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米軍極東管区組合活動家妻解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
米軍極東管区組合活動家妻解雇事件
事件番号
横浜地裁 - 昭和41年(ワ)第724号
当事者
原告個人1名

被告国、代表者法務大臣
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1971年04月28日
判決決定区分
認容
事件の概要
 原告は被告に昭和27年7月、期間の定めなく雇用され、駐留軍労務者として勤務し、従業員功労管理職の地位にあった女性である。

 原告の夫Aは、昭和28年秋以降、全駐労横浜支部を含む横浜地区労の事務局長の職にあり、単位組合の闘争支援、援助のほか、全地域的な労働組合運動を主導推進する事業活動を遂行してきた。Aは、警職法反対闘争、安保闘争、原子力潜水艦寄港反対闘争、ベトナム戦争反対闘争など、事務局長として精力的に横浜地区労の諸活動を企画、指導してきた。

 昭和40年11月18日、原告は突然米海軍情報係官のもとに出頭させられ、Aも原告も共産党員ではないかと詰問され、黙秘していると、解雇をほのめかされた。その後、昭和41年3月29日に被告の機関である横浜渉外労務管理事務所長は、保安基準b項「従業員がアメリカ合衆国政府の保安に直接的に有害であると認められる政策を採用し、又は支持する破壊的団体又は会の構成員であること」に該当するとして、原告に解雇の意思表示をした。

 これに対し原告は、次の点を挙げ、本件解雇の無効と雇用関係の存在の確認を請求した。

(1)原告は被告主張のような団体の構成員ではなく、「破壊的団体又は会の構成員」というだけでは何ら具体性がないから、本件は理由なき解雇であり、解雇権の濫用であること。

(2)本件は単に団体又は会の構成員であることを理由とする解雇であり、憲法14条違反で無効であること。

(3)いわゆる「保安解雇」は、合法性において他の政党と変わることのない日本共産党ないしその同調者に対してなされており、本件は政治的信条による差別で労働基準法3条違反であること。

(4)原告の夫Aは地区労事務局長を務めており、本件はAの組合活動を嫌悪してなされた解雇であるから、不当労働行為であること。

(5)Aが事務局長を務める組合は憲法28条によって保障される労組であり、本件はAが組合で重要な地位を有し活動していることを理由に妻たる原告に対し保安基準を適用して解雇したものであるから、労組法の不当労働行為を問うまでもなく憲法28条に直接違反し、違法無効であること。
主文
1 原告と被告との間に雇用契約関係の存在することを確認する。

2 被告は、原告に対し、昭和41年3月30日以降毎月末日限り金54726円を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 原告がその構成員であると被告において主張する保安基準b項所定の「破壊団体又は会」の1構成体は「横浜港湾委員会倉庫細胞」なる組織を指すことが認められるが、その組織の所属する団体又は会が、アメリカ合衆国の保安に直接的に有害であると認められる政策を採用し又は支持している破壊的な団体又は会であることを認めることができないのみならず、原告がその構成員であることの事実すら認めるに足る証拠はない。

 基本労務契約に定められた保安基準は、駐留軍労務者の解雇が客観的に妥当な基準によるべきものとして定められたものであって、米国の主観的な所為による解雇を抑制しようとする趣旨に出たものであるが、労務者が保安基準に該当するものとして解雇できるかどうかは、最終的には米軍の認定に委ねられており、米軍がこれに該当するとして解雇措置を要求したときは、日本国政府は当該労働者を解雇しなければならないものであることが認められる。したがって、労務所長が、米軍の契約担当官代理者の解雇措置要求に基づいてなした本件解雇の意思表示は、原告が保安基準b項に該当することが認められないからといって、無効とすることはできない。しかしながら、原告が締結した労働契約は被告を相手方とするものであり、国内法的法律関係であるから、解雇権を含めて権利の濫用を許さないとする民法1条3項の規定に服すべきものである。

 原告が昭和27年被告に雇用されて以来本件解雇まで、14年余に及び駐留軍労務者として勤務し、その間数回にわたり勤務成績優秀者として表彰を受けたこと、かつて職務上使用者から問責されたことがなかったことが認められる。そして、原告につき本件解雇の理由とされた保安基準b項該当の事実を認め難いことを考え合わせると、本件解雇は原告の夫Aが横浜地区労の事務局長としてその事業活動の中心的存在の1人であることに着目し、妻である原告を通じて、原告の職場を含む駐留軍労務者の間に一層活発な労働組合運動が展開することを未然に防止する意図をもって、長年誠実に米軍業務のために働いてきた原告を職場から排除しようとしてなされたものと認めるほかなく、かかる解雇権の行使は権利濫用の謗りを免れず、したがって本件解雇は無効であるとしなければならない。
適用法規・条文
民法1条3項
収録文献(出典)
労働判例133号6頁
その他特記事項