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A大学配偶者非違行為解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
A大学配偶者非違行為解雇事件
事件番号
東京地裁 − 昭和48年(ヨ)第2290号
当事者
その他申請人 個人1名

その他被申請人 学校法人A学院
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1976年01月28日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被申請人は、キリスト教系の大学を設置する学校法人であり、申請人は昭和46年4月に被申請人経営の大学の文学部神学科副手として雇用された女性である。

 昭和48年3月13日に開催された神学科卒業生等を構成員とする共励会臨時総会の席上、申請人の夫Mが、「閉ざされた世界に光を与えよ」と題し、神学科の存在並びに院長及び理事者を批判した上、神学科の解体を呼びかけ、「院長のごとき馬鹿、間抜け男に付き合い、我々の水準を低めてはならない」「院長一派実力粉砕―神学科解体万歳」等の内容を記載したビラを参会者に配布した。同月30日に至り、被申請人大学の元文学部長から、神学科主任事務取扱助教授に対し、Mの言動について院長は激怒しており、学園紛争の際にも暴れたことのあるMの妻である申請人を雇っておくことはけしからんというのが院長の意向であり、副手の任期は2年という内規があるから、それを理由に申請人をやめさせるよう措置されたい旨伝えられた。同助教授がこれを拒否したところ、同元部長から申請人に対し私信の形式をもって本件解雇の意思表示がなされた。被申請人は解雇の理由として、2年の雇用期間が満了したこと、仮にそうでないとしても、神学科の入学者が減少し、副手の扱うべき事務量もこれに比例して減少したことを挙げた。

 これに対し申請人は、神学科副手が過員であったことはなく、解雇の真の理由は、申請人の夫Mの言動が院長を激怒させたものであって、本件解雇は異人格の配偶者の言動を申請人の言動と同視して評価しようとする不当なものであり、解雇権の濫用により無効であるとして、雇用契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 申請人が被申請人に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 被申請人は申請人に対して金1万8960円及び昭和48年7月1日以降本案判決の確定に至るまで毎月20日限り月金5万1040円の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被申請人の負担とする。
判決要旨
 雇用契約の締結に当たって、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほか、1年を超える契約期間を定めることは労基法14条の規定が禁止するところである。したがって、同規定に違反して雇用契約が締結された場合、その契約は期間を1年とする雇用契約として効力を有するに過ぎないものと解すべきであるが、1年経過後においても労働者が引き続きその労務に従事し、しかもそのことにつき使用者はもとより労働者も異議を述べなかった場合においては、その雇用契約は爾後期間の定めのない雇用契約として更新されたものと解するのが相当である。そして被申請人の主張する2年の雇用期間が一定事業の完了に必要な期間であること、労使双方又はそのいずれかが異議を述べたことについては、被申請人が何ら主張・立証しないところであるから、本件雇用契約は締結後1年を経過した昭和47年4月以降は期間の定めのない雇用契約として更新されるに至ったものというべきである。したがって期間満了を本件雇用契約の終了の理由とする被申請人の主張は、この点において失当たるを免れない。

 申請人の夫Mが、共励会総会の席上院長を批判するまで、神学科において副手の任期が問題化したことはもちろん、副手の過員による整理が問題とされたこともなく、その後においても神学科教員は申請人の雇用継続を強く文学部長等に対して要望していたことが認められる。その事実によれば、被申請人が申請人を解雇するに至った真の理由は、Mの言動及び申請人がその妻であったということに尽き、神学科の縮小に伴う過員整理は申請人を解雇するための単なる口実に過ぎないことが認められる。

 被申請人は、申請人の解雇権濫用の主張に対して、申請人がMの言動をその場にありながら妻として阻止しなかったことを非難し、申請人本人尋問の結果中には、申請人がMにおいて本件ビラを配布するであろうことをあらかじめ知り、共励会に出席しながらMの言動を阻止しなかったことを自認する部分があるが、申請人がMと共謀してMに本件言動をなさしめたと認むべき疎明資料はないのみならず、たとえ夫婦であるにしても妻と夫は法律上は全く別人格であって、夫にいかなる重大な非違行為があったとしても、これを理由に、そしてただその妻であることの一事をもってその妻に対して法律的非難を加えることが許されないことは、改めて言うまでもない。

 以上によれば、申請人に対する本件解雇はその合理的根拠を欠くものというべく、解雇権の濫用として無効というべきである。
適用法規・条文
労働基準法14条
収録文献(出典)
判例時報807号96頁
その他特記事項
本件は控訴された。