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F社定期社員雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- F社定期社員雇止め事件
- 事件番号
- 長野地裁松本支部 - 平成6年(ヨ)第82号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1996年03月29日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、電機機械器具の部品加工等を目的とする会社であり、F電機の100%出資の子会社である。債権者は、昭和45年にF電機松本工場に採用された女性であり、昭和53年2月に退職した後、昭和56年4月に債務者が設立された際に採用され、以後債務者の従業員として勤務し、昭和61年5月以降、債務者の定期社員として6ヶ月の期間を定めて雇用され、期間満了の日をもって雇用契約を解除する旨の契約書を取り交わし、以後これを平成5年11月20日までの間反復した。
債務者は業績が悪化したことから、債権者ら定期社員に対し、次期雇用契約締結予定日の10日前である同年11月10日に、次の6ヶ月の定期雇用契約が終了する平成6年5月20日をもって退職するよう促したところ、同契約締結後、退職を申し出る者がいなかったので、債務者は加齢のため細かい作業のできない者3名と、勤務態度に問題がある債権者に対し、(1)会社の経営状況が苦しく、平成6年5月以降の雇用はできないこと、(2)関連会社で清掃業務があり、給与等従前通りの労働条件を保障するから、転社の意思があれば斡旋することを申し出た。しかし、債権者はこれを拒否したため、同年5月20日をもって雇用契約は終了した。
これに対し債権者は、本件雇用契約は期間の定めのない契約であるか、又はその実質において期間の定めのない雇用契約と異ならない状態で存在していたものというべきであり、本件雇止めは解雇に当たるから、解雇の法理が適用又は類推適用されるべきであるとした上で、本件雇止めは整理解雇4条件を満たすべきところ、(1)債務者の業績は好調であり雇止めを行う経営上の必要性は認められないこと、(2)債務者は雇止めを回避するための最大限の努力を尽くしていないこと、(3)債権者は独身女性で債務者からの給与に依存して生計を営んでいる生活困窮者であるから、雇止めの対象として合理性を欠くこと、(4)債務者が本件雇止めに関し債権者と面談したのは2回に過ぎず、雇止めに関する説明、協議を尽くしたとはいえないことを主張し、債権者が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを求めた。
一方債務者は、契約期間満了によって本件雇用契約関係が終了したものであって、解雇には当たらないこと、仮に解雇に関する法理が類推適用されるとしても、債務者は極度の業績不振により定期社員等に退職勧奨や希望退職の募集などを行うなど、雇止めを回避するためあらゆる努力をしたこと、対象者の人選についても、債権者は従来から協調性がなく欠勤も多く上司から退職を勧告されたこともあり、家庭環境から見ても雇止めによって直ちに生活が困窮・破綻することはないと認められること、事前に債権者らに対し、人員整理の必要性について十分説明、協議する義務を尽くしたとして、本件雇止めの有効性を主張した。 - 主文
- 1 本件申立を却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件雇用契約の性格について
本件雇用契約は、6ヶ月という期間の定めのある雇用契約に他ならず、これがその後反復更新を多数回重ねたことのみによって期間の定めのない雇用契約に転化したという事はできない。しかしながら、定期社員に関する就業規則には、長期間の雇用継続を期待させる規定があり、実際、本件雇止め以前には期間満了で雇止めされた定期社員がいないこと、債権者自身、雇用契約を多数回反復更新し、約13年間にわたり債務者に勤務し続けたものであること等によれば、債権者、債務者双方としても、雇用期間が満了しても直ちに雇用関係を終了させようとの意思を有していなかったことは明らかであり、一定の継続的な雇用関係を前提としていたということができるから、債権者の本件雇用関係の継続に対する期待については、これを保護する必要がある。
以上から、本件雇用契約においては、雇止めをするについて解雇に関する法理が類推され、正当な事由が認められる場合に雇止めが有効になると解すべきである。しかしながら、期間の定めある本件定期社員については、いわゆる終身雇用を前提に雇用関係の継続に対する強い期待の下に期間の定めのない契約を締結する正社員と異なり、解雇に関する厳格な法理をそのまま適用することは相当でない。したがって、本件雇止めの有効性の有無については、解雇に関する法理を前提としつつ、諸般の事情を総合し、全体として雇止めを認めることに合理性があるといい得るか否かを判断すべきである。
2 人員整理の必要性、雇止め回避義務について
本件当時は、松本事務所以外の債務者全体としても赤字収支が続き、債務者松本事務所の主たる取引先であるF電機松本工場は、平成4年、5年に多額の赤字決算となり、平成6年度もさらに多額の赤字決算となる見込みであったから、同事務所において、当時、人員整理の必要性がなかったとはいえない。債務者は、経費節減、残業規制、定期社員等の新規採用の停止、高齢定期社員等の退職勧奨などをし、更に余剰人員整理の必要上、定期社員に希望退職を募ったが申し出る者がいなかった。そこで、債権者ら雇止めの対象とされた4名に対して、従前と同一の労働条件を保障した上で、同じF電機グループ内の1社を斡旋していることからすれば、債務者としては、雇止めを回避すべき義務を相当程度尽くしたものということができる。
3 雇止め人選の合理性について
債権者は、昭和52年末頃、当時勤務していたF電機松本工場を約10日間連続で無断欠勤したため、同工場の担当者が退社を促し、自己都合退職をした。債権者は、債務者松本事務所入社後も、欠勤が多い、勤務態度に問題がある、作業内容に対する不平不満が多く職場内の協調性がないなどとして、同人の派遣先から苦情が寄せられたことから、所長は債権者に対し注意をし、更に退社を促したこともあった。その後、債権者の欠勤等はなくなったが、勤務態度等に大きな改善はなく、平成5年3月の勤務評定でも「勤務態度にやや問題あり」「退職しても補充不要」等と評価され、この評価に基づいて本件雇止めがなされたものである。以上の経緯に照らせば、債務者が、債権者を雇止めの対象として人選したことについては合理性があるといい得る。なお、債権者は未婚女性で、自らの賃金で生計を立てなければならず、新築した建物建築費につき一定の負担をする必要があることも首肯しうる。したがって、使用者としては、債権者のような立場の定期社員については、可能な限り雇用関係を維持するよう努力すべきであるが、債務者としては、従前と同一の労働条件を保障して転職先を斡旋するなど債権者の生活保障に一定の配慮を尽くしており、この点に債権者の勤務評定、本件雇止めに至る経緯等を併せて考慮すれば、債権者を雇止めの対象とすることが不合理であったとはいえない。
4 雇止めに関する説明・協議義務について
債務者は、次期定期社員契約締結予定日の10日前に人員整理の必要性等について定期社員等に説明し、雇止めの対象となる債権者らには個別に面接し、人員整理の必要性の説明や転職先の斡旋等を行い、更に雇止めの意思表示から期間満了に至るまでの間も、本件雇止めについての話し合いを持ち、そこで債権者に対し説明、説得がなされている。そして、債務者が行った一連の退職や転職の要求に対しては、債権者以外の定期社員等は概ねこれに応じているから、当時の債務者松本事務所における経営悪化や人員整理の必要性については、大多数の従業員の了解が得られるような説明がなされていたことが窺われる。したがって、債務者は債権者ら定期社員に対し、人員整理の必要性等について了解を得るため、説明、協議すべき義務を相当程度尽くしたということができる。
以上の諸事情を総合すれば、本件雇止めには正当な事由があったというべきであり、本件雇用契約は、平成5年5月20日に終了していたものといえる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例719号77頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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