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Y社雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
Y社雇止め事件
事件番号
浦和地裁川越支部 - 平成12年(ヨ) 第59号
当事者
その他債権者 個人2名A、B
その他債務者 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2000年09月27日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、施設の総合保守管理業務及び保険業務等を目的とする株式会社である。債権者A(昭和7年8月生)は、昭和51年3月、合併前のS社にパートタイマーとして雇用され、平成4年3月21日に1年間の期間を定めた雇入通知書を交付され、その後も毎年3月21日から1年間の雇入通知書を交付され雇用されていた女性であり、債権者B(昭和7年1月生)は、平成5年2月、S社に1年間の雇用期間の定めある嘱託として雇用され、その後も毎年3月21日から1年間の雇用契約書を取り交わしてきた女性である。

 債務者は、平成11年2月17日、債権者らに対し、同年3月21以降の雇用契約更新を行わない旨口頭で通知した。これに対し債権者らは、労組に加入して、雇用継続の申入れを行い、債務者と労組との協議の結果、債務者は債権者らについて、雇用契約を1年間に限り更新することとし、平成12年3月21日以降の雇用延長は行わない旨表明し、債権者らについて、平成11年3月21日から1年間の期間の定めのある雇用契約として扱うことにした。そして、債務者は、平成12年2月、債権者らに対し、雇用契約を更新しない旨伝え、同年3月20日タイムカードを回収した。なお、労組は同日以降の雇用契約の更新についてはその時点での状況を考慮の上協議する旨回答し、合意に至らなかった。

 債権者らは、Aが23回、Bが6回雇用契約を更新しており、実質的には期間の定めのない雇用契約ということができること、仮に期間の定めのない雇用契約とは認められないとしても、債権者らが期間満了後の雇用の継続を期待できることに合理性が認められることは明らかであることから、解雇の法理が適用されるべきところ、本件雇止めは、社会的に相当と認められるだけの合理的理由は存在しないとして、雇用契約上の地位の保全と賃金の支払いを請求した。
主文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
 債権者Aが60歳定年を迎える平成4年3月に雇入通知書の交付を受けていること、同通知書には1年間の雇用期間であることが明記され、それを条件に採用されたこと、債権者Aが60歳に達した日である平成4年8月15日に、債務者から30万円の功労金が交付されていることなどの事情にかんがみると、債権者Aの雇用形態は、平成4年3月21日をもって、期間の定めのある雇用契約になったことが認められる。

 債権者らは、債権者Aの雇用契約の更新手続きは完全に形骸化しており、実質的には期間定めのない雇用契約である旨主張するが、(1)債権者Aの雇用契約上の地位はパートタイマーであり、就業規則もパートタイマーのものが適用されること、(2)パートタイマー制度は、従業員の不足を補う一時的なものであって、もともと長期雇用を予定していないこと、(3)債権者Aが期間の定めのある雇用契約を数回更新されたとはいえ、これは債務者の人手不足による一時的な要因に過ぎないこと、(4)雇入通知書の記載文言などにかんがみると、雇用契約の更新手続きが形骸化しているものとはいいがたい。

 債権者Bは、平成5年3月21日以後債務者との間で、1年間の期間の定めのある雇用契約書を取り交わしてきており、債権者らは、雇用契約の更新手続きは形式的なものであり、更新も多数回に及び、実質的には期間の定めのない雇用契約ということができると主張する。しかしながら、(1)債務者こ雇用態勢には社員と嘱託とが峻別され、そのことは就業規則でも明記されていること、(2)嘱託制度は、従業員の不足を補う一時的なものであって、原則として60歳以上の者に適用されるもので、もともと長期にわたる雇用を予定しているものではないこと、(3)債権者らが雇用契約を数回更新されたとはいえ、これは債務者側の人手不足という一時的要因に過ぎないこと、(4)載文言などにかんがみると、雇用契約の更新手続きが形骸化しているものとはいいがたい。

 債権者らは、期間満了後の雇用の継続を期待できることに合理性が認められる旨主張するが、(1)債権者らの雇用契約がいずれも期間の定めのある契約であり、その更新手続きが形骸化しているとはいえないこと、(2)債務者が、平成7年頃から、60歳以上の従業員を順次減少させる人事方針をとっていたこと、(3)債務者において、債権者らの雇用契約につき平成11年3月20日時点で一旦拒絶を決定したものの、労組との交渉で1年間の雇用契約を締結し、その際契約期間満了以降の雇用契約の更新はしない旨通告していることなどの事情にかんがみると、債権者らにとって、平成12年3月21日以降の雇用の継続を期待できる合理性があったとは到底認め難いというべきである。そうすると、債権者らについて、解雇の法理の適用はなく、平成12年3月20日をもって雇用契約が終了したものというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例802号63頁
その他特記事項