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妻子持ち同僚恋愛関係解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
妻子持ち同僚恋愛関係解雇事件
事件番号
旭川地裁 − 昭和63年(ヨ)第60号
当事者
その他債権者 個人1名

その他債務者 有限会社S設備
業種
建設業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年12月27日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 債務者は管工事の施工等を業とする従業員10名程の有限会社であり、債権者は昭和61年11月に経理事務担当として債務者に採用された女性である。

 債権者は、採用後間もなく、債務者の男性従業員Aと親しくなり、従業員や取引関係者の間で2人の仲が取沙汰されるようになった。債務者の代表者は、債権者及びAの行為等について従業員から苦情が寄せられたことから、Aに対して注意を促したが、その態度に変化はなかった。同代表者は、その後も再三にわたり債権者及びAに対し注意を促してきたが、昭和63年3月頃、Aの妻からAが度々債権者宅に宿泊し、離婚の意思を表明するようになったと苦情が寄せられたことから、両者に厳重注意をしたところ、債権者は「恋愛は自由である」と、全く反省の態度を示さなかった。そこで同代表者は、両者の関係は、いわゆる不倫として社会的に非難されるべきことであり、債務者の信用を著しく傷つけ、業務の遂行に支障を来すと判断し,同年4月9日、債権者を就業規則所定の「素行不良で職場の風紀・秩序を乱した」場合に当るとして懲戒解雇した。

 これに対し債権者は、Aとの恋愛関係は認めたが、それにより会社の風紀・秩序が乱されたことはなく、会社に対する相当重大な悪影響があったこともないとして、懲戒解雇の無効を主張し、雇用契約上の権利の確認と賃金の支払いを求めた。
主文
1 債権者が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 債務者は債権者に対し昭和63年6月1日以降本案判決言渡まで毎月15日限り1ヶ月金12万円の割合による金員を仮に支払え。

3 債権者のその余の申請を却下する。
4 申請費用は債務者の負担とする。
判決要旨
 債権者が妻子あるAと男女関係を含む恋愛関係を継続することは、特段の事情がない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為であるから、債務者の就業規則所定の「素行不良」に該当し得ることは一応否定できないところである。しかしながら、同規定中の「職場の風紀・秩序を乱した」とは、これが従業員の懲戒事由とされていることなどからして、債務者の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきところ、債権者及びAの地位、職務内容、交際の態度、会社の規模、業態等に照らしても、債権者とAとの交際が債務者の職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと認めるに足りる疎明はない。以上の次第で、本件解雇は、懲戒事由に該当する事実があるとはいえないから無効であり、他に主張・疎明のない本件においては、債権者は依然として債務者の従業員たる地位を有するものである。

 本件解雇当時の債権者の賃金月額が、基本給11万円、住宅手当1万円であり、債権者はそれまで債務者からの賃金で生計を維持しており、賃金の支給を受けられなければ回復しがたい損害を受けるおそれがあると一応認められるので、1ヶ月あたり12万円の限度で仮払いについて保全の必要性があり、通勤手当については仮払いを認められない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例554号17頁
その他特記事項