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T工務店賃金差別等事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- T工務店賃金差別等事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成15年(ワ)第22540号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年05月19日
- 判決決定区分
- 一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、主として総合建設業を営む株式会社であり、原告は1級建築士の資格を取得して昭和48年被告に入社し、平成16年3月に被告を定年退職した男性である。
被告の就業規則には、社員を総合職と実務職に区分する旨の規定があり、原告は実務職に区分されていた。原告は両者の間には勤務地の差異があるに過ぎず、現実の担当職務には差異がないのに原告は管理職に就いていないこと、給与月額で総合職と比較して少なくとも10万円以上の差が生じていることを指摘し、このような差別的取扱いは憲法14条、労働基準法3条の趣旨に反し、民法90条に違反するとして、原告が総合職としての地位にあることの確認と、総合職との差額賃金の支払いを求めた。また原告は、平成12年4月の給与制度の改定により給与が減額されることとなり、その後の暫定給の半減によって原告の給与が現実に月額7650円削減されたこと、削減の根拠としている労働協約は組合員の一部の者に著しい不利益をもたらすことになるから無効であること、昇給がなくなったことにより不利益を受けたこと、原告についての低い査定は査定権の濫用により違法・無効であること、賞与に関して総合職と差別した不利益取扱いに当たること等を主張するとともに、被告は原告の能力に見合った仕事を与えず、座席を部屋の出入口の正面とし、その結果低い評価がされたこと、その後原告は情報グループに変更になったが、決まった仕事もなく、座席も設備グループの席に設けられ、衆目に晒され、著しい精神的損害を被ったとして、人格権侵害による損害を慰謝する慰謝料として、110万円を請求した。 - 主文
- 1 本件訴えのうち原告を総合職として認めることを請求する部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、口頭弁論の時点で被告社員としての地位を有しないことは明らかであって、原告に総合職にあることの確認を求める利益はない。よって、当該部分の訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものであり、却下は免れない。
総合職と実務職は、職域、期待される能力、責任の軽重、配転の範囲といった労働契約の基本的内容が異なっており、実務職から総合職へのコース変更の制度もある以上、両者の資格・給与制度に差異があるとしても、違法ということはできない。原告は、現実に担当する業務が総合職と同じであると主張するが、具体的な職務を指摘していない上、入社以来の職務が総合職の社員と全く同一であったと主張するものでもないから、総合職及び一般職の区分に照らし、総合職と同一賃金を求める根拠として失当である。
被告と組合は平成12年4月に、業績貢献度に応じたメリハリのある処遇への転換を図る資格・給与制度とする労働協約を締結した。被告は、制度の変更により同年3月よりも新給与が下がった場合は、その差額全額を暫定給として支給する扱いとしたため、原告は新制度による格付けの結果、月額で1万5300円減額となったが、その差額について暫定給が支給されることになった。原告は能力評価の結果、平成13,14,15年度の基本給は、月額それぞれ3000円、3000円、2200円削減されたほか、被告と組合との労働協約により平成15年度以降の暫定給が半減されたことから、原告の暫定給は月額7650円減額されたが、暫定給の廃止や、通常昇給がなく査定により基本給が減額されることには、いずれも正当な理由があるというべきである。
被告の賞与は、その都度被告・組合間で合意される支給基準に基づいて支給額が決定されるものであり、平成15年上期賞与についても、同期における被告・組合間の合意に基づいて支給額が決定されているのであるから、平成14年協約が無効であるからといって、平成15年賞与に係る支給基準が無効となるものでない。しかも、平成14年協約は、被告・組合間の真剣かつ公正な取組みの結果合意されたもので、変更の必要性及び内容について特段の不合理がない限り有効というべきところ、平成14年協約は、被告の業績悪化を受けたものであって、特定の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたものとは認められず、他に特段の不合理はないというべきであるから、平成14年協約を無効ということはできない。
原告は、被告による座席指定が人格権侵害であると主張するが、出入口の正面に座席が与えられたからといって、直ちに原告の人格権が侵害されることにはならず、従業員の座席の割当てについては、使用者である被告ないしその権限を委ねられた原告の上司がその裁量によって指定できるというべきであるところ、請求原因は結局、原告がその所属するグループの同僚と隣り合った座席を与えられなかったとするに過ぎず、被告らの権限行使がその裁量を逸脱していることを具体的に指摘するものでなく、原告に対する不法行為を構成する事実と解することはできない。そして原告が担当すべき具体的業務については、使用者である被告ないしその権限を委ねられた者がその裁量によって指定できるというべきであるところ、原告の主張によっては、被告らの行為のいかなる点が裁量権を逸脱しているか明らかでなく、裁量権逸脱を根拠付ける具体的事実の主張があるともいえないから、不法行為に基づく損害賠償請求の主張として失当である。なお原告の主張によれば、原告は設計の仕事を与えられていなかったことになるが、原告が担当すべき具体的業務については、使用者である被告らがその裁量によって指定できるものであるから、設計の仕事を与えられなかったからといって、被告らが裁量権を逸脱したことになるものではない。更に原告は、労働協約に基づく暫定給の廃止、昇給のマイナスという不利益によって精神的損害を被ったと主張するが、原告が問題とする被告・組合間の労働協約が有効なのは前記のとおりである。よって原告の主張は理由がない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例879号61頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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