判例データベース
M社配転拒否懲戒解雇事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- M社配転拒否懲戒解雇事件
- 事件番号
- 神戸地裁 − 平成14年(ワ)第2224号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年02月27日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 被告は、菓子類及び生鮮食料品の受注・発注業務の代行並びにこれら商品の運送を主たる業務とする会社であり、原告は平成7年4月から被告の準社員として2トン貨物自動車の乗務員として勤務した後、平成9年1月から正社員として上記勤務のかたわら本店に置かれたMセンター内事務所にて事務管理業務にも従事していた女性である。原告は、被告の賃金規程における女性従業員の年齢給の定めが男女差別に当たるとして平成11年6月に労基署に申告し、同年7月労基署は被告に対して賃金規程の改定と原告らの賃金の遡及的是正を勧告した。被告は賃金規程の改定は行ったが、賃金の遡及的是正は財務状況から無理であるとして原告らに請求権の放棄を執拗に求め、原告らも結局これを了解した。
同年10月16日、被告は原告を事務管理業務から外し、2トン貨物自動車の乗務員の業務のみに従事させ、平成12年1月中旬から17日間、上記乗務員として午後6時から翌日午前2時までの深夜業務をさせた。平成14年8月1日、被告は原告をMセンター2係から同1係に配置転換をすることを告知したが、原告は、1係が午後6時から翌日午前3時までの深夜勤務を常態とすることから、当該配転命令を拒否した。そこで被告は原告に対し、平成14年8月3日付けの書面により、就業規則違反を理由として同年9月2日付けをもって懲戒解雇処分をなす旨通知した。
これに対し原告は、深夜勤務への配転は、深夜勤務に従事させないという労働契約に違反すること、本件配転命令は業務上の必要性がなく、労基署へ申告したことに対し制裁を課するという不当な動機・目的でなされたものであることから無効であり、したがって当該配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇も無効であるとして、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めた。 - 主文
- 1 原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。
2 被告は原告に対し、平成14年9月25日から本判決確定の日までの毎月25日限り、各金29万4050円を支払え。
3 原告のその余の賃金請求にかかる訴えを却下する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 被告の配転命令の権限
労働者は、労働力の使用を包括的に使用者に委ね、使用者は労働力の包括的な処分権を取得するから、労働契約において、労働の種類、態様、場所等の労働条件が限定されていない限り、使用者はそれらを特定して労働者に命ずることができ、またこれを変更する配転命令をなす権限を有するものと解するのが相当である。本件の労働契約において、深夜勤務の点を除いては、それらを限定する合意がなされていたとは認められないから、被告は限定のない範囲で、従業員との包括的合意に基づき配転命令をなす権限を有しているものと認められる。もっとも、使用者が配転命令をなす権限を有する場合でも、権限濫用の法理の適用を受け、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であても当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情が存する場合には、権利の濫用として無効となると解される。
2 原告を深夜勤務に従事させないとの合意の成否
原告が正社員に登用された平成9年1月当時、改正前の労働基準法は女性労働者を深夜勤務に従事させることを原則として禁止しており、当時の就業規則においては、女性従業員を深夜勤務に従事させることが禁止されていたが、平成11年4月の就業規則の改定により、女性従業員は深夜勤務を禁止される従業員から除外されたことが認められる。そうすると、労働契約の内容として、原告を深夜勤務に従事させないとの勤務時間限定の合意が成立していたものと認めるのが相当である。深夜勤務を可能にすることは、女性労働者の就労の機会を広げることで有利な面はある一方、深夜勤務が女性労働者の健康や生活に過大な負担を課する可能性があること等を考慮すると、上記就業規則の改定は、それ以前に正社員となった女性従業員の既得の労働条件を変更するものではなく、その任意の同意の下に深夜勤務に従事させることを可能にしたに過ぎないと解され、使用者に一方的に女性従業員を深夜勤務に従事させる権限を付与する趣旨であるとまで解することはできない。以上によれば、被告は原告の同意なくして深夜勤務に従事させることはできず、原告を深夜勤務を常態とするMセンター1係へ配置転換する本件配転命令は、原告が同意しない以上、その効力を有しないものと解するのが相当である。
3 本件配転命令の業務上の必要性
原告を敢えて深夜勤務となる1係に異動させなければならない必要性があったことをにわかに肯認できない。更に被告は、本件配転命令は、原告が上司の注意を聞き入れなかったり、他の従業員との協調を欠いた状況にあったため、2係の人間関係の一新を図る目的もあったし、原告が2係において取引先からクレームを多く受けていたことから、クレームを減らせる目的もあったと主張するが、原告が他の従業員との協調を欠いたとの点はたやすく信用し難いし、取引先のクレームに関しては、1係と2係で取引先の多くが共通であった可能性があり、原告の異動が取引先のクレームを減らす目的でなされたとはにわかには考え難い。以上によれば、本件配転命令につき業務上の必要性があったことを肯認できない。
4 本件配転命令の動機・目的
原告は、被告の賃金規程が、年齢給に関し男性従業員については40歳まで上がるのに、女性従業員については30歳までと定めているのが不当な男女差別であり、労基法違反であるとして、労基署に申告し、労基署が被告に対し是正勧告をなしたこと、被告の親会社から申告したのは原告ではないかとの疑いを持たれ、被告との間で軋轢が生じたこと、原告は、被告から財務状況等を理由に年齢給の遡及的是正にかかる請求権の放棄を強く迫られ、これに応じて確認書に署名をしたこと、その直後、被告は原告に対し、事務管理業務から外して運転業務だけに従事させたこと、その頃から被告の役員や幹部従業員は原告に対し厳しい態度をとるようになったこと、その後被告が原告に対し、本件配転命令を通告したことが認められる。
この事実に照らすと、被告は、原告が労基署に申告した者であることを推知し、それ以後原告に対し、会社を内部告発した従業員として厳しい態度で対応してきたことが窺われ、喫煙問題についての原告の申入れに対する「そういう人は夜勤にいくか辞めてもらうかしかない。」旨の副部長の発言内容等を勘案すると、本件配転命令は、被告を労基署に内部告発したり、権利主張をしたりする原告を疎ましく感じ、制裁を課する動機・目的による人事であったと推認することができる。
5 原告の受ける不利益の程度
本件配転命令は、夜間勤務が女性従業員の健康及び生活に過大な負担を課する可能性があり、原告は本件配転命令を受けた際、それを被告の嫌がらせと感じたほか、従前短期間である夜間勤務に就いた際、偶々風邪をひいたのがなかなか治らず、夜間勤務により健康を害する恐れがあることを実感したことがあったため、本件配転命令を拒否したことが認められる。この認定に照らすと、原告が本件配転命令につき健康上の影響を危惧したことは無理からぬことであり、したがって本件配転命令は、原告に対し、労働者として社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を課するものということができる。
6 本件配転命令の効力
以上によれば、本件配転命令は、原告を深夜勤務に従事させないとの勤務時間限定の合意に反する点で無効であるし、そうでないとしても、業務上の必要性がなく、不当な動機・目的でなされ、かつ原告に社会通念上甘受すべき程度を著しく超える不利益を課するものであるから、無効であるというべきである。 - 適用法規・条文
- 改正前労働基準法64条の3
- 収録文献(出典)
- 労働判例874号40頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|