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I自動車教習所パート指導員雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- I自動車教習所パート指導員雇止め事件
- 事件番号
- 京都地裁 − 平成6年(ワ)第3517号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 株式会社I自動車教習所 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年07月16日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、自動車運転実施及び学科知識の習得、運転免許所持者の実習指導等を業とする株式会社である。原告Aは昭和44年12月、被告に4時間勤務のパート指導員として採用され勤務してきたが、昭和61年3月以降は午前9時ないし9時10分から午後5時30分までの勤務になっており、原告Bは昭和44年1月に被告に4時間勤務のパート指導員として採用され、1年間の休職期間を除き勤務してきたが、昭和59年以降は午前9時10分から午後7時50分までのフルタイム勤務となっている。
原告らは被告に対し、毎年3月21日付で契約期間を1年間とする契約書を提出し、労働契約を更新してきたところ、被告は平成6年2月に原告らパート指導員に対し、生徒数の減少から一層の作業量の調整が必要になることが予測されるとして、契約更新時において、業務の閑散期における作業量調整については被告の指示に従う旨の条項を付加した契約書の提出を求めた。原告らを除くパート指導員はこの申し出に応じた契約更新を行ったが、原告らは右条項の入らない契約更新を求めて話合いが行われたところ、被告は平成6年4月16日、原告らとの労働契約はいずれも同年3月20日をもって期間満了により終了しているとして、同日以降の原告らの就労及び賃金の支払いを拒否した。
これに対し原告らは、採用面接において被告はパート指導員の地位、正社員との処遇の違い、契約期間が限定されている等の説明をしていないこと、原告らは25年にわたって契約を反覆継続してきたところ、多くの者についても契約更新が繰り返され、1年の期間満了のみを理由として退職した者は1人もいないことを挙げ、原告らパート指導員は労働契約が更新されることを当然に期待する状況にあり、本件労働契約は期間の定めのない契約であるか、仮に期間の定めのある契約であるとしても、期間の定めのないものに転化したか、あるいは実質上期間の定めのない契約と同視すべきものとなっているから、本件雇止めは解雇に該当すると主張した。その上で、平成6年当時人口が減少したとしても多くの大学生の入所者を迎え入れる等によって収入が減少になることはないにもかかわらず、作業量調整を明文化させようとしたものであり、原告らが働く者の立場から不要な条項について意見を述べたのを抵抗者の如く思い、これを嫌悪し、形式的に契約期間が徒過したことを奇貨として解雇又は雇止めを断行したものであるから、本件雇止めは権利の濫用に当たるとして、原告らが労働契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを求めた。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件労働契約の性質
原告らが毎年3月21日付けで契約期間を1年間とする契約書を交わしてきていること、正社員とパート職員とでは地位・処遇に差異があること、被告も正社員とパート職員との違いについて職員に常々説明し、職員もこれを了知していたことに照らすと、本件労働契約は、いずれも1年間の期間の定めある契約というべきであり、それが長期間反復継続されたからといって、そのこと故に期間の定めのない契約に転化したと認めることはできない。しかしながら、本件労働契約が1年間の期間の定めのあるものであるとしても、期間の満了により当然に労働契約が終了すると解するのは相当でなく、期間の定めのある労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になった場合には、雇止めは実質的に解雇と同一と見るべきであるから、解雇に関する法理が類推され、期間満了によって本件労働契約を終了させるためには、余剰人員の発生等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存することを要すると解するのが相当である。
本件においては原告らはいずれも昭和44年に被告に入社し、定年まで勤務するつもりであったこと、契約書の作成は4月以降にずれ込むことが多かったこと、正社員指導員とパート指導員の業務内容は同一で就業規則も同じように適用されることなどに照らすと、本件労働契約は実質的に期間の定めのない契約と同視すべきものとなっていると解するのが相当であり、原告らのような長期間のパート指導員を期間満了により雇止めするには、契約更新に対する期待との関係で余剰人員の発生等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存することを要するというべきである。もっとも本件においては、被告はパート職員を含む全職員に対して、パート職員は将来の保証はなく不安定な地位である旨幾度となく説明し、職員はこれを了知していたのであり、他方原告らは自らの判断で正社員になることを希望せず、パート職員に留まったというのであるから、本件雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約をしている正社員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があるというべきである。
2 本件雇止めの効力
(1)自動車教習所においては、一般的に季節により入所者数の増減があり、作業量が月によって大幅に異なることから、被告はこれを主としてパート指導員の作業量の増減で対処することとし、従前から作業量の減少が著しい時にはパート指導員の出勤停止等による作業量調整を実施してきたこと、(2)平成6年3月当時、18歳人口の減少による入所者数の減少が確実視され、作業量も平成元年以降減少傾向にあったところ、更に平成6年5月施行の道路交通法改正による影響で入所者数の極度の減少が見込まれたため、被告は平成6年には例年以上の作業量調整の必要を予想し、減少する作業量を全パート指導員に対する作業量調整で切り抜けようとしたこと、(3)パート指導員から作業量調整について疑問が呈されていたため、これに応諾する旨の文言をパート指導員の労働契約書に明記して疑問を解消し、作業量調整を円滑に行おうとしたことなどに照らすと、被告が平成6年の契約更新に当たり、契約書に作業量調整について被告の指示に従う旨の条項を付加しようとした措置には十分な必要性があったものと認められ、原告らパート指導員にとっても、作業量調整は従前から行われ、原告らも異議なく応じてきたものであり、このことが労働契約書上明文化されたとしても明文化自体殊更に不利益を課するものではなかったということができる。しかしこのような被告の方針に対して、原告らは「従来通りの契約でお願いしたい」と応諾しようとせず、更に条件が悪くなるのでは契約できないなどとして、被告にしてみれば、今後は作業量調整に応じることに抵抗するかのような発言を繰り返し、本来の契約期間満了日から25日経ってもその態度を変えようとしなかったものであるから、被告が原告らは被告の申し出た条件による契約更新に応ずる意思がないと判断し、原告らからの作業量調整に関する条項のない契約書による労働契約の更新申入れに応ずることはできないとしたのもやむを得なかったというべきである。
本件雇止めに至った経緯によれば、被告が作業量調整に関する条項を契約書に明記しようとしたことには合理的な理由があり、原告らの態度からして被告が話し合いを打ち切ったことはやむを得ないというべきで、被告が原告らをことさら嫌悪して形式的に期間が徒過したことを奇貨として雇止めを断行したということもできない。以上の通り、被告が原告らに対し、本件雇止めにより平成6年3月21日以降の契約更新を拒絶するに至った過程に解雇権濫用等の無効とすべき事情は認められないから、本件労働契約はいずれも平成6何3月20日の期間満了によって終了したものと認められる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例731号60頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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