判例データベース
社会福祉法人格付け変更等事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- 社会福祉法人格付け変更等事件
- 事件番号
- 秋田地裁大館支部 − 平成10年(ワ)第45号
- 当事者
- 原告 個人3名
被告 社会福祉法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年07月18日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は、昭和61年5月に設立された、特別老人ホームの設置運営等を目的とする社会福祉法人であり、原告Aは昭和63年10月、原告Bは同年11月、原告Cは同年4月にそれぞれ被告に採用された女性である。このうち原告Cは、昭和63年11月末に退職し、平成6年4月に臨時職員として再び被告に雇用され、同年6月に職員として採用された。
被告は、平成10年7月1日付けで、原告らに対し、初任給の格付けや昇給に誤りがあったのでこれを是正するとして、原告Aについては主任看護婦から看護婦へ変更し、賃金も3級11号から2級9号へ、原告Bについては主任看護婦から看護婦へ変更し、賃金も3級12号から2級8号へ、原告Cについては賃金につき2級10号から1級14号に変更した。
原告らは、一般に看護婦の社会福祉法人への応募が少なく、被告はこのような状況を踏まえた上で賃金の決定を行ったものであること、給与規程では勤務成績が特に優秀である者等については特別な昇給をさせることができるとされているから、原告らに対して取られた昇給措置も誤りとはいえないこと、被告とは、辞令の都度、賃金に関する労働契約の合意がされていたこと、給与規程上主任職を定めることは誤りとはいえないことを主張するとともに、被告は本件処分を一方的に実施し、労働組合の団体交渉要求にも不誠実な対応に終始したとして、各原告につき20万円の慰謝料を請求した。 - 主文
- 1 被告は原告Aに対し、金192万0299円及び内金(略)を支払え。
2 被告は原告Bに対し、金216万0074円及び内金(略)を支払え。
3 被告は原告Cに対し、金133万5733円及び内金(略)を支払え。
4 被告は各原告に対し、各金10万円及びこれに対する平成10年6月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項につき仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件処分の有効性
原告らは雇用契約締結後、昇給・昇格が行われたが、その際、施設長が理事長に辞令の交付の決済を受け、昇給・昇格の辞令の交付を行っていることが認められる。そうすると、労働契約のうち賃金額については、それぞれ辞令が交付された際に合意されたということができる。
被告は、看護婦不足の状況の中で必要な看護婦を確保するため、公務員に準ずる給与とすることとし、准看である原告Cの初任給を1級11号とし、正看である原告Aは原告Cより年上であることを考慮し1級12号、准看の原告Bは実務経験が原告Aより長いことから、給与規程上は1級7号であるところ、2級5号で採用したことが認められる。
これらの事実によると、被告が原告らを採用する際に、看護婦不足、公務員との比較、看護婦代替要員配置が至急必要であったことなどの諸事情により、看護婦採用には給与面で優遇することが不可欠であった事情が窺われる。そして、被告の給与規程によれば、初任給は別表4に基づくものの、これにより難いときには,経験年数、学歴、技術等を考慮して理事長が別に定めることができる旨の裁量条項が規定されている。以上によれば、原告らの初任給を決める際に、被告理事長が給与規程に定められた裁量により、通常より高額に定めたということができ、その措置は裁量権の範囲内の合理的事情に基づくものであるといえる。したがって、これをもって、給与規定に反した誤った措置であるということはできない。
給与規程では、勤務成績良好な場合には例外的措置をすることができる旨の記載があるし、昇格の場合についても「昇格の日の前日に受けていた給料月額に最も近い上位の額の号給とすることを原則とする」旨定めており、例外的な扱いを排除していない。以上によれば、原告らの昇給が短期間であること、昇給による号級が高くなっていることが誤りであると断定することはできないというべきである。
被告は、社会福祉法人には主任看護婦という職種は存在しないと主張するが、他の社会福祉法人に存在することが認められるし、厚生省の通達に主任看護婦なる職種が記載されていないものの、他の職種を排除する趣旨であるとまでは断定できない。そして被告の場合、主任でないと3級に上がれない規定となっていること、病院と比較して低い看護婦の賃金を一気に上げることもできないという事情を考慮して、原告A及び原告Bに主任看護婦という職種を与えたことが認められる。したがって、被告が主任看護婦という職種を設けて、原告A及び原告Bをこれに当てたことは何ら誤りということはできない。
被告と原告らは各辞令の交付によって、賃金についての労働契約が合意されており、労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であるから、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないというべきである。たとえ被告が主張するように、被告法人における人件費が大きく、介護保険法の施行に当たり大幅な減収が見込まれたとしても、一方的な減給処分は無効であり、降格についても、これに減給が伴うものであるから、これまた、一方的な降格処分は無効である。したがって、被告は原告らに、本件処分がないことを前提とした賃金、賞与及び残業手当を支払う義務がある。
2 慰謝料について
団体交渉については、全体的に見て、被告側に不誠実と評する態度があったとまでは言い切れないし、また、介護保険法の施行に伴いかなりの減収が生じる可能性が認められる等賃金引下げの必要性も一応は首肯し得るものではあるが、これらのことを考慮しても、被告が賃金という労働契約の最も重要な内容を一方的に減額したことは不法行為に当たり、これにより、原告らが多大な精神的損害を余儀なくされたということは否定できず、これを慰謝するために、被告に対し各原告につき10万円を支払わせるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例796号74頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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