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Y社整理解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
Y社整理解雇事件
事件番号
京都地裁 - 平成6年(ワ)第773号
当事者
原告 個人4名 A、B、C、D
被告 株式会社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年02月27日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被告は、旅行用品類、土産品の販売等を業とする株式会社で、原告A、B、Cは正社員として、原告Dはパートとして被告に雇用されていた女性である。原告らは、全日本運輸一般労働組合京都地域支部ひろば分会(分会)に所属しており、分会と被告との間には、「組合員の身分、賃金、労働条件等の問題については会社は組合と協議し、労使双方同意の上円満にこれを実施する。会社の経営状態を充分考慮して行う」旨の人事同意約款がある。

 平成5年6月の団交の席上、被告は売上げの減少を理由に、同年7月15日までに希望退職を募る旨通告した。分会は地方労働委員会に斡旋を申請したが不調に終わり、被告は同年8月7日付けの書面で、原告ら及びEに対し、同月20日を期限に5名の希望退職を募ること、この申出がない場合には同月21日付けで解雇すること、パートとして2名雇用するので希望者は申し出ることを通知した。その際被告は、定年に達していたF、Gは賃金切り下げに応じたこと、何時でも退職する約束をしたことから解雇の対象にしなかった。原告らは、解雇について異議を留めつつパートに応募する意思を表明したが、被告は同月21日、原告らに対し、同日付けで解雇する旨の意思表示をした。
 原告らは、売上げが減少していたとしても人員整理の必要はなかったこと、被告は役員報酬の切下げ、原告らに対する希望退職募集以外に解雇回避の努力をしなかったこと、被告は、勤務状況、健康状態、能力、年齢、解雇により受ける打撃の程度などを考慮することなく原告ら及びEだけを対象としたこと、被告は希望退職、解雇に固執して賃金切下げ等の交渉を拒否したことを挙げ、整理解雇の要件を満たしていないと主張したほか、一貫して分会員らの活動を嫌悪し、職場から分会員を排除しようとして本件解雇をしたとして、解雇の無効と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告らがいずれも被告の従業員であることを確認する。

2 被告は、平成5年10月以降毎月25日限り、原告Aに対し金22万0143円、原告Bに対し金16万9333円、原告Cに対し金18万6333円、原告Dに対し金13万0266円をそれぞれ支払え。

3 被告は、原告Aに対し金15万8938円、原告Bに対し金12万0953円、原告Cに対し金13万7993円、原告Dに対し金9万8656円をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
 会社が整理解雇をするに当たっては、(1)経営上人員削減の必要性があること、(2)解雇回避の努力を尽くしたこと、(3)被解雇者選定基準が合理的であること、(4)組合及び労働者の納得を得るために説明、協議を行ったこと、の要件が満たされなければならないというべきである。

 希望退職の募集は、労働者の自主的な決定を尊重し得る点に意味があるところ、被告は希望定職に応じなければ対象者全員を解雇するというものであるから、原告らに退職しない自由はなく、被告の方針は希望退職募集の趣旨にそぐわないといえる。また、被告の意図した人件費削減を行うためには、3名を解雇し、引き続き在職する2名について賃金等の労働条件を切り下げる方法を採っても達成できるのに、被告は5名全員を一斉に解雇しており、解雇回避の手段として相当とはいえない。更に被告は本件解雇後に2名のパートを採用する予定であったところ、原告らが解雇を争うことを留保しつつパートに応募したことに対し、これを拒否しているが、本件解雇の適法性につき疑問を持っている者に対し、解雇を認めなければパートとして採用しないという方針は、原告らの地位を無用に不安定にするものであり、従業員の身分保障の趣旨に反するから、被告は解雇を回避する努力を尽くしたとはいえない。

 被告は、原告ら及びEについてだけ希望退職及び解雇の対象とし、5名全員を解雇した後パートとして2名を再雇用という方針を取っているところ、E、F、Gが既に定年を過ぎているのに対し、原告らは定年に達していないのであるから、被告がこれを考慮していないのは、それだけで被解雇者を選定する基準の合理性を疑わせる。

 人事同意約款につき、同意まで要するか否かはさておき、被告は組合及び労働者の納得を得るために誠実に説明、協議を行う義務があるというべきである。そして分会が解決に向けて被告と協議するためには、被告の経営状態を把握することが不可欠であり、そのためには貸借対照表や損益計算書等の資料を十分検討する必要がある。それにもかかわらず、被告は「試算表」と題する資料を交付したものの、貸借対照表や損益計算書等については、その控えを取ることを認めただけで、コピーを取ることを認めなかったのであるから、被告は誠実に説明、協議を行ったとはいえない。
 以上の諸事情を考慮すれば、仮に人員削減の必要性の要件を満たすとしても、本件解雇は解雇権の濫用であって、違法なものというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例713号86頁
その他特記事項
本件は控訴後和解した。