契約」と実質的に異ならない状態にまで至っていなかったことが推認される。

 原告は、平成12年5月1日からの管理員としての雇用契約を結ぶに当たって、所長から雇用契約は1年更新で最長5年との説明を受け、平成16年の管理員としての雇用契約の際にも、所長から本年度で雇用契約は終了する旨の説明を受け、管理員に係る就業規則にも同趣旨の規定がある。以上の事実を踏まえると、原告は平成17年5月1日以降、管理員としての雇用契約が結ばれないことを認識していたことが推認され、同日以降について管理員としての雇用契約の更新について期待を有していたとまで認めることはできない。
 原告が業務職員として行ってきた業務と管理員として行ってきた業務は同一で、原告に対する管理員としての雇用契約の更新拒絶が正当としても、平成17年5月1日以降における業務職員としての雇用拒絶が当然に正当化されるわけではない。ところで、被告は原告について、元々同日以降業務職員として雇用することを予定していたこと、仮に原告について同日以降の業務職員としての雇用がなされた場合には有給休暇などは持ち越されることになるなど、更新予定の業務職員と管理員との継続性があること、また、原告は管理員としての更新を要請していた間も少なくとも業務職員としての雇用継続の意思を有していたこと、原告と同様に平成17年4月末日で管理員としての雇用契約が終了する者は、同年5月1日以降も業務職員として被告との雇用契約が継続されていることを考えると、原告が同日以降、少なくとも業務職員として雇用されることを期待していたこと、その期待には合理性があることが推認される。以上の事実を踏まえると、原告に対する同日以降の業務職員としての雇用契約締結拒否は、その実質雇止めと同様の効果を有し、権利の濫用といわなければならない。そうすると、原告は、同日以降、業務職員としての地位、少なくとも労働契約上の権利を有する地位にあるとするのが相当である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例917号59頁
その他特記事項
本件は控訴された。