判例データベース
I保育園臨時保母雇止め控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- I保育園臨時保母雇止め控訴事件
- 事件番号
- 福岡高裁 − 昭和53年(ネ)第299号
- 当事者
- 控訴人(附帯被控訴人) 社会福祉法人
被控訴人(附帯控訴人) 個人3名A、B、C - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年04月20日
- 判決決定区分
- 控訴認容(原判決取消)
- 事件の概要
- 控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)は、I保育園を経営する社会福祉法人であり、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)らは、同保育園で勤務する雇用契約期間1年の臨時保母である。
控訴人は、雇用契約期間が満了したとして、被控訴人らに対し昭和52年3月31日以降契約を更新しない旨通知した。これに対し被控訴人らは、本件雇止めは実質的な解雇であるところ、解雇の必要性もなく、解雇回避の努力もしていないから解雇権の濫用であること、本件解雇は被控訴人らの正当な組合活動を理由とするもので不当労働行為に当たること等を主張して、解雇の無効と賃金の支払いを請求した。
第1審では、控訴人は被控訴人らを雇用するに当たって、「臨時」の意味を説明せず、被控訴人らは労働契約期間が1年である旨の認識をしていなかったから、期間満了の一事をもって雇止めすることは信義則上許されないこと、本件雇止めは被控訴人らの組合活動を理由とする不当労働行為であることから無効であるとしたため、控訴人がその取消しを求めて控訴したものである。 - 主文
- 原判決を取り消す。
各被控訴人の本件申請及び附帯控訴により当審で拡張された申請を棄却する。
訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は、第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人と各被控訴との間の労働契約については、各被控訴人の主張するような期間の定めのない保母契約として締結され更新されたものであると認めることはできず、かえって控訴人の主張通りの各期間を定めた臨時保母労働契約として締結されたものであることが認められる。そして控訴人としては、「措置費」及び「補助費」のうちから保母の人件費を支弁する以外に財源がなく、開園当初の3歳未満児が異常に多いという変則的な措置状況は一時的なものであって、措置児の年齢構成が近い将来に正常化され、保母に剰員の生ずる事態に備えて予め定数を超える数の保母を「臨時保母」として雇用することは財源の制約上必要であり、期間を定めた臨時保母を新規に採用し、追加して採用することが合理性を欠くとはいえない。
各被控訴人は、就業規則19条1号により保母にのみ支給すべきであると定められている特殊業務手当を支給されており、臨時保母にも3ヶ月の試用期間があって、臨時保母も就業規則3条1号にいう「保母」に当たると解すべき事は各被控訴人の主張するとおりである。しかし、就業規則32条3号は「期間を定めた労働契約が満了したとき」を従業員が身分を失う退職の日と定めており、就業規則全体を通観しても保母労働契約が「期間を定めた」契約であってはならないとする規則は見当たらない。
1年以内の期間を定めた労働契約により雇用した臨時保母以外の正規保母を、臨時保母よりもやや厳しい条件を満たす者のうちから採用し、臨時保母をやや上回る待遇を与えることは就業規則違反とはいえないところ、臨時保母契約の期間があることからこれが就業規則3条に違反するとはいえないことは既に明らかである。更に各被控訴人は、臨時保母と正規保母とが労働条件について差異があるのは、労基法93条により臨時性に関する不利益部分につき無効であると主張するが、この所論は就業規則3条の「保母」は「臨時保母」を含まないとの前提に立つものであるところ、その前提の採用し難いことは既に説示したところである。また、労働基準法が1年を超えない期間を定めた労働契約を期間を定めた故に禁ずるものでないことは同法14条の規定によってこれを窺うことができ、それゆえ、右契約が労基法93条に違反するという各被控訴人の主張は、これを採用することができない。さすれば、控訴人と各被控訴人との間に締結された本件労働契約は、いずれも昭和52年3月31日期間を経過して消滅したといわなければならない。
各被控訴人は、本件更新拒絶は実質的解雇であり、解雇権の濫用又は組合員であること及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益な取扱いであり、組合潰しを図った支配介入であるから無効であると主張する。しかし、本件において控訴人により主張されている労働契約の消滅事由は期間満了であって労働契約関係解約の意思表示をしたことではなく、本件労働契約は期間満了により消滅したのであるから、各被控訴人の右無効の主張は、いわば的もないのに矢を放つものであり、採用し難い。被控訴人A、Bについては唯一回の更新の後、被控訴人Cについては当初の契約が更新されないままで、各労働契約の期間満了に先立ちこれを通知されたのであって、いずれにしても更新が自らの労働契約につき重ねられたものでなく、かつ、本件は昭和52年3月の契約期間満了前僅か1年7ヶ月内に設置開園された保育園に勤務する労働者についての事案であり、更新の慣行も認め難く,しかも各被控訴人が措置児の年齢構成の変動に即応して雇用量の調整を図る必要から雇用された臨時保母であって、契約締結に合理性を欠くといえず、本件期限付き労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない事情で継続していたと認めることは困難であるから、本件更新拒絶に実質上解雇の法理の適用があるとし、これを前提としてなす更新拒絶(雇止め)無効の主張は、いずれもその前提においてこれを採用する限りではない。かような次第で、控訴人と各被控訴人との間の労働契約は、いずれも昭和52年3月31日期間の満了によって終了したものである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例323号73頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
福岡地裁 − 昭和52年(ヨ)第220号 | 認容(控訴) | 1978年04月15日 |
福岡高裁 − 昭和53年(ネ)第299号 | 控訴認容(原判決取消) | 1979年04月20日 |