判例データベース
R通信社契約社員解雇事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- R通信社契約社員解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成7年(ワ)第13077号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年01月29日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、国際的な通信社の日本における会社であり、平成6年春から日本語による株式情報サービスを実施することとし、平成6年1月1日付けで原告(女性)をトランスレーターとして雇用した。原告が署名した通知書には、本件雇用契約は平成6年1月1日から同年12月31日までの1年間とするものであること、基本給総額は45万9000円であること、正社員に適用される賞与その他の手当は支給されないこと等が記載されていた。
被告は、平成5年度の募集で、原告を含め7名のトランスレーターを採用したが、雇用期間1年としたのは原告のみで、他の6名は期限の定めのない雇用契約を締結した。被告が原告を期限付き契約としたのは、試験の結果、編集局長が原告の採用に消極的であったことから、妥協案として、1年後に契約を延長するか、打ち切るか、正社員にするか決定するという結論になったからであった。
原告は、他のトランスレーターと同様のシフト勤務についていたが、平成6年6月に行われた中間パフォーマンス・レビューの結果、日本語編集部門責任者Aから、原告の評価は他の人より厳しいこと、契約期間が1年なので長期目標を持たせることはできない旨伝えられた。その後被告は原告に対し、平成6年11月21日付け確認書で、同年12月31日をもって雇用契約は終了する旨通知し、同日をもって雇用契約を終了させた。
これに対し原告は、採用の際、被告総務部職員から「形式上1年契約とするが、1年後には契約更新か正社員になる」と説明されていたから、原告と被告とは期限の定めのない雇用契約を締結したものというべきであり、雇用関係終了の通知は解雇に該当し、当該解雇には合理的理由がなく解雇権の濫用に当たること、仮に期限付きの雇用契約であるとしても、契約更新拒絶は信義則上許されないことを主張し、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めた。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 新聞に掲載された募集広告は正社員の募集であることは否定できないし、被告としても原則として正社員の採用を予定していたが、雇用契約は使用者と労働者の間で個別的に締結されるものであり、新聞の募集広告はそれ自体契約の申込みということはできないのであって、新聞の募集広告も期間の定めのない雇用契約の根拠とはならない。むしろ原告以外の6名のトランスレーターを正社員として採用した被告においては、契約社員として原告を採用するのは異例のことであったというべきで、通知書の期間の定めを形式的なものとする認識は全くなく、文字通り期限付きの雇用契約を締結する意思で、本通知書を作成したものということができる。そして原告においても、期間満了後も契約の更新や正社員への採用があるとしても無条件ではないことを認識し、その上で通知書に署名していること、更に中間パフォーマンス・レビューの結果説明を受ける際、原告の雇用期間が1年である旨説明されて異議を述べていないことなどに照らせば、原告としても自分が期限付きの契約社員であることを認識していたというべきである。したがって本件雇用契約は、期限付きの契約というほかない。
期限付き雇用契約の更新拒絶等が信義則上許されないのは、当該雇用契約について、労働者に契約更新を期待する合理的理由がある場合であることは確立した判例であり、当該労働者の期待が合理的かどうかは、当該雇用契約時の状況、就業実態や待遇、契約更新の手続等の事情を総合的に考慮して決すべきものと解せられる。採用時の総務部職員の発言は、契約更新あるいは正社員への採用の可能性もあるという程度の趣旨に留まるものであり、その発言から原告が何らかの期待を抱いたとしても、それは主観的なものに過ぎないというほかなく、この期待に合理的理由があるということはできない。しかも、入社した他のトランスレーターの6名全員が原告と異なり正社員として雇用され、契約社員の待遇は正社員と明確に異なっており、Aが原告に対して、契約社員であるから長期の目標は与えられない旨の発言をしていることからすれば、正社員と契約社員とで扱いを異にしていたというべきであるし、契約社員が正社員として採用される際には新たに期限の定めのない雇用契約を内容とする契約書を作成していることなどからすると、他の契約社員が正社員に採用されたことから直ちに契約更新についての期待に合理的な理由があったというのは困難である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例760号54頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|