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岩手社会福祉事業団雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
岩手社会福祉事業団雇止め事件
事件番号
盛岡地裁 − 昭和58年(ヨ)第12号
当事者
その他債権者 個人3名A、B、C

その他債務者 社会福祉法人岩手県社会福祉事業団
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1983年06月29日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 債務者は社会福祉施設を経営する社会福祉法人であり、原告らは債務者施設で働く臨時職員の女性である。

 債権者らの雇用条件は、当初日々雇用の臨時職員で週44時間・月25日労働であったが、その後債権者A及びCは非常勤職員となり、労働時間は週33時間に短縮された。更に昭和47年に、債権者らは各施設の長との間で、期間を1年とする業務委託契約をしたが、その際、各施設長から、違反がない限り契約は当然更新され、将来とも継続して稼働できる旨の説明を受けた。

 債権者Aは、洗濯業務を一手に行い、債権者B及びCは債務者の常勤職員2名と共に調理を担当した。このような債権者らに対する業務委託契約は、昭和48年から昭和57年まで更新を重ね、債権者らは、昭和57年4月、労働組合を通じて、債権者らの身分保障、就業規則の適用、有給休暇の付与、社会保険の適用などを要求し、拒否されたため、労働基準監督署に行政指導を求め、要求事項を実現した。

 昭和57年9月の組合交渉の席で、債務者は洗濯、清掃の業務を一括して民間委託する方針を打ち出し、債権者らに対し、法人委託になった場合、現在の委託額を給与として保障させること、社会保険に加入させること、年休を継承させること、臨時給与(給与の2ヶ月分程度)を保障させることの条件(4条件)の下に委託法人の職員となるよう依頼したが、債権者らはこれを拒否した。そこで、債務者は、昭和58年2月25日付書面により、債権者らとの業務委託契約を期間満了時である同年3月31日をもって解消する旨通知し、併せて民間委託会社に就職を斡旋することを再度申し出たが、債権者らはこれを拒否し、業務委託契約の継続を主張したため、債務者は同年4月以降債権者らの就労を拒否した。これに対し、そこで、債権者らは債務者に対し、期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認と賃金の支払いを求めて仮処分を申請した。
主文
1 債権者らが債務者に対し、それぞれ期間を昭和58年4月1日から昭和59年3月31日までとする労働契約上の地位を有することを仮に定める。

2 債務者は、債権者らに対し、昭和58年4月から昭和59年3月、又は同月末日までに本案訴訟事件の判決が確定するときは同判決確定に至るまで、毎月末日限りそれぞれ金8万7400円を仮に支払え。

3 債権者らのその余の申請を却下する。
4 申請費用は債務者の負担とする。
判決要旨
 債権者らと債務者との法律関係は、その形式こそ業務委託契約関係とされているが、債権者らがいずれも債務者又は県派遣の職員の指導の下に所定の時間、従属的に単純労務に服し、その対償として毎月定額の金員を受領してきたこと、労務の提供につき債権者らに裁量の余地が全くなかったことからして、これが労働契約関係であることは明らかである。そして、本件各労働契約は、一応昭和57年4月1日から昭和58年3月31日までとする有期契約であるが、元来債権者らの労務が、調理、洗濯という常時需要のあるものであり、実質的に見て、債務者の常勤職員たる調理員、用務員と何ら異なるところがなかったこと、債権者らと各施設長との契約締結の当初において、当然更新、長期継続雇用を期待させる言動があったこと、現に本契約は自動的に更新され、昭和57年まで毎年自動更新を繰り返したこと、したがって債務者においても、民間委託を採用するまでは、本件各労働契約が継続することを予定していたことに鑑みれば、本件各労働契約は、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存続していたものというべきであるから、債務者の雇止めの意思表示は、実質上解雇の意思表示に当たると解するのが相当であり、本件各雇止めの効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推すべきである。
 そこで本件雇止めについてみると、その理由は債権者らが民間委託の方針に従わないとの一事にあるに過ぎない。なるほど民間委託については、業務委託を受けた個人の傷病等による業務の停滞が解消されるという一面の合理性、必要性があり、また債務者側に、民間委託会社との間で、その採用の条件について4条件を保障する旨の覚書を取り交わすなどの配慮が見られ、かつ組合との団体交渉の場において民間委託の方針を重ねて説明し、協力を要請してきた経緯がある。しかしながら、民間委託によれば、業務委託料と同額の給与保障する以上、民間委託会社の利益に相当する分だけ委託費の費用高を招く不合理があり、民間委託とされた場合には、入札が原則であるから、業者に変更の可能性も一概に否定し去ることはできない。更に、債権者らには、県の臨時職員として採用以来本件雇止めに至るまで、何らの仕事上の過誤は勿論、無断欠勤等責められるべき事由がないこと、債務者の管理に係る施設は、いずれも公的社会福祉施設であって、営利法人と異なり、景気変動による人員整理の必要性はなく、収容人員により相応の労働量が固定しており、民間委託しても依然として債権者らの労働に匹敵する労働の需要があることなどに鑑みるとき、単に民間委託の方針に従わないとの一事をもってした本件雇止めは、社会通念上相当として是認されないというべきであって、実質上解雇権の濫用に当たるので、無効であると解するのが相当である。そうだとすれば、債権者らは、債務者との間にそれぞれ期間を昭和58年4月1日から昭和59年3月31日までとする労働契約上の地位を有し、この間債務者に対して毎月払いの賃金各8万7400円の請求権を有するというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例418号68頁
その他特記事項