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D社転勤拒否解雇事件

事件の分類
配置転換
事件名
D社転勤拒否解雇事件
事件番号
山口地裁 - 昭和52年(ヨ)第18号
当事者
その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1977年12月21日
判決決定区分
却下
事件の概要
 被申請人(会社)は、各種ポンプ等の製造・販売を業としており、申請人は昭和48年3月工業高校を卒業後、同年9月に会社に雇用され、以後機械工として勤務していた。

 昭和52年8月18日、会社が申請人に対し、九州出張所への配転を命じたところ、申請人は右配転命令が、(1)何らの内示・意向打診等がなく、突然の配転命令であったこと、(2)申請人には病身の老祖母の世話をしなければならないほか、高校生の弟等の面倒を見なければならない家庭の事情があることから右配転に応じるのは困難であること、(3)右配転につき真に業務上の必要があるか否か疑わしく、かえって選挙運動に協力しなかったことに対する報復人事の疑いが強いこと等の理由から、会社に対しその撤回を求め、転勤辞令の受領を拒否した。そこで会社は申請人の転勤命令拒否が就業規則違反に当たるとして同年8月31日から7日間の出勤停止処分に付し、その後も申請人に対し転勤命令に従うよう説得を続けたが、申請人がこれに応じなかったので、同年9月8日から30日間、更に同年10月8日から30日間の出勤停止処分を行った。出勤停止処分の最終日である同年11月7日、申請人は会社に対し、不本意ながら九州に赴くが、不当配転、不当出勤停止処分は法廷で争う旨の内容証明郵便による意思表示を行った。翌日会社は申請人に対し、会社の方針に従って納得して転勤に応ずるのかと質問し、申請人に再度反省して転勤する機会を与えたが、申請人が結局説得に応じなかったため、同8日付けで申請人を懲戒解雇した。
 これに対し申請人は、本件転勤命令を拒否した事実がなく、単に配転について話合いを尽くすよう要求しながら申請人の希望を申し入れて来たに過ぎず、しかも最終的には本件転勤命令に応じてそのための業務命令をあおいでいるのであるから、本件出勤停止の懲戒処分は無効であり、この無効な処分を前提としてなされた本件懲戒処分もまた無効であるとして、従業員たる地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 本件仮処分申請を却下する。
2 申請費用は申請人の負担とする。
判決要旨
 転勤は本人の生活関係に重大な影響を与えることがあるので、事前に本人の同意を得た上で転勤命令を出すのが理想的であるといえるけれども、本件の場合申請人は入社に際して、会社の業務の都合により職場の異動を命じられたときは異議を述べない旨予め包括的に同意しているのであり、他に会社が転勤命令を発するについての手続き上の制約があったとも認められないから、本件転勤命令が手続き上違法無効であるということはできない。そして申請人は、本件転勤命令に対しては、家庭の事情等を理由として、転勤は不可能である旨の意思を表明し、かつ転勤命令の辞令の受領を拒否したのであるから、申請人が本件転勤命令を拒否したものであることは明らかである。
 ところで、申請人の家庭事情に鑑み、申請人がその家庭において相当重きをなしていることは認め得るけれども、祖母や弟の面倒を見るという点については、他に扶養義務者(父母)がいることでもあり、代替的手段も可能と考えられる状況であるところ、他方会社においては、申請人を九州出張所に勤務させる業務上の必要性、合理性があったことも否定できず、彼此勘案すると、申請人に存する家庭事情等の事由をもってしては未だ本件配転命令を拒否する正当事由とはなし得ないといわざるを得ない。したがって、申請人において本件転勤命令を拒否したものとして、昭和52年8月31日、会社が申請人に対してなした7日間の出勤停止の懲戒処分は有効である。申請人が会社に宛てた昭和52年11月7日付けの内容証明郵便によると、申請人は九州に赴くつもりである旨の意思を表明しており、外形的には転勤命令に応じたかのように見えるのであるが、右書面には不本意であるとか、不当配転、不当出勤停止処分は認められないので法廷で争う所存である旨述べられており、また申請人の右申出に応じて会社が示した九州出張所在勤期間については、態度を保留してこれに応じなかったことなどからみて、実質的には最終的にも本件転勤命令を拒否したものと認めるのが相当である。そうすると、申請人は拒否すべき正当事由がないのに本件転勤命令を拒否し、このことを理由に懲戒処分を受け、更に説得されたのに依然としてこれを拒否し続けていることになる。従って、本件懲戒解雇は、就業規則において懲戒解雇理由とされている「懲戒処分を受けなお悔悟の見込みがないと認められたとき」には該当しないとする申請人の主張は理由がない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例291号37頁
その他特記事項