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保育園保母解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
保育園保母解雇事件
事件番号
福岡地裁 - 昭和61年(ヨ)第650号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 社会福祉法人
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1988年02月13日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は保育園を経営する社会福祉法人であり、債権者は昭和51年9月臨時保母として債務者に雇用され、同52年5月に正採用されて保育園に勤務していた女性である。

債務者は、債権者には関して具体的には次のような事実があり、これらの行動は保母という職業上要請される園児への安全配慮に欠けるものであること、また感情の起伏が激しくともすれば自己抑制を失う傾向にある債権者の性格は、園児の健全な情緒的成育を著しく妨げるものであること、債権者の態度はその後も一向に改まる様子もなく、保母としての資質、適性に欠け、もはやその矯正は困難であるとの判断に達したことから、昭和61年3月29日限りで債権者を普通解雇した。

(1)昭和53年8月5日、債権者は朝の体操時に、園児に対し、足を開きすぎるとして自分の足で矯正しようとして同児を転倒させ、額に通院7日間にわたる挫創を負わせるに至ったが、債権者はこれを債務者に報告しなかった。

(2)昭和53年11月6日、戸外遊戯の際、債権者が園児を直径約80センチメーターの土管の上に乗せたままこれを放置し、その結果園児は土管から滑り落ちて入院12日間を要する脛骨骨折の重傷を負うに至った。

(3)昭和57年8月5日、朝の行進中ふざけていた園児2名を激しく叱責し、罰として園庭に立たせたまま長時間放置し、そのうち1名が園外に抜け出しため、職員が手分けして捜索に当たった。

(4)昭和59年7月頃、債権者は園児の退園時間に園児の母親と窓越しに話しこみ、債務者代表者が園児に対する監視がおろそかになると注意しても聞かなかった。

(5)昭和60年3月14日、債権者は禁止を無視して他の組がいる部屋に自分の組の園児を招き入れて混乱を起こし、園児の1人が机に角で頬を打つという事故を発生させた。しばらくして同児の顔が膨れ上がったため、同児に通院治療を受けさせたが、債権者は家族への連絡や謝罪といった対応を取らなかった。更に昭和61年2月頃、同児とその母親が来園した際にも債権者は謝罪しないばかりか、母親に向かって「事故の度に保母が辞めたのでは、保母は何人いても足りない」などと放言し、母親を激怒させた。

(6)昭和61年4月2日、頭から毛布と布団をかぶされて泣いている園児の傍らで債権者が昼寝をしており、「余り泣くので他の子供たちがうるさいと思って」と主任保母に弁解した。

(7)そのほか、債権者の園児に接する態度はときとして過度に感情に走って抑制が効かなくなることがあり、指導が厳しすぎて両親から抗議を受けることも少なくなかった。
これに対し債権者は、本件解雇は債権者の組合活動を嫌悪した不当労働行為であること、専ら債務者の恣意に基づくもので、全くその合理的根拠を欠き解雇権の濫用であることを主張し、解雇の無効と賃金の支払いを請求した。
主文
本件申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債権者が勉強会のメンバーと共に労働組合結成の準備活動をしたり、債務者と折衝して保育園における勤務条件の一部改善を実現したりしたことが認められるけれども、債権者のこれら行動が債務者の強く嫌忌するところとなって、債務者において労働組合の結成を妨害したり、これを決定的動機として本件解雇をなすに至ったことを肯認し得るに至らず、また本件解雇が専ら債務者代表者の恣意に基づいて行われたものとも認めがたい。
 認定された事実によると、債務者が債権者に保母としての資質、適性に欠けるとして本件解雇に踏み切るに至ったのも、それなりに理解し得る理由があり、やむを得ない措置であったと評価し得る。してみると、本件解雇は有効であり、これを無効とする債権者の主張は理由がないので、債権者の本件仮処分申請は爾余の展について審究するまでもなく、被保全権利についての疎明を欠くものとして排斥を免れない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例514号82頁
その他特記事項