判例データベース
K社配転拒否解雇控訴事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- K社配転拒否解雇控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年11月29日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)は、経営合理化のため、配送センターを統合しパートタイマーをすべて解雇することとし、控訴人(第1審原告)を解雇されるパートタイマーAの後任として統合後のセンターに配置転換すべき打診した。控訴人はこの打診を拒否したが、それにもかかわらず配転命令をしたところ、控訴人がこの命令を拒否したため、被控訴人は配転命令違反を理由として控訴人を懲戒解雇した。控訴人は、本配転命令は人事権の濫用で無効であり、その命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇も無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の請求を行った。
第1審では、本件配転には業務上の必要性があること、本件配転によって控訴人の通勤の負担は増すものの、通勤不可能ではなく、権利濫用とまではいえないことから、本件配転命令は有効であるとした上で、本件懲戒解雇は十分な説明が行われていない問題はあるものの、解雇権の濫用とまではいうことができないとして、控訴人の訴えを退けたため、控訴人が控訴したものである。 - 主文
- 判決要旨
- 1 本件配転命令の効力
被控訴人は、経費削減の一環として人員整理の方針を採り、パートタイマーは例外なく退職させる方針であったことから、本社・玉川工場の経理課に所属するパートタイマーAを退職させ、その後任として、同じ経理業務を行っていた控訴人を配転させることが合理的と考えたというのであり、これらの事情からすれば、本件配転には業務上の必要性が認められる。もっとも、被控訴人は、当初控訴人とAに対して退職勧奨したときは、2人とも退職するものと予定しており、Aの後任は必要ないと判断していたと主張するが、その時点においてはAの後任を予定していなかったとしても、Aが退職勧奨に応じ、控訴人が配転を断った時点において改めて人員の合理的配置を検討することは十分にあり得るところであって、控訴人をもってAの後任に相応しいと判断したことに特段不自然な事情が見当たらない以上、この一事をもって本件配転の業務上の必要性を否定することはできない。
また控訴人は、本件配転命令は退職勧奨を拒否した控訴人に対する嫌がらせを目的としたもので、通勤不能により控訴人を退職に追い込む不当な目的でなされたものである旨主張するところ、控訴人に対してまず退職勧奨が行われ、これを断った翌日に本件配転の意向打診があったという事実経過などからすれば、控訴人がそのように受け取ったとしても無理からぬ面があり、被控訴人において本件配転の必要性等について十分な説明を尽くしたといえるか疑問なしとしないけれども、一連の経過に照らして、本件配転命令が控訴人が退職せざるを得ない状態に追い込む不当な目的でなされたものと断ずることは困難である。
更に、控訴人の住居から本社・玉川工場に通勤するには、片道約2時間の通勤時間を要するというのであり、独身の女性である控訴人が漸く入居できた賃貸の公団住宅で老後も安定した生活を続けていきたいと強く望んでいることも心情としては理解できないわけではないが、首都圏の通勤事情に鑑みれば、自宅から片道通勤2時間の本社・玉川工場への通勤が不可能であったということはできない。そうすると、結局以上のような事情があるからといって、本件配転命令が控訴人に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいうことができないから、本件配転命令について権利の濫用とすべき特段の事情は認められない。
2 本件懲戒解雇の効力
配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお権利濫用としてその効力を否定され得ると解すべきである。本件配転命令は控訴人の職務内容に変更を生じるものではなく、通勤所要時間が約2倍になる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものではないが、被控訴人は本件配転命令に当たって、控訴人に対し職務内容に変更を生じないことを説明したに留まり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、控訴人において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように,生じる利害得失について控訴人が判断するのに必要な情報を提供することなくしてなされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成6年(ワ)第13352号 | 棄却(控訴) | 1997年01月27日 |
東京高裁 | 一部認容・一部棄却 | 2000年11月29日 |