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S病院助産婦解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
S病院助産婦解雇事件
事件番号
横浜地裁 - 昭和62年(ヨ)第827号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 社団法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年03月12日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、社会保険事業の円滑な運営等を目的として設立された公益法人で、全国で50を超える病院、診療所を経営しているものであり、債権者は、昭和53年7月に債務者が経営する病院に雇用された助産婦である。

 債務者は、債権者について次のような事実が認められたことから、病院就業規則の解雇規定に該当するとして、昭和62年2月27日、債権者に対し解雇の意思表示をした。

(1)産婦人科病棟では妊婦の経過観察は助産婦の責任であったが、昭和56年1月、債権者は申送りを受けたにもかかわらず経過観察を怠り、医師への連絡もしなかったため、胎児が危険な状態にあることも見過ごされていたほか、妊婦の経過観察が杜撰で、分娩時期を的確に予測し得ないことがあったので、同年4月、債権者を産婦人科外来に配置換えした。

(2)外来当直者であった昭和58年5月の深夜、通院中の妊婦から緊急に来院するとの連絡を受けながら、何の準備も応対もせず、新生児が未熟児で婦長や勤務医が応急措置を取る間も分娩室に顔を出さず、当直者としての務めを果たさなかった。

(3)日頃物品の管理、整理整頓が杜撰で、カルテ300枚を紛失させてしまったが、病院のカルテの保管体制の問題があるとして反省する態度を示さなかった。また母親学級用のビデオテープを紛失させた。

(4)患者への注射等についての医師の指示を無視したり、指示された措置を怠ったりした。

(5)昭和61年6月、患者から採取した尿を検査室に送ることなく放置したほか、医師から検査の指示が出ているのに、次の勤務者に引き継ぐ際に、検査が中止になった旨誤って伝達した。

(6)看護職員として当然に守らなければならない衛生上の注意を怠り、汚れた手袋のままで消毒済みの器具を扱ったり、分娩介助をしたりし、注意を受けても改めようとしなかった。

(7)助産婦も看護婦と同様分娩後の後始末をすることとされているのに、これは助産婦の仕事でないと言ってしないことが多かった。

(8)2人で勤務する休日にしばしば遅刻し、遅刻の報告をしなかったほか、夜勤中に相勤務者に行き先を告げずに持ち場を離れたり、早々に仮眠したりして相勤務者に負担をかけることがしばしばあった。

(9)妊娠中絶患者に対し「そんないい年をして妊娠したのですか」などと思いやりを欠くことを平気で言ったり、調乳用の湯を求めた外来患者に対し、忙しいと言って断ったりするなど、患者に対する対応は総じて不親切であり、これを注意されても改めようとしなかった。そのため外来での勤務も不適当とされて、産婦人科病棟に再度配置換えされた。

(10)同僚や上司から注意を受けるとこれに反発して、注意した者の一挙手一投足をあげつらい、責任を転嫁しようとした。また昭和61年夏、看護職員が夏期休暇の調整を行っているさ中、債権者は同僚の反対を押し切って長期休暇を取り、そのため債権者と一緒に仕事をしようとする看護職員がいなくなり勤務体制を組むことが困難になったほか、産婦人科病棟の職員全員の名で債権者とは同じ職場では働けない旨の嘆願書が出された。

(11)こうしたことから、病院では債権者の受入れ先を検討したが、どこも債権者に対する反発が強く、受け入れてもらえず、話合いの場を持っても債権者が自らの落ち度はないという態度に終始したため、解決の目処はつかなかった。
 これに対し債権者は、本件解雇は解雇理由を欠くものであり、年次有給休暇の取得に対する報復としてなされたものであって解雇権の濫用に当たるから無効であるとして、助産婦としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
本件申請を却下する。 

申請費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債権者は、分娩の経過観察、当直者としての任務、物品の保管、医師の指示の履行、他の看護職員との間でなされる申し送り等、債務者病院の助産婦としての役割を果たすことにおいて欠ける点があるだけでなく、債権者自身がその欠点を改めることを拒否し、独善的、他罰的で非協力的な態度に終始したために、他の職員との円滑な人間関係を回復し難いまでに損ない、債務者病院の看護職員として不可欠とされるところの共同作業を不可能にしてしまったのであるから、債権者には債務者病院の就業規則の「その職務に必要な適格性を欠くとき」に該当する事由があるというべきである。
 債権者は、本件解雇は債権者が年次有給休暇を取得して中国旅行に行ったことに対する報復としてなされたものであると主張するところ、確かに債務者病院は債権者が中国から帰国した直後に債権者を産婦人科病棟から看護部に配置換えし、そこでは解雇に至るまでほとんど仕事らしい仕事を与えなかったことが認められる。しかしながら、それは債権者が他の看護職員の間で夏期休暇の調整をしないまま長期間の休暇をとったため、それらの職員の反発を招き、一緒に仕事をすることを拒否されたからであり、その原因は主として債権者の我儘にあったので、やむを得ず看護部に配置換えして様子を見ていたものである。ところが、それにもかかわらず、債権者が従来の勤務ぶりを反省し、謙虚に批判を受け入れるどころか、専ら他の職員や債務者病院に対する批判に終始していて折り合おうとしなかったので、債務者は債権者を解雇したものである。したがって、これをもって年次有給休暇の取得に対する報復として看護部に配置換えしたり、本件解雇をしたものということはできない。以上の次第で、本件解雇は適法になされたものというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例583号21頁
その他特記事項