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W社パートタイマー解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
W社パートタイマー解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 平成12年(ワ)第5267号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年12月01日
判決決定区分
一部認容・一部却下・一部棄却(確定)
事件の概要
 被告は、建設機械その他産業機械の製作、修理、販売等を目的とする企業であり、原告は、派遣社員を経て昭和59年7月、被告に英文タイピストとして雇用され、6時間勤務で勤務していた女性である。

 被告は、原告の所属する国際営業部において、英文タイプの必要性がなくなり、原告が余剰人員化したとして、平成12年1月31日、パートタイマー就業規則11条の「会社の都合により、雇用の必要がなくなったとき」に当たるとして、原告に対し、同年2月末日をもって解雇する旨意思表示をした。これに対し原告は、「期間を定めて雇い入れた者」ではないから、解雇の根拠とされた就業規則の適用はないこと、本件解雇は正当な理由なく行われたもので、解雇権の濫用であり、無効であると主張して、従業員としての地位保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申立てを行った。

 仮処分では、債務者(被告)主張の就業規則を適用して債務者側の需要の有無のみに基づいて解雇の有効性を判断することは適当でないとした上で、整理解雇の相当性についての疎明が十分でないとして、債権者(原告)の従業員としての地位と賃金の支払いを認めた。
主文
1 本件訴えのうち、本判決確定の日より後に支払期日が到来する賃金の請求を求める部分を却下する。

2 原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。

3 被告は、原告に対し、平成12年3月以降本判決確定の日まで、毎月27日限り、各21万4725円の支払いをせよ。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。

6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 被告の主張する解雇の事由は、余剰人員になったことを理由とするものであって、余剰人員になったというだけで解雇が可能なわけではなく、これが解雇権の行使として、社会通念に沿う合理的なものであるかの判断を要し、その判断のためには、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力の履践、説明義務の履践などは考慮要素として重要なものというべきである。被告の経常利益は半減の状況にあり、平成11年度の正社員は541名と、前年度39名の減少となったが、希望退職の募集や整理解雇の前提としての退職勧奨は行っていない。また、従業員の残業規制や賞与のカット、取締役の報酬減なども行った。被告の国際営業部では、海外取引業務の簡素化、パソコン導入等によって英文タイプの必要がなくなったことから、原告は定型的補助業務に従事しており、しかも営業不振やEメールの普及によって、原告は余剰人員化した。

 以上鑑みるに、本件解雇は、経営不振を理由に行われたものではなく、いわゆるリストラの一環として、余剰人員化した原告を解雇したものであるところ、確かにいわゆるリストラを行うこと自体は、企業の合理的判断として相当なものであったといい得るし、英文タイピストとして雇用した原告が専門性を失い余剰人員化していたことも認めることができる。しかしながら、解雇は賃金によって生計を維持する労働者にとって重大な影響を与えるものであるところ、余剰人員化したというだけでは何らの責任もない労働者を解雇できるものではない。原告は、勤務時間が正社員より1時間30分短いだけであり、かつ本件解雇までに既に15年以上勤務していた者であって、雇用継続に対する期待度は高く、雇用関係の継続に対する期待、信頼について正社員に近いものがある。そして、英文タイピストの必要性がなかったことは認められるものの、原告は相当以前から一般補助事務要員として業務を行っていたものであって、一般補助事務要員としてであれば他部署に配置することも可能であったということはできる。

 正社員については、退職勧奨が行われているわけではなく、その後被告はパートタイム労働者を雇用しており、解雇回避のためには原告をフルタイム労働者に職種変換することも考えられてよく、配転の可能性がなかったとはいえない。原告の賃金は、新規雇用のパートタイム労働者から見れば相当に高額であるが、原告と同程度の勤務歴を持つ正社員の賃金に比べればそれほど高額とはいえず、解雇回避の手段としての出費という意味では、これを捻出することができないほどに解雇の必要性があったとはいえない。然るに、被告は、原告に対し、配置転換の提示をしていないし、退職勧奨も行っていないのであって、いわゆるリストラ実施中であることを考慮しても、解雇回避の努力を尽くしたとはいい難いものである。

 以上によれば、原告の解雇は、社会通念に反するものといわなければならず、本件解雇は、パートタイマー就業規則11条に規定する解雇事由(会社の都合により、雇用の必要がなくなったとき)に該当しないものであり、少なくとも解雇権の濫用として無効なものである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例808号77頁
その他特記事項