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参議院事務局職員賃金差別事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
参議院事務局職員賃金差別事件
事件番号
東京地裁 − 昭和57年(行ウ)第208号
当事者
原告個人1名

被告参議院、国
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年11月27日
判決決定区分
一部却下・一部棄却
事件の概要
 原告は、昭和23年10月に参議院事務局に採用され、昭和46年7月に4等級に昇格した後昭和60年3月31日に定年退職した女性である。原告は、参議院の昇格運用基準は平等法規に反して男女差をつけたものであり、昇格が任命権者の自由裁量ではあっても、単に男女という観念的性別のみで制度的体系の権利基準を根本的に差別してかかっていることは、憲法13条をはじめ人権に関する各法条並びに民法1条の2、国公法27条及び労基法3条・4条その他の規定に反する不法行為であると主張した。そして、男女差別の基準のままでも昭和52,3年頃には3等級に昇格されるべきこと、両性平等の原則をもって初級の基準で運用すれば昭和47年頃には3等級昇進となり3等級18号俸に格付けされるべきことと主張し、女性の事務職員で在職23年で3等級に昇格した者がいる中で、在職34年の原告を4等級のままに据え置いたことは、二部大卒女性に対する差別でもあり、平等の原則、公正の原則に反し、国家公務員法、労働基準法の規定に違反し、公序良俗に反し無効であるとして、被告参議院に対して任用行為の違法確認と原状回復(差額賃金の支払い)及び慰藉料300万円の支払いを、被告国に対して損害賠償994万6132円の支払いを請求した。
主文
1 原告の被告参議院に対する訴えをいずれも却下する。

2 原告の被告国に対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
1 被告参議院に対する請求について

 参議院事務局職員の昇格、昇給を含む任用行為を行い得るのは、参議院ではなく、参議院事務総長であることは、国会法27条、国会職員法3条等の規定に照らし明らかである。したがって、自らを3等級に昇格させ、かつそれを前提として毎年昇格させることを求める訴えが仮に許されるとしても、その被告は参議院事務総長である。また、昭和51年に3等級に昇格し、その後毎年昇給したことを前提として給与の差額の支払いを求める訴えは、行政事件訴訟法上の当事者訴訟であると解されるところ、行政事件訴訟法上の当事者訴訟の当事者能力を有するのは、民事訴訟の当事者能力を有する者と同一であり、被告参議院は、民事訴訟の当事者能力を有しない。したがって、原告の右請求にかかる訴えは不適法として却下を免れない。

 被告参議院に対し300万円の支払いを求める訴えは、原告を3等級に昇格させなかったことが不法行為に当たるとして、その損害賠償としての慰藉料を求めるものと解される。そうすると右訴えは、通常の民事訴訟であるから、参議院は国の機関であって、民事訴訟の当事者能力を有しない。したがって、原告の被告参議院に対し300万円の支払いを求める訴えも当事者能力のないものを被告とする不適法なものである。

2 被告国に対する請求について

 国会職員の職務の等級は、両議院の議長が協議して定める基準に従い決定されるが、協議決定によると、政府職員の例に準ずるものとされている。そして政府職員の職務の等級、昇格等の基準について定めた人事院規則9−8によると、その基準は、原則として同規則別表に定める必要在級年数又は必要経験年数のいずれかとされている。しかし、その必要在級年数又は必要経験年数のいずれかの要件を満たしていることは、ある職員を昇格させる場合に、最低必要とされる資格要件ではあるが、当該職員が右要件を満たしているからといって、当然に昇格する権利ないしは地位を取得することはないというべきである。
 いかなる職員を3等級に昇格させるかは、任命権者が、右資格を有する職員の中から、標準的職務内容に照らし、その職員の担当する職務内容が3等級に相応しいものであるか否か、その従前の勤務成績等から判断される当該職員の能力等を総合的に検討して決定するのであって、その決定は、任命権者の自由裁量に委ねられていると解すべきである。そして、原告の任命権者が、右の裁量に当たって考慮してはならないことを考慮するなどして、右裁量の範囲を逸脱して原告を3等級に昇格させなかったことを認めるに足りる証拠はないから、その余について判断するまでもなく、原告の被告国に対する請求は失当である。
適用法規・条文
人事院規則9−8
収録文献(出典)
労働判例552号50頁
その他特記事項