判例データベース
N社配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- N社配転拒否事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成15年(ワ)第288号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年01月23日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、スパゲッティ専門店を始めとして、約250店舗を全国展開し、約700名の従業員及び4000名のパート・アルバイト店員を雇用する会社であり、原告は平成9年3月に被告に雇用され、平成12年から14年まで大阪でマネージャーA職として4店舗を担当し、店長以下店舗従業員を指揮監督する立場にあった者である。この期間各店舗の従業員は、原告の指示の下、サービス残業を行い、所定の料金を支払うことなく賄い食を食べていた。平成14年6月、被告は、原告をマネージャーB職に降格し、更に本件無銭飲食についての監督不行届きがあったとして、店長A職に降格し、管理職の勉強をさせるため、東京の営業4部に配転する旨の命令を告知した。しかし、原告は、心臓疾患を抱える長女がいて、医療センター小児心臓外科で診察を受ける必要があるため、採用の際地域限定勤務を希望しているとして、本件配転命令の効力停止の仮処分を申請し、本件配転の効力を停止する仮処分決定がなされたことから、同年12月、被告は原告に対し関連子会社である大阪デリバリーへの出向を命ずると共に、本件降格処分に基づき、同年10月分から給与支給額を月34万円から30万円に減額した。
これに対し原告は、被告に対し、(1)降格前の地位にあること並びに配転先及び出向先における就業義務がないことの確認、(2)降格処分の賃金差額及び慰謝料200万円の支払を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件降格処分について
被告においては、就業規則で、社員は職務遂行上において再三の指示、命令にもかかわらず改善がなされない等の場合、降格することがあると規定していることが認められるから、被告は、就業規則の要件を満たせば、社員を降格させることができる。原告は管理職として、従業員に対し、法令・社内ルールを遵守するよう指導・監督するのが職務であるのに、法令や社内ルールにつき指導を受けながらその改善が認められないのであるから、被告は、原告に対し、本件降格処分を行うことができるというべきである。
被告においては原告に対して人事権の行使としての降格処分を行うについては一定の裁量を有しているというべきであるが、それが社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合においては、その降格処分は無効になるというべきである。確かに被告において、従前従業員1人当たりの売上高の向上を奨励してきたことが認められるものの、同時にサービス残業のないよう指示していたものである上、平成14年には賞与の支給基準も社内ルール遵守を最重要要素として評価するように変更していることが認められるから、被告が従前売上高の向上を奨励してきたからといって、それが当然にサービス残業の強要を意味するということもできない。
以上によれば、本件降格処分は無効とはいえず、その無効を前提とする地位の確認並びに同処分以降の賃金差額及びそれに関する慰謝料の支払いを求める原告の請求はいずれも理由がない。
2 本件配転命令について
原告は、被告に採用された時に、勤務地を関西地区内に限定する旨の合意が成立した旨主張し、長女の病気について被告も了解したと供述し、本件配転命令を受けるまで関西地区で従事していたことも確かである。しかしながら、就業規則には、従業員に対し、配転や出向を命ずる旨の規定が存在する上、被告においては関西地区から名古屋や関東地区に従業員の移動を行っていたことが認められることからすると、それはあくまでもできるだけ原告の希望を尊重する姿勢を被告が示したに過ぎないとも解釈できるのであって、前記事実から直ちに原告と被告との間で、原告の勤務地を関西地区に限定する合意があったと認定することはできない。前記事実関係等の下においては、被告は個別的同意なしに原告に対し東京都内の店舗へ転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するというべきである。もっとも、配転命令権を濫用することが許されないことはいうまでもないが、配転命令は、業務上の必要性がない場合又は業務上の必要性がある場合でも不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情のある場合でない限りは、権利の濫用にならないというべきである。
原告が従業員に対しサービス残業を強要し、無銭飲食を黙認したことは認めることができる上、被告本社は東京都に所在し、店舗も首都圏に多数展開していることから、原告の研修を担当できる人的資源も東京地区は関西地区に比べて潤沢であると認められ、本件配転を行う業務上の必要性を認めることができる。
原告には平成14年9月の時点において、8歳、3歳、1歳の娘がおり、そのうち長女は心臓に疾患があり、2度の手術を受け、投薬治療を受けていたこと、経過観察の結果3回目の手術が必要となる場合もある旨説明を受けていること、原告の妻は原告が降格処分を受けてから生計を支えるためにアルバイトに従事していること、同居の父親は休職中で、母親は身体障害者でパート勤務に従事していることが認められ、原告も妻も東京への単身赴任は不可能である旨の陳述書を作成している。確かにそれらの点を考えると、原告に東京への単身赴任を強いることにより、原告の家族に相当の負担を与えることが容易に予想されるが、被告においては、原告が家族で転居する場合においても家族用の社宅を無償で提供するとしているのであるし、原告の長女も平成10年3月以降は、経過観察のため定期的に受診してはいるものの、特段緊急の治療が必要な状態にあるとは認められず、東京には大阪に劣らない専門的医療機関も多数存在し、それらの医療機関の紹介を受けた上で受診することも可能と考えられることを考慮すれば、原告が家族とともに東京へ転居することが著しく困難であるとは認め難く、本件配転により原告の長女の疾患に関し原告が受ける不利益は、必ずしも小さいとはいえないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいい難い。以上によれば、本件配転命令は無効とはいえず、その無効を前提とする本件配転先における就労義務のないことの確認及びそれに関する慰謝料の各支払を求める原告の請求はいずれも理由がない。
3 本件出向命令について
被告の就業規則には従業員に対して出向を命ずることができる旨の規定があるから、被告は、原告に対し、その個別的同意なしに人事権の行使としての出向命令を行うことができ、それについては一定の裁量を有しているというべきであるが、それが社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合においては、その出向命令は無効になるというべきである。
被告は原告に東京での研修を受けさせる目的で本件配転命令を発令したところ、その効力を本件仮処分決定により停止されたことにより、とりあえず本件訴訟により本件配転命令の効力が確定するまで、本件出向命令により原告を関連子会社に配属させることにしたことが認められ、被告の前記判断が合理性を欠くとはいえない。
本件出向命令があくまでも本件配転命令の効力が確定するまでの暫定的なものであることをも考慮するならば、本件出向命令が見せしめや原告の隔離を目的とするものということはできないし、原告がその生活関係、労働条件等において通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を受けると評価することもできない。
以上によれば、本件出向命令は無効とはいえず、その無効を前提とする本件出向先における就労義務のないことの確認及びそれに関する慰謝料の各支払を求める原告の請求はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例873号59頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 平成15年(ワ)第288号 | 棄却(控訴) | 2004年01月23日 |
大阪高裁 - 平成16年(ネ)第528号 | 控訴認容 | 2005年01月25日 |
大阪地裁 − 平成19年(ワ)第7915号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2009年10月08日 |