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F郵便局臨時雇雇止め控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
F郵便局臨時雇雇止め控訴事件
事件番号
名古屋高裁金沢支部 − 昭和59年(ネ)第144号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 国
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1988年10月19日
判決決定区分
控訴認容・附帯控訴棄却
事件の概要
 被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、昭和46年11月に、F郵便局の日々雇用臨時雇として任用され、2ヶ月ごとに任用を更新された後、昭和47年7月1日をもって控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)から雇止めされた。

 被控訴人は、本件雇用上の地位は実質的には期限の定めのないものであり、仮に期間の定めがあるとしても更新を期待することに合理性があると主張して、福井局の職員としての雇用上の地位の確認を求めるとともに、1年分の賃金、精神的損害に対する慰謝料等として300万円を請求した。また被控訴人は予備的請求として、職員としての地位確認の法的救済がなされないとすれば、一方的な雇止めに対して少なくとも国家賠償法1条による金銭賠償がなされるべきであると主張した。
 第1審では、被控訴人の労働関係は公法関係であって、労基法の適用は及ばず、任用の更新がいくらされたからといって期限の定めのない任用になることはあり得ないとして、職員としての地位については否定したが、任用に当たって福井局は被控訴人に対し任用期間について明確な説明をせず、本務者になることについて期待を持たせたなどの過失があったとして、慰謝料8万円と弁護士費用2万円を認めたことから、控訴人、被控訴人とも判決を不服として控訴したものである。
主文
1 本件控訴に基づき、原判決中控訴人(附帯被控訴人)の敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。

3 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は、第1,2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
判決要旨
 郵政事業は国の公共的目的にかかわる事業であり、そこに勤務する現業郵政職員の職務も公共性を有するものであり、国民全体の奉仕者として勤務することを要請される特別な地位にあるのであって、基本的な勤務関係は国公法等の公法的規制の下に置かれているから、その勤務関係は基本的に公法上の関係であると解するのが相当であり、これを私法上の関係であるとする被控訴人の主張は採用できない。

 一般職に属する国家公務員につき期限付き任用を行うことは、公務の能率的運営を阻害し、身分保障の趣旨に反する場合には許されないというべきであるが、国家公務員法が職員の期限付き雇用を禁じていないこと、人事院規則には期限付き任用を前提とする規定が設けられていること等からすれば、右のような弊害がない場合には、期限付き任用も一般的には禁止されていないものと解される。したがって、非常勤職員を期限付きで任用することは、その期限が1日であっても許されるものであり、郵政省において任用規程により任用される臨時雇は、適法な任用類型と認められる。そして、国公法2条4項は、一般職に属するすべての職に同法を適用すると定め、常勤職員、条件付任用者、臨時的任用者を区別せず、また非常勤職員についても特に区別することなく国公法を適用することとされ、臨時雇についても基本的身分関係については、国公法等の適用が除外されているわけではないから、その任免等に関しては国公法等が適用される公法関係と解するのが相当である。

 任用規程は、非常勤職員の任期は1日とし、臨時雇については2ヶ月以内において任命権者が定める期間を予定雇用期間とし、当該期間内においては任命権者が別段の意思表示を行わない限り、その任期は更新されるものとする旨規定しているところ、右規定は予定雇用期間内においては、任命権者が更新拒絶(雇止め)をしない限り、当然更新されるが、期間満了の場合は、当該職員は任命権者の何らの行為を要せずに当然に退職することを予定し、右期間満了後は当然には更新しないことを事前に宣言しているものと解される。したがって、臨時雇は、任命権者の定めた2ヶ月以内の予定雇用期間の満了により、当然に退職するものと解するのが相当である。被控訴人は、臨時雇としての任用が反復更新され、期限の定めのない任用になったと主張するが、期限の定めのない非常勤職員という任用類型は存在せず、臨時雇の任用が反復されたからといって、期限の定めのない常勤職員の任用に転換すると解することは、任用の要件、手続きの全く異なる行政処分への転換を認めることになり、到底許されないものといわざるを得ない。

本件臨時雇については、国公法等の公法的規制に抵触しない限りにおいては労働基準法の適用があるというべきであり、同法21条但書、20条1項は、日々雇入れられる者が1ヶ月を超えて引き続き使用されるに至った場合、又は2ヶ月以内の期間を定めて使用される者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は、使用者が当該労働者の雇用を中止するためには、少なくとも30日前にその旨の予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない旨規定している。しかし、臨時雇は予定雇用期間の満了により当然退職するものであるから、雇止めの予告がなされなかったからといって、任命権者の意思に反して任用の更新を擬制することは国公法等の規制に反する結果となるから相当ではなく、労働基準法20条を適用して雇止め予告手当の支給を求める余地があるとしても、雇止めの意思表示が右手当の支給を伴わなかったことを理由に任用更新の効果が生ずると解すべきではない。被控訴人は、本件雇止めは専ら思想信条を理由とする差別的取扱いとして無効であると主張するが、本件雇止めはいわゆる解雇ではなく、被控訴人は予定雇用期間満了により当然に退職しているのであり、その後の再任用は任命権者の行う一方的行政処分としての新たな任用行為であり、被控訴人において任用を要求する権利はなく、このような任用行為は労働基準法3条によって規制されるものではないと解すべきである。

被控訴人は、雇用期間の更新を法的に期待すべき状況にあったとして、合理的な理由のない本件雇止めは違法・無効であると主張するが、被控訴人は採用時に臨時雇としてしか雇用できないといわれていること等から判断して、単に臨時雇を継続していれば自動的に本務者になれるわけではないことは容易に理解し得るところであり、昭和42年4月以降、採用試験に合格せずに臨時雇から本務者に採用された者は1名に過ぎず、予定期間満了により解免された者も多数いることから、被控訴人が雇用されていた時期には、臨時雇の本務化の実態自体存在していないというべきであり、被控訴人が職員採用試験に合格することなく自動的に本務者になれると期待を抱いていたとは到底解されない。また、被控訴人に対し更新を期待させるような状況があったとしても、臨時雇の常勤化現象はそもそも法の予定していないところであって、予定雇用期間の満了によって当然退職した被控訴人において再任用を要求する権利はない。
被控訴人は、臨時雇が常勤化し、雇用の継続を期待すべき実態が生じていたにもかかわらず、国公法の制約から労働契約上の地位が認められないとすれば、このような期待を抱かせるに至った人事管理が違法であると主張する。福井局においても、臨時雇の常勤化を防止する閣議決定等の趣旨に沿い、任用した臨時雇に対し、適正な人事上の措置を採り、あらぬ期待を持たせることにより就職の機会を失わせるなどの損害を被らせないよう人事管理すべき義務があったというべきである。そして、中断期間の事後の設定、時間給から日給、日給から時間給への切替え発令、解免発令の辞令簿上の処理等について事務処理の不適切さが認められるが、これらはいずれも事務処理上の過誤に過ぎず、これがあるからといって被控訴人に雇用継続を期待させたことにはならないし、右過誤が被控訴人主張の「期待」の原因、動機になったという関係も認められない。被控訴人の期待はいまだ事実上のものに過ぎないのであって、法的に保護されるべきものとはいえず、またそのような期待を抱かせたことについて控訴人の故意、過失は認められないから、控訴人に不法行為責任があるとはいえず、被控訴人の予備的主張は採用できない。
適用法規・条文
国家公務員法2条4項、労働基準法20条、21条
収録文献(出典)
労働判例529号43頁
その他特記事項