判例データベース
E社配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- E社配転拒否事件
- 事件番号
- 東京地裁
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1969年03月08日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 被申請人は、菓子の製造・販売を主たる事業とする会社であり、申請人は被申請人の従業員である。
被申請人は、営業特に地方強化を主眼として人事異動を行うこととし、他方申請人の属する第1チョコレート製造係における年齢的頭打ち状態の解消を図るため、申請人を仙台支店販売係に転勤命令を発した。しかし申請人は、労働契約上申請人の職場は現在の職場に限定されていること、健康が勝れない母親と同居しており、申請人が転勤すれば母親を1人残すことになることとして本件転勤を拒否し、現在の職場で勤務することを求めて本件仮処分を申請した。 - 主文
- 申請人の申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 就業場所等が特定し、労働契約の内容となっていることは、決してそれに限定され変更の余地がなくなることを意味するものではない。労働者の同意を得れば配置転換できることはいうまでもなく、また必ずしもその都度同意を得なければならないものではなく、予め付与された明示又は黙示の包括的同意ないし変更権(形成権)に基づいてこれをなし得ることも多言を要しない。
配置転換に関し、就業規則に「業務上の都合で従業員に転勤、応援、職場並びに職種階級の変更を命ずることがある」と規定されているが、申請人は労働契約上右規定の適用が排除されている旨主張する。しかして一般に、労働契約により、就業規則の定める基準を上回る労働条件を設定し、またはそれが定める使用者の権限を制限することは許されると解されるが、申請人が入社に際して就業規則の遵守を誓約していることは当事者間に争いのないところであり、また勤務場所等の特定そのことがこれらの限定を導くものではない。申請人が通勤可能を条件に掲げた会社の募集広告を見て応募したものであるとしても、そのことが右限定の有無と関連を有するとは考えられない。
以上により、申請人は就業規則の適用を免れないといわなければならないが、近代的労働関係を合理的に律するものである以上、右規定から業務上の必要に基づく限り無制限に配置転換が認められることになるものではない。例えば、賃金、労働負荷、技能等労働関係上における労働者の既得の権利利益を著しく損ない又は労働者の生活関係を根底から覆すような配置転換が右規定の範囲外にあることは明らかといわなければならない。
本件転勤命令は、気分の刷新、マンネリズムの防止、能力開発を目的として計画的な定期異動の一環として発令されたもので、その主眼は営業、特に地方強化に置かれ、他方債権者の属した職場における年齢的頭打ちの解消を図るためのものであったこと、申請人の配転先である仙台支店販売係として申請人の担当する職務は製品倉庫の管理であり、製品在庫表の作成という簡易な事務労働を伴う作業労働で、不熟練労働という点で従前の職務内容と大差なく、他に労働関係上不利益を蒙ることがないこと並びに申請人は大正2年生まれの母親と2人で、母親が入居契約者となっている県営住宅に居住しており、申請人が転勤すれば、健康がすぐれない母親を1人同所に置くこととなるが、母親は健康に不安があるとはいえ、横浜市職員として同市立老人ホームに勤務し、時に休暇を取ることがあっても、それが数日連続するというようなことはなく、申請人の弟が同一町内に、兄夫婦が1時間程離れた場所に住んでいること及び母親の収入はその生計を維持するに足りることが認められる。申請人は本件転勤命令に応ずることにより生ずる生活上の支障として母親のことを挙げるが、右認定のとおりであって、未だ本件転勤命令をもって前記制限を逸脱するものとはなし得ない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 昭和45年版年間労働判例命令要旨集
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|