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タクシー運転手深夜勤務拒否解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
タクシー運転手深夜勤務拒否解雇事件
事件番号
浦和地裁草加支部 − 平成7年(ヨ)第77号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 有限会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1996年08月16日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 債務者は、タクシー業を営む会社で、債権者は、平成3年7月債務者にタクシー乗務員として雇用され、深夜勤務を行わない日勤勤務をしていた女性である。債務者の乗務員は約120名であり、平成3年末には、日勤勤務の乗務員は債権者を含め10名いた。

 債務者と労働組合は、平成7年1月、日勤制を廃止する旨の協定を結び、これに伴い債務者は同年4月に就業規則を変更し、昼間日勤制を廃止した。そこで債務者は債権者に対し、これまでの日勤勤務から深夜勤務を含む隔日勤務とする旨の文書を交付したところ、債権者はやむを得ず隔日勤務を内容とした雇用契約書を提出した。その際、債権者は隔日勤務に同意したわけではないこと、入社時の条件が日勤勤務だったのでこれからも日勤勤務を認めて欲しいことを雇用契約書に付記したところ、債務者に受領を拒否され、債務者は就業規則に定める「職務上の法令又は会社の諸規則に違反したとき、上長の命令に服さないとき、職務上の規律を乱し又は乱そうとする行為があったとき」に該当するとして、債権者を普通解雇した。

 これに対し債権者は、労働契約の内容は日勤制昼間勤務で、入社当初から本件解雇通告を受けるまで一貫して日勤勤務をしており、債務者もこれに異議を唱えたことはなかったとした上で、隔日勤務は深夜勤務を伴うところ、女子の深夜業は労働者本人から申し出がある場合に例外的に許容されるものであり、法律上女子労働者本人の申し出がない以上就業できないものであるから、かかる労働条件の不利益変更には女子労働者の個別の同意が必要であり、たとえ債務者と組合との間で日勤勤務廃止、隔日勤務への移行等労働協約の成立があっても、深夜業従事の届出のない女子乗務員については無効であるから、債権者が隔日勤務の命令に従わなかったとしても、解雇事由には当たらず、これに該当するとしてなされた本件解雇は解雇権の濫用で無効であるとして、従業員の地位の保全と賃金の支払いを求めた。
主文
1 債務者は、債権者に対し、平成8年8月から平成10年7月まで、毎月15日限り金13万円を仮に支払え。

2 債権者のその余の申立を却下する。

3 申立費用は債務者の負担とする。
判決要旨
 債務者においては、ほとんどの乗務員は隔日勤務に従事しており、日勤勤務の乗務員は例外的であったところ、債務者における日勤制廃止は、全車両を終日稼働させて効率を高め、売上げの増加を図るという経営対策からなされたもので、経営上の必要性は高い。しかも債務者は、組合と協議を重ね、日勤制廃止を合意して組合と協定を結んだ上で就業規則を変更したもので、かかる就業規則の変更自体合理性が認められないわけではない。しかし、日勤制を廃止して隔日勤務のみに変更すると、日勤勤務していた従業員にとって、単に勤務時間の変更という以上に、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することになるという面があることは否めない。のみならず、労働基準法では、女子労働者の健康、福祉の観点から、女子の深夜業は原則として禁止され、深夜業に従事することを使用者に申し出た者であって、行政官庁の承認を受けたものについては例外的に深夜業に従事することができるとされている(64条の3第5号)。それゆえ、債務者において隔日勤務のみに勤務形態を変更する場合、深夜業に従事することになるために、変更に同意しない女子乗務員については深夜業従事の申し出を強制される結果になり、女子の深夜勤務を禁止した労働基準法にも違反することになる。したがって、かかる勤務形態、労働条件の不利益変更については、少なくとも日勤勤務に従事している女子乗務員個々の同意を必要とするものであり、日勤勤務に従事していた債権者の同意がない以上、就業規則の変更による勤務条件の変更は効力を生じないのであって、債権者は隔日勤務に従事する義務はない。

 債務者は、債権者を雇用する際、債権者は隔日勤務を合意したのであるから、包括的に深夜勤務の申出をしたもので、労働基準監督署長の承認手続きを拒否することは許されない旨主張するが、債権者は雇用される際、隔日勤務に従事することは明確には合意されておらず、仮に債権者が抽象的に隔日勤務を承知していたとしても、その後債権者は一貫して日勤勤務を続け、債務者において債権者の勤務条件としては日勤勤務が確立していたのであるから、債権者が包括的に深夜勤務の申出をしたとみることは困難であり、日勤制を廃止して深夜勤務を伴う隔日勤務に移行した際、債権者の深夜勤務の申出が必要であり、かかる労働条件の不利益変更にあって、債権者がその申出をしなければならない義務があると解することはできない。したがって、債権者が隔日勤務という勤務条件に従わなかったことが債務者の業務命令に従わなかったことに該当するとしてなされた本件解雇は解雇権の濫用に当たり、無効といわざるを得ない。
適用法規・条文
労働基準法64条の3
収録文献(出典)
労働経済判例速報1627号3頁
その他特記事項