判例データベース
I保育園臨時保母雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- I保育園臨時保母雇止め事件
- 事件番号
- 福岡地裁 − 昭和52年(ヨ)第220号
- 当事者
- その他申請人 個人3名A、B、C
その他被申請人 社会福祉法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1978年04月15日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被申請人は、I保育園を設置・開園する社会福祉法人であり、申請人A、Bは昭和50年9月の開園時より勤務し始め、昭和51年4月1日に期間1年の契約を更新し、申請人Cは同日より同保育園に1年間の期間を定めて勤務し始めた臨時保母である。
昭和52年2月28日、被申請人は、申請人らに対し、剰員になったことを理由として雇用契約期間が満了する同年3月31日限りで保育園を辞めるよう通知した。これに対し原告らは、本件労働契約において「臨時」保母の合意があるとしても、就業規則に「臨時」保母は存在しないからその合意は無効であること、申請人らの仕事の種類、内容、勤務時間等が他の保母と何ら変わりがないこと、本件労働契約に期間の定めがあったとしても、本件雇止めは実質的な解雇であり、当時の被申請人には申請人らを解雇すべき差し迫った必要性はなく、これを避けるため希望退職の募集等の努力もしなかったから、解雇権の濫用に相当すること、本件解雇は申請人らが正当な組合活動をしたことを理由とするもので不当労働行為に該当することを主張し、解雇の無効と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 申請人らが被申請人に対し労働契約上の地位を有することを仮に定める。
2 被申請人は、昭和52年4月から本案判決確定に至るまで毎月25日限り、申請人Aに対して月額7万7123円、同Bに対して月額9万2195円、同Cに対して月額8万9989円の各割合による金員を仮に支払え。
3 訴訟費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 労働契約に期間の定めがある場合にその期間が満了することにより当然労働契約関係が終了しいわゆる雇止めになるのか、あるいは特段の意思表示がない限り更新される関係にあるのかは、当該労働契約締結時の当事者の合意内容によって決定される。後者の場合、単に期間が満了したというだけでは雇止めにならないことについて労働者がこれを期待、信頼し、そのような相互関係の下に労働契約関係が存続、維持されてきた場合は、使用者としては単に期間が満了したことの一事をもって雇止めを行うことは信義則上許されず、経営上やむを得ないと認められる特段の事情が存在することを要する。
被申請人が臨時保母を設けるに至った理由は、昭和50年7月頃、3歳未満児が異常に多くなり、3名増員が必要になるが、その後3歳未満児の減少が予測されるので、契約期間1年の「臨時保母」をもって賄い、雇用量を調整しようとした点にあると認められる。しかし、そうだとすれば、労働契約締結に当たってその旨を明示し、申請人らに誤解や疑問の余地がないようにすべきであるのに、申請人らを3歳未満児に一時的過剰対策上臨時に雇用するものであって、その過剰状態が解消した場合は雇止めになることを説明しなかった。その結果、申請人らは、自分達「臨時保母」が3歳未満児の一時的過剰対策として臨時に雇用されるものであることを認識することなく労働契約書を差し入れ、辞令を受領し、期間が満了しても契約が更新され、いずれは正規保母になれるものと考えていた。この事実に照らすと、本件は単に期間が満了したというだけでは雇止めにならないことについて申請人らがこれを期待、信頼し、そのような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきた場合に当たるから、使用者としては、単に期間が満了したことの一事をもって雇止めを行うことは信義則上許されないと解する。
申請人Aは、受持ち園児数が加重負担となり、さらに臨時保母という身分や労働契約期間は1年とされたことに強い不満を抱いて昭和50年10月頃組合に加入した。被申請人は昭和51年度も園児を大量に入園させることにし、臨時保母についても1年契約を更新した。申請人B、Cは同年4月、6月に組合に加入し、申請人らは臨時保母の身分の不安定さや労働加重等の改善を求めて被申請人に対し団交を申し入れた。園長は職員に対し組合に加入しているかどうか確認した上、団体交渉など必要でないと考える者は署名捺印するように職員間に用紙を回す等の処置に出た。これに対し組合員である申請人らは署名を拒否したところ、申請人らに対し初めて雇用期間を明示された辞令が交付された。その後被申請人は、申請人Bの母を呼んで組合からの脱退の説得を依頼したり、申請人Aの早退を捉えて始末書の提出を求め、提出しなければ年度末で辞めて貰う旨通告する等のことがあった。これらの事実によると、被申請人はいずみ保育園に組合員がいることを知るに及んでその存在を嫌い、陰に陽に組合からの脱退を勧めたこと、また被申請人は当初は申請人らに正規保母の期待を抱かせるような言動を行いながらも、申請人らが公然と被申請人に対して団交を申し入れるなどの活動を始めた頃から急に1年契約を強調し始めたこと、他方申請人らの組合加入の動機や活動の目的及び活動状況を見ても何らの不当性も窺えなかったこと、被申請人は昭和50年度、51年度には自由児(措置対象以外の園児)を大量に入園させていたのに、昭和52年度は自由児を入れない方針を打ち出し、申請人らに剰員を理由に労働契約の更新拒絶を通告していること等の諸事情が明らかである。
このようにみて来ると、被申請人のなした申請人らに対する本件労働契約の更新拒絶は、従前通りの経営方針を維持していれば、昭和52年度においても申請人らが事実上剰員となることはなく,それができない特段の経営上の事情もなかったし、契約更新拒否をしなければならない必要も生じないのに、昭和52年度の自由児の受け入れをことさら中止し、よって保母に剰員が生じたことを理由に行われたもので、労使間の信義則に反して無効であるとともに、被申請人がかかる行為に及んだ動機は、申請人らが労働組合に加入し、正当な組合活動を行ったことを嫌った点にあり、労組法7条1号に反する不当労働行為として無効というほかない。 - 適用法規・条文
- 労働組合法7条
- 収録文献(出典)
- 労働判例305号43頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
福岡地裁 − 昭和52年(ヨ)第220号 | 認容(控訴) | 1978年04月15日 |
福岡高裁 − 昭和53年(ネ)第299号 | 控訴認容(原判決取消) | 1979年04月20日 |