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N社パート雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
N社パート雇止め事件
事件番号
東京地裁 − 平成10年(ヨ)第21088号
当事者
その他債権者 個人3名A、B、C
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1998年10月23日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、各医療機関からの委託を受けて、医療に用いられた器具の減菌業務の代行を主たる業務とする株式会社であり、債権者らは債務者に雇用されたパートタイマーの女性である。債務者は、各医療機関から1年単位の契約で、医療器具等の減菌業務、手術室の清掃、医療ごみの片付け等の業務を行っており、債務者の業務量は毎年変動の可能性があるため、減菌サービス業務等に従事させる従業員は、就業する医療機関を特定し、パートタイマーとして雇用していた。

 債権者Aは、平成7年3月31日に、債権者Bは平成8年2月8日に、債権者Cは平成9年2月24日に、それぞれ債務者に入社し、1年契約で雇用契約を更新し、平成10年3月31日まで本件病院において、手術等の治療の準備、治療中の補助、中央材料部における減菌業務及びリネン室等における業務に勤務していた。

 債権者が債務者らに対し平成10年3月31日をもって雇止めする旨の通知をしたのに対し債権者らは、債務者との間の雇用契約は実質的に期間の定めのない契約であるから、本件雇止めは解雇であり、債権者らに対し理由を説明せずになされており、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できないこと、仮に本件各雇用契約が期間の定めのある契約であったとしても、債務者から期間の定めがあることについて説明がなかったこと、債権者らの業務が専門的知識と経験を必要とするものであること、これまで雇止めになった者もいないことからすれば、債権者らが契約更新について期待することには合理性がある一方、本件雇止めには業務縮小等に人員削減の必要性もなかったから、信義則違反ないし権利の濫用に当たり無効であるとして、従業員の地位の保全と賃金の支払いを求めた。
主文
1 債権者らの本件申立てをいずれも却下する。
2 申立て費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
 債権者らは、本件雇用契約締結及び更新の際、雇用期間について債務者から明確な説明を受けていないが、パートタイマー労働契約書には時間給、債権者各自の個別的事情によって決定された勤務時間が記載され、それが1年単位で作成され、勤務時間や時間給は契約更新の際に変更されていることからすると、債権者らはいずれも各契約書の内容を確認、理解した上、それらに署名・捺印したものというべきである。

 「長く勤められる方歓迎」の求人広告、債権者らが面接の際長く勤めて欲しい旨担当者から説明されたことについては、そのような求人広告の記載や担当者の言動は抽象的なもので、直ちにこれをもって雇用期間を明示したものと解するのは困難である。また、債権者らの従事していた業務は、病院内における通常的かつ恒常的な業務であり、専門的知識が不要ということもできないが、通常的かつ恒常的だからといって期間の定めのない契約であるということはできないし、求人案内の募集要項に「未経験者可」と記載されていることや、債務者が長期間にわたる研修を実施した形跡もないことなどからすれば、直ちに高度の専門性が必要であるということはできないというべきであり、債権者らの業務の性質から、本件各雇用契約が期間の定めのない契約であるということはできない。これらの事情や債権者らの各雇用契約の更新回数、業務形態及び就業規則からすれば、本件各雇用契約をして期間の定めのない契約あるいは実質的に期間の定めのないものと同視すべき契約であったとまで認めることはできない。

 債権者らはいずれも雇用契約を更新していること、契約更新手続きの際、十分な説明や話合いはなかったこと、業務は通常的かつ恒常的なものであったこと、これまで本件病院において雇止めになったパートタイマーはいないことなどからすれば、債権者らが雇用継続についてある種期待を抱いた可能性も否定できない。しかし、一方において、債務者と各医療機関との業務委託契約が1年単位であり、債務者の業務量が変動を免れず、債務者はそれに対応するためにパートタイマーを多数雇用していたことが認められる。更に各契約更新手続きの際に作成されている契約書の内容は詳細にわたり、勤務時間や時間給の変更も契約書に記載されるなど、債権者にとっては形式的で、内容を確認する必要さえないという性質の文書ではない上、それ自体から当然に契約が更新されるものとは解釈できないこと、これまで雇止めになったパートタイマーはいなかったとしても、定着率は悪く、契約更新者の数も多くないものと推測されるし、債権者らの雇用契約の更新は最大3回、3年間に過ぎない。これらの事情に照らせば、債権者らが雇用継続に対して何らかの期待を抱いたとしても、それは少なくとも法的保護に値する程度に達していたということまではできないのであって、そうだとすれば、期間を平成9年4月1日から平成10年3月31日までの1年とする本件各雇用契約は期間の満了によって当然に終了したものというほかない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1694号12頁
その他特記事項