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N旅行社転勤拒否解雇事件

事件の分類
配置転換
事件名
N旅行社転勤拒否解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 平成13年(ヨ)第10069号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 旅行会社
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2001年12月05日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、中国を始めとする海外旅行を営む会社であり、債権者は債務者の従業員であって、本件転勤命令当時本町営業所に勤務していた。平成13年6月2日、債務者から債権者に対し神戸事務所への転勤の打診があったが、債権者は通勤時間が延びて子供に勉強を教える時間がなくなること、自らも一般旅行業務取扱主任者の受験勉強ができなくなることから転勤を断った。しかし債務者は新設事務所の運営のために債権者が最適任であると判断し、同年7月21日付けで債権者に神戸事務所勤務を命ずる辞令を出した。これに対し債権者はその撤回を要請し、神戸事務所に赴任しなかったところ、債務者は同日付けで債権者を解雇した。そこで債権者は、本件解雇が無効であるとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申請を行った。
主文
1 本件申立てを却下する。
2 訴訟費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債務者の就業規則には、「従業員は、業務の正常な運営を図るため、会社の指示命令を守り、誠実に職責を遂行するとともに職場の秩序の保持に努めなければならない」と規定されている。また、従来から債務者では従業員に対する配転が行われ、債権者自身も入社後本社勤務から本町営業所に転勤となっていることをも考慮すれば、債務者は債権者に対し、雇用契約上の配転命令権を有していると解するのが相当である。また、債権者と債務者の間で、債権者の同意がなければ配転しないとの合意、勤務場所や職種の限定があったとまでは認められない。

 本件転勤命令は、債務者が神戸事務所の開設に当たり、座席予約・発券業務に精通し、社内事情にもある程度精通しており、中国語が堪能なスタッフが必要であるとして債権者が適任と判断したことによるものである。更に本件配転を決定するに際しては、本町営業所において債権者と所長との関係が必ずしも良好ではなく、同所長から債務者に対し債権者の配転が何度か願い出られていたことも考慮された。そしてこの配転により、大阪市内に居住する債権者は通勤時間が多少多くなるものの、転居の必要はなく、神戸事務所は十分通勤圏内であった。以上の事実によれば、本件配転命令については、債務者の業務上の必要性が認められ、また債務者の不当な動機・目的に基づいたり、債権者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるといったような特段の事情も認められないことから、債務者の権利の濫用とは認められない。
 債権者は本件配転の内示を受けた後も、子供の受験勉強への協力が困難になることや、自己の一般旅行業者取扱主任者の国家試験の受験に支障が出ることを理由に本件配転命令に従うことを拒否し、債務者代表者に本件配転命令の撤回を求めたり、所長が債権者の転勤を営業所内で発表したことについて謝罪を求めたりしており、また予め神戸事務所を案内するとの債務者の申し出を拒否し、更に神戸事務所への出社日には本町営業所に出社するなどしており、かかる債権者の対応は、債務者就業規則の「正当な理由なく職務上の指示命令に従わない場合」に該当するといえる。そして、このような本件配転命令の内示を受けた後の債権者の対応等を考慮すれば、債権者に対し、普通解雇をもって処することも社会通念上相当性がないとはいえない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
平成14年版年間労働判例命令集
その他特記事項