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N社解雇無効等確認請求仮処分申請事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N社解雇無効等確認請求仮処分申請事件
- 事件番号
- 昭和57年(ヨ)第19号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1983年08月26日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債務者は、電気計測器、軸受ベアリングなどの製造販売を目的とする会社であり、債権者は、昭和54年4月債務者に雇用期間1ヶ月のパートタイマーとして雇用され、以後秋田工場で研磨工などの労務に従事していた女性である。
債務者の秋田工場においては、モーター課以外の職場で極端な受注減少により余剰人員が生じたとして債権者は昭和57年2月に同課に配転され、更に同年4月、債務者は、債権者を含む12名のパートタイマーに対し依願退職を求めたところ、債権者を含む2名が退職を拒否したため、同月30日をもって債権者を雇止めとした。
これに対し債権者は、労働契約をなす際に期間が1ヶ月である旨の説明は一切されず、いわゆる契約の更新が30回以上に亘って異議故障なくなされ、業務内容も正社員と同様のものであり、債権者が退職を希望するまでは当然に雇用する旨の信頼関係が形成されているから、本件労働契約は期間の定めのない契約であること、仮に当初の契約が期間を1ヶ月とするものであったとしても、本件のように機械的に更新を続けていたような場合には、当事者間の真意は、実質上期間の定めのない契約に転化したものであることを主張した。また、債権者は、昭和57年には81名の正社員を新規採用するなど業績不振は認められず、仮に業績不振であったとしても、債務者としては相当の猶予期間を置いて粘り強く依願退職者を募り、説得によって解決すべきところ、そのような誠実な努力は存在しないから、本件解雇は債権者の過去の組合活動を理由とする不当な差別的解雇であり、信義則に反し、解雇権の濫用として違法無効なものであると主張して、労働契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は債権者に対し、昭和57年5月20日以降毎月20日限り左記(1)記載の金員を、同年6月5日以降毎月5日限り同(2)記載の金員を本案判決確定に至るまで仮に支払え。 - 判決要旨
- 債権者と債務者との労働契約は期間を1ヶ月とするもので、それが順次更新されたものと認めることができる。債権者は、本件労働契約は期間の定めのないものであると主張するが、面接の際パートタイマーは期間を1ヶ月とする旨の供述部分があること、パートタイマーを採用する場合は正社員と違って手続きが簡略であること、採用の際には期間を1ヶ月とする契約書を作成していることからすると、債権者の主張は理由がない。また、債権者の労働契約は昭和54年4月から昭和57年4月までの間反復更新されており、しかもある程度機械的になされていることが認められるが、この事実だけでは途中で期間の定めのない契約に転化するといえないことは明らかである。
しかしながら、本件労働契約の当初において債務者は債権者に長期間勤務することを要望し、債権者もこれを承諾していたこと、右契約が約3年もの間、36回に亘り機械的に反復継続してきたこと、右契約と同様のパートタイマーについても、本人が特に希望しない限り契約の更新が当然になされてきたこと、債権者らパートタイマーの労働の内容は正社員とほとんど差異がないことが認められ、以上からすると、右契約の期間は一応1ヶ月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されることが予定されていたと解するのが相当であり、債権者の意思に関わらず労働契約関係を終了させるためには、従来の取扱いを変更してもやむを得ないと認める特段の合理的な事情が存することが必要であると判断することが相当であるところ、債務者の債権者に対する雇用契約を解約する旨の意思表示は、雇止めの意思表示と解することが相当である。
債務者は、昭和56年12月以降、創業以来の不況に直面し、パートタイマー等の人員削減の必要性があったと認められるが、本社でも秋田工場のパートタイマーについて希望退職を求める決定が行われたに過ぎず、本人の意思に反して雇止めをするまでの決定もなされなかったにもかかわらず、1回の希望退職を募っただけで工場長が率先して債権者他1名のパートタイマーに対して雇止めをなしたものであること、債権者は他のパートタイマーと比して能力が劣っていたとは考えられないにもかかわらず強い調子で希望退職に応じるように説得し、説得に応じなかった債権者他1名だけを雇止めをしたこと、債権者らの作業がなくなったことは専ら債務者側の事情であり、他の職場から32名の希望退職者が出ており、債権者を他の職場が受け入れる余地がないとは考えられないことから、債権者に対する雇止めの合理的な理由とはならない。
債務者は、昭和57年5月以降、秋田工場でパートタイマーに対して希望退職を募ることをせず、臨時社員に対する希望退職の募集など他の人員削減の方法を採ったことはないのみならず、昭和57年には臨時社員を5名も採用していることを考慮すると、債権者を雇止めにすることについて誠実な態度を採ったか著しく疑問であり、債権者に対して雇止めをなすには社会通念上合理的な特段の事情があることを認めることができない。
債務者秋田工場では、パートタイマーをも含む労働組合が昭和55年3月に設立され、債権者も当初からこれに加入し、同組合は、法違反の申告や雇用保険の適用などパートタイマーの権利獲得の活動を行い、成果を挙げていた。このような状態の中で、債務者は昭和55年11月から、パートタイマーについて時間短縮の方法を取り、債権者はこれに反対しながらも、労働時間を5時間45分とする雇用契約書に署名・押印したが、他のパートタイマー5名と共に8時間の勤務を要求するストライキを行った。しかし会社の方針通り時間短縮は実行され、その結果パートタイマーは雇用保険や有給休暇請求の要件を喪失した。債権者は労働組合の一員として組合の運動を積極的に推進したもので、債権者に対する配転や雇止めの意思表示は債権者を嫌避してなされたといわざるを得ない。
以上によれば、他に右雇止めについて特別な事情の主張、疎明がない以上、債務者の債権者に対する雇止めの意思表示は、期間満了によって労働契約を終了させることを認めるに足りる特段の合理的な事情があると認められない上、債権者を嫌避してなされたものである以上、右雇止めは効力がないものといわざるを得ない。したがって債権者と債務者との間には、期間1ヶ月とする労働契約が、毎月1日更新されており、有効に存続しているということができる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例417号57頁
- その他特記事項
- 本件は本訴に移行した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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昭和57年(ヨ)第19号 | 認容 | 1983年08月26日 |