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O女学院婚外子出産解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
O女学院婚外子出産解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 昭和54年(ヨ)第1906号
当事者
その他申請人 個人1名

その他被申請人 学校法人O女学院
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1981年02月13日
判決決定区分
却下
事件の概要
 被申請人は女子中学校、高等学校、短期大学を設置する学校法人であり、申請人は昭和44年4月、被申請人に期限の定めなく雇用され、英語科専任講師として講義、研究に従事してきた女性である。

 被申請人は、昭和54年4月21日、次の理由により申請人を解雇した。

(1)申請人に遅刻や無届休講が頻繁にあること、申請人が採用したノンディレクティブ(非指示)教授法が、事実上授業放棄といわれても仕方のないものになってしまっていることから、多くの受講生からゼミ変更の申し出があったこと。

(2)申請人が担当する通訳ガイドの講座の単位取得者数が極端に少ない結果に終わっているところ、昭和47年の第1回の授業時間に「こんなに多勢に教えるつもりはない。どうせ単位は取れないのだから、今すぐ教室を出て行け」と述べたため、多くの受講生が登録を取り消すという事態が発生したこと。

(3)昭和48年に被申請人短大へ入学した1人は合格点に2点不足であったが、被申請人高校出身であることを考慮して合格させ、これを機密にすることを確認し合ったところ、申請人はこれを本人に暴露したため、本人及び関係者を傷つけたばかりでなく、被申請人短大の権威と信頼を喪失させたこと。

(4)昭和52年6月、申請人は妻子と別居中の男性との間に婚姻外の女児を出産したことが明らかになったが、申請人のこのような乱れた性倫理観に基づく私生活が、キリスト教精神を教育方針とし、キリスト教により宗教教育を厳格に行い、宗教科目を必修としており、専任講師の大部分をクリスチャンで占められている被申請人においては、学生に対し悪影響を及ぼさずにいないことは明らかであること。

(5)申請人は、昭和53年5月から自宅待機処分を受けていたところ、その間に被申請人に多大な貢献のあった先生の追悼記念会を行うとして、被申請人の計画とは無関係に新聞広告掲載の依頼原稿を送付したこと。また、昭和52年頃から本件解雇前後にかけ、被申請人の関係者宛に、折に触れ事に当たって、短大教員としてはあるまじき手紙、はがきを差し出して、受取人に多大の迷惑をかけたこと。

 これに対し申請人は、本件解雇理由とされていることは事実に反する部分が多いこと、ゼミに関しては受講生からの意見だけを聴き、申請人から一切事情聴取をしていないこと、機密事項を暴露したことはないこと、妻子と別居中の男性との間に女児を出産したことは認めるが、これは全く私的な事柄であること、関係者に手紙を出したことは認めるが、担当講座も与えず、教授会への出席も拒み、遂には自宅待機を命ずる状況で、焦燥と苦しみの余りに行ったものであること等いずれも解雇理由となり得ないものであるばかりか、その根拠とされた被申請人就業規則についても、労働基準法89条の届出、同法106条の周知方法を欠くもので無効であるとして、本件解雇の無効を主張し、被申請人の講師としての地位の保全と賃金の支払いを請求した。
主文
1 申請人の申請をいずれも却下する。

2 申請費用は申請人の負担とする。
判決要旨
1 就業規則の効力 

 就業規則の行政官庁への届出は効力要件ではないと解すべきであり、労働基準法106条1項所定の周知方法を欠いたとしても、従業員がその内容を周知しているとか、又は従業員が容易にこれを知り得る状態にあった等特段の事情のある場合には、なおその効力を有するものと解するのが相当であるところ、被申請人職員就業規則は昭和36年に制定されたもので、当時の全職員には配布されたが、以降昭和55年4月までの間に就職した職員には配布されなかった。しかしその後1度も変更されることなく、被申請人の労使関係を律するものとして適用されてきたもので、申請人も加入する教職員組合もその都度確認してきたことが認められ、就業規則は職員が容易に知り得る状態にあったと認め得るから、なおその効力を有するとみるのが相当である。

2 解雇理由(1)(2)について

 講義において申請人が大幅に遅刻し、無届休講があったことが認められるが、被申請人主張ほどではないと認められる。昭和47年の申請人ゼミの内容が受講生にとって充実したものであったとはいえないが、これは申請人が採用した教授法によるところであって、申請人がいかなる教授法を採用するかは、女子短期大学といえどもなお申請人の大学における教授、研究の自由の範疇に属する事柄であるとみるのが相当である。そうだとすれば、被申請人が申請人から何ら事情聴取をせず、まして弁明の機会すらも与えずに受講生の登録替えを認め、同ゼミを事実上解散せざるを得なくしたことは妥当性を欠くものといわざるを得ず、この責めを一方的に申請人に帰せしめることは酷に過ぎ、これをもって解雇理由とはなし得ないというべきである。また申請人の担当する講義は、その態度、方法において多くの問題をもっていたとはいい得るが、なお申請人の教授、研究の自由の範疇に属するものとしてこれを是認するほかなく、したがってこれもまた解雇理由とはなり得ないというべきである。

3 解雇理由(3)について

 申請人が教授会の機密事項を暴露したという点において、被申請人短大の教員として、その適格性を疑われても仕方のないものであり、就業規則所定の「職務上の義務に違反し」又は「職員としてあるまじき行為」に該当し、一応解雇理由となり得るといえるが、この機密事項の暴露は昭和49年度の出来事である上、関係者の努力もあって大きな問題に発展せず間もなく終息していることが窺え、これに本件解雇に至る経緯を勘案すれば、これも未だ解雇理由とはなし得ないというべきである。

4 解雇理由(4)について

 申請人の婚外子の出産という行為は、被申請人にとっては、その教育方針に悖るものであるばかりか、その品位を著しく低下させ、明らかに学生らに対し悪影響を及ぼす事柄であって、これを単に私生活上の行為であるとして看過することのできないものであり、就業規則所定の「職員としてあるまじき行為」に該当するものとして、優に本件解雇理由となり得るものというべきであろう。

5 解雇理由(5)について

 広告依頼原稿発送の件は理事会において本件解雇の意思を固めた後の出来事であるからこれを解雇の理由とはなし得ず、また、多数の手紙、葉書の差出しについても、その内容からすれば、短大の教員として資質を疑わせる面もあるが、被申請人は申請人を昭和52年4月以降も一応短大の専任講師として扱いながら、担当講座を与えず、学生要覧から氏名を削除し、更には研究室をも奪う等の不利益処遇をなし、遂には自宅待機を命じたため、申請人が焦燥と苦しみの余りなした面もあることが認められる。したがって手紙等の差出しの件をもって、申請人が短大の専任講師として不適格であると断ずることは申請人に酷であり、これまた本件解雇理由とはなり得ないというべきである。

 本件解雇に至る経緯をみると、被申請人の申請人に対する処遇に妥当性を欠く点があったといわざるを得ないが、申請人の婚外子の出産という事実そのものが解雇事由となり得る以上、不利益処遇があったからといって、本件解雇の効力を左右するものではない。以上によれば、被申請人が申請人に対してなした本件解雇は有効であるというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例362号46頁
その他特記事項