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四日市カントリー倶楽部キャディー解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
四日市カントリー倶楽部キャディー解雇事件
事件番号
津地裁 − 昭和59年(ワ)第11号
当事者
原告 個人53名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1985年05月24日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告はゴルフ場を経営する従業員数約100名の株式会社であり、原告らは被告に雇用されるキャディーである。

 被告は、恒常的に営業収支が赤字であり、その原因がキャディーに対する高賃金にあるとして、就業規則の解雇規定「事業の縮小その他やむを得ない経営上の理由があるとき」に基づき、昭和58年12月30日付で原告らを含むキャディー従業員全員を整理解雇した。被告は、仮に本件解雇が無効であり、原告らが被告の従業員たる地位を有するとしても、被告においては既にキャディー制度そのものを廃止しており、キャディー業務は休業状態にあるから、被告は原告らに対し労基法26条に基づく平均賃金の60%の休業手当の範囲内で支払い義務があるに留まると主張した。

 これに対し原告らは、被告とクラブは実質的に一体であり、これらを合わせれば大幅な黒字であって経営危機は全くなく、キャディー制度の廃止の必要性はいささかも存しないこと、キャディーに対する高賃金は虚偽であること、仮に本件整理解雇が就業規則の規定する解雇事由に該当するとしても、直ちに労働者を解雇することは許されず、解雇回避努力、労使協議が求められるところ、被告はこれらを全くせずに本件整理解雇したものであるから、本件整理解雇は、労働契約上の信義則違反ないし解雇権の濫用として無効であると主張し、賃金の支払いと、精神的苦痛に対する慰藉料を原告それぞれにつき20万円請求した。

 なお、本件については、解雇の前々日である昭和58年12月28日に、本件整理解雇の効力を停止する旨の仮処分決定がなされたが、被告はその後もキャディー制度の廃止は役員会で決定されたとの理由で、原告らに自宅待機を命じ、その就労を拒否していた。
主文
1 別紙(1)賃金債権一覧表1,3,8ないし53の原告らが被告の従業員たる地位を有することを確認する。

2 被告は、

一 別紙(1)賃金債権一覧表番号1,8ないし53の原告らに対し、それぞれ、別紙(2)一時金計算表「夏期」欄及び「年末(2)」欄に各記載の金員とこれに対する昭和59年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員、別紙(1)賃金債権一覧表G欄に各記載の金員、昭和59年2月以降毎月28日限り別紙(1)賃金債権一覧表F欄に各記載の金員並びに金10万円

二 原告Aに対し、金35万5643円と内金25万5643円に対する昭和59年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員 

三 原告Bに対し、金50万1880円

四 原告Cに対し、金141万7769円と内金11万9640円に対する昭和59年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員

五 原告Dに対し、金191万3580円と内金12万4640円に対する昭和59年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員

六 原告Eに対し、金181万7030円と内金12万8640円に対する昭和59年12月22日から支払済みまで年5分の割合による金員

七 原告Fに対し、金195万9096円と内金12万8640円に対する昭和59年12月22日から支払い済みまで年5分の割合による金員

 を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを12分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

5 この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
1 地位確認請求について

 被告の収支はなるほど形式的には赤字であり、その1つの要因としてキャディーに対する相対的高賃金が挙げられることは事実としても、それのみが原因でないばかりか、形式的にはクラブの収入として会計処理がなされているが実質的には被告に帰属するとみられる収入があり、これを考慮すると被告は大幅な黒字であって、被告が主張するような経営危機は全く存せず、したがって危機回避のためキャディー制度を廃止しなければならない事業上の必要性も存しないことが明らかである。もとより企業は、当面の危機は存しなくても、企業の維持、発展を図り、将来の経営危機に備えるため経営を合理化し、それにより生じた余剰人員を整理解雇することも全く許されないわけではない。しかし、このような予防型の整理解雇の場合は、就業規則中の解雇事由「やむを得ない経営上の事由」の有無の判断は、緊急避難ないし防衛型の整理解雇に比して、より慎重、厳格になされるべきであろう。

 これを本件についてみるに、被告の経営収支は大幅な黒字であり、他方キャディー制度はゴルフ場経営と一体不可分の関係にあり、その廃止はゴルフ場の品格の低下や利用者の減少を招きかねず、いわばゴルフ場経営の根幹にかかわる問題であり、加えてその廃止による解雇は、被解雇者であるキャディーにとって、生活の基盤の破壊をもたらすものであるのに、被告はこれといった事前の調査、検討もなしに電磁式カートを導入したことから、短絡的にキャディー制度を廃止し、即キャディー全員を解雇したものであって、これはいかにも唐突で説得力に欠け、費用節減という目的に比して明らかに均衡を失するというべきである。とすれば、本件整理解雇は、就業規則の「やむを得ない経営上の事由」に該当しない違法無効な解雇というほかない。

 被告と原告らが所属する組合との間で、女子雇用保障について57歳までとする等を内容とする協約があるが、これはコース管理に従事する職員を対象とするものであり、キャディーの再雇用期限を延長する趣旨ではないところ、原告B,C,D,E,Fは、いずれも昭和59年中に再雇用期限の上限である55歳に達しているから、被告との間の労働関係は終了したものである。したがって、被告の従業員たる地位の確認を求める原告らの請求は、B,C,D,E,Fに関しては棄却を免れないが、その余に関してはこれを認容すべきである。

2 賃金請求について

 本件整理解雇は就業規則の解雇事由に該当せず無効であるから、原告らは昭和58年12月31日以降も被告の従業員として民法536条2項に基づき賃金及び一時金を請求し得る。被告はこの点に関し、労基法26条により、平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りる旨主張するが、労基法26条の規定は民法536条2項の規定の適用を排斥するものとは解されないのみならず、原告らの不就労は、被告の違法な解雇によりもたらされたものとして、民法536条2項の帰責事由が被告にあることは明らかである。

3 慰藉料等請求について

 被告のした本件整理解雇が違法なものであり、かつ被告に少なくとも過失の認められることは明らかであるから、原告らは解雇の無効を主張して賃金債権等の履行を求め得るはもとより、なお損害があるときはこれを不法行為として請求することができると認められる。原告らは慰藉料を請求するが、違法解雇による精神的苦痛は、その解雇の無効確認、賃金債権の履行を得ることによって慰藉されるのが通常である上、原告らは本件整理解雇の効力停止の仮処分決定を得ていること等をも考慮すれば、原告らにはなお慰藉されなければならない精神的損害は認められないというべきである。本件事案の内容、その請求認容の範囲等に照らし、原告らが被告に対し損害として請求し得る弁護士費用は、原告B,C,D,E,Fはそれぞれ金5万円、その余の原告らはそれぞれ金10万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
民法536条2項
収録文献(出典)
労働判例454号16頁
その他特記事項