判例データベース
N社アルバイト雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N社アルバイト雇止め事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和63年(ヨ)第2251号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1988年11月30日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は事務計算、科学技術計算の受託等を目的とする会社であり、債権者は昭和53年8月1日から債務者に校正作業等のアルバイトとして雇用された女性である。債権者と債務者との労働契約は、同年8月1日から昭和54年7月31日までとなっており、昭和57年3月31日まで1年ごとに3回更新されてきたが、債務者はアルバイト経費が増加してきたことから、アルバイト規程を作成し、債権者は昭和57年4月1日に契約期間を昭和58年3月31日までとするアルバイト契約書に署名捺印をした。
債権者は、グループのメンバーとの間で掴み合いや暴行事件などのいざこざを起こし、その後も源泉徴収票の発行等に関し紛争が続いたことから、債務者は昭和58年3月31日をもって債権者を雇止めすることとし、債権者にその旨を通知した。債権者はこれを無視して就労を続けたため紛争が続いたが、債権者の強い要請もあり債務者は同年5月31日までの契約を締結し、更に昭和59年5月31日までの契約を締結した。その後更に1年間契約を更新したが、債権者は他の3名と異なり契約解消について同意しなかった。債務者は紛争の発生を防止するため、債権者との契約を継続し、従来と異なる業務をさせたが、債権者は他の業務には意欲がなく、他人との共同作業ができないほか、アルバイト勤務表に虚偽の記入を繰り返していたことから、新たな就職先を探すための猶予期間を与える趣旨で、昭和63年5月31日までの契約を締結し、債権者も同契約書に署名捺印をした。
債務者は債権者の業務は昭和61年4月頃にはほぼ終了していたこと、債権者による課長への連日の抗議で課長の事務に支障を来したほか、アルバイト勤務表に虚偽記入を繰り返し、注意しても改まらなかったことから、同日をもって契約を更新しない旨債権者に通知した。これに対し債権者は、本件労働契約は、期間の定めは一応あるものの、当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったのであり、期間満了毎に当然更新を重ね、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたから、雇止めの意思表示は解雇の意思表示であるところ、正当な解雇事由はないとして、債権者が雇用契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 本件申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者は最初の契約時に業務内容、契約期間を明示して労働契約を締結し、その業務内容は正社員と異なり債務者の一部門における特定業務の補助作業で、数年をもって完了することが予定された一時的なものであり、その後債務者は1年毎に契約を締結し、昭和57年以降は必ず契約期間満了前に新契約締結の手続きを取りアルバイト労働契約書を作成していたものであり、しかも正社員とアルバイトとは勤務時間、各手当、賞与の支給率等において実質的に相違があるのであるから、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいは期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも債権者と債務者との間に期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたということはできない。しかも、債権者は昭和57年からは「アルバイト勤務規程」に基づき自ら契約期間の明記されたアルバイト労働契約書に署名捺印をし、昭和58年4月には従来1年であった契約期間を2ヶ月とするアルバイト労働契約書に署名捺印しており、また債務者は、昭和61年中に債権者を除くアルバイト全員との労働契約を解消し、債権者との間の更新拒絶を予定しながら、結局紛争を回避するためにやむなく更新してきたことからすると、本件各労働契約は単に形式的に更新を重ねてきたものとは認められないから、各契約につき反復更新された事実があるからといって期間満了後も債務者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められるとはいえない。したがって、債務者が債権者を契約期間満了によって雇止めするに当たって、解雇に関する法理が類推されることもない。
仮に、本件契約関係がある程度の継続を期待することに合理性が認められるとして解雇に関する法理が類推されるとしても、債務者は本件業務以外の仕事に意欲がなく、また協調性がないため共同作業ができないこと、他の職種への切替えを拒否したこと、アルバイト勤務表へ虚偽記入するという不正行為を繰り返し、再三の注意にもかかわらず止めなかったこと、本業務が完了し、これに伴う債権者の手待ち時間が著しく増加したことなどの事実関係の下においては、債務者が債権者に対してなした昭和63年4月28日の契約を更新しない旨の雇止めの意思表示が濫用にわたるものと解することはできない。してみると、債権者が昭和62年5月に債務者との間において締結した本件労働契約は1年の期間の限られたものであるから、債権者は期間満了の日である昭和63年5月31日の経過をもって、債務者のアルバイトとしての地位を喪失したものである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例531号48頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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