判例データベース
K学園試用期間解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- K学園試用期間解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 昭和60年(ヨ)第2261号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1985年12月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 被申請人は、2つの幼稚園を有する学校法人であり、申請人は昭和60年4月1日から被申請人に幼稚園児のプール指導の教諭として雇用された女性である。申請人は採用面接において、スイミングスクールで指導したり、国体にも選手として出たことがある旨話し、水泳指導において十分被申請人の期待に応えられる旨述べた。一方被申請人は申請人に対し、プール指導について具体的な指示はしなかった。
被申請人は、就業規則上1年間の試用期間を置く旨定められていることから、申請人との雇用契約は試用契約であると解されるところ、申請人は水泳の指導に当たって専門的知識及び経験が欠如しているほか、理事長に反抗的な態度をとったこと、子犬を連れて1日中職員事務室において犬と戯れたりたりして他の職員から非難されたことから、昭和60年4月24日、理事長の教育方針と合わないとして申請人に対し即時解雇の通知を行った。
これに対し申請人は、採用に当たって1年間試用期間であることの説明を受けていないこと、仮に試用期間であったとしても合理的理由なくしてなされた本件解雇は無効であること、本件解雇は申請人らが組合を結成したことを嫌悪し、申請人を学園から排除しようとしてなされた不当労働行為に当たることを主張し、本件解雇の無効による従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- ・申請人が被申請人の従業員の地位にあることを仮に定める。
・被申請人は申請人に対し、昭和60年6月以降本案訴訟の第1審判決言渡に至るまで、毎月25日限り、金11万5000円宛を仮に支払え。
・申請人のその余の申請を却下する。
・申請費用は被申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 使用者が労働者を解雇するには、解雇が労働者に与える影響の重大性に鑑み、社会通念上解雇をやむを得ないとするに足りる相当な事由の存在することを要し、そのような事由なくしてなされた解雇は、解雇権の濫用として無効と解するのが相当である。また、試用期間のある雇用契約は、試用期間中に従業員として不適格とされた場合には解約しうる旨の解約権留保付の雇用契約であると解されるところ、右留保解約権の行使は通常の解雇の場合よりは広い範囲における解雇の自由が認められるべきではあるが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができる場合のみ許されるものと解するのが相当である。
申請人は、昭和60年3月26日、被申請人に総主任及びプール指導の教諭として採用され、被申請人から何ら試用期間を設ける旨の条件が示されることなく採用されるに至ったものであり、就業規則に試用期間の規定があることについて告知を受けたのは、解雇の意思表示がなされた後であって、同告知があるまで申請人は就業規則の内容について全く知らず、試用期間のない普通採用であると思っていたこと、被申請人においては一般に従業員を採用する場合、採用通知書により試用期間後本採用する旨明示しているが、申請人に対しては採用通知書を交付することなく採用し、試用期間を設ける等の採用条件を付さなかったことが認められる。そうすると本件雇用契約は、試用期間を設ける旨の条件が労働契約の内容とはされていなかったものというべきであり、申請人において試用期間を設けることを承認したことが認められない本件にあっては試用期間のない雇用契約であると解するのが相当である。
被申請人が解雇事由として主張する事実、ことにスイミング指導の不適格事由なるものはいずれも認められず、申請人の経歴、就労状況に照らし、申請人に経歴詐称が認められないことはもとより、幼児のプール指導に関する知識経験が欠如しているとは認め難い。そして、申請人は就労して1ヶ月に満たず、スイミング指導は3日間行ったのみであり、水泳指導等における被申請人の指導方法と申請人のそれとに多少の相違があったとしても、被申請人において十分改善可能なものと考えられる。また勤務態度についても、4月1日から24日までの間、子犬の件を除けば特に問題とすべき点は認められない。そうすると、被申請人において申請人を解雇するについて社会通念上解雇をやむを得ないとするに足りる相当な事由があるとは認められず、本件解雇は解雇権の濫用として無効というべきである。なお、本件雇用契約が被申請人主張の試用期間の定めのある解約権留保付の雇用契約であると解したとしても、本件解雇は解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとは認められず、社会通念上相当として是認することができる場合ではないので、解雇権の濫用として無効というべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例468号42頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|