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N社解雇事件

事件の分類
雇止め
事件名
N社解雇事件
事件番号
大阪地裁 - 平成9年(ワ)第3224号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年05月29日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、電話番号案内業務等を業とする株式会社であり、原告は平成6年6月、電話による電話番号問合わせに対応するオペレーター業務に従事するパート従業員として被告に雇用された女性である。原告と被告間の雇用契約は何度か更新され、平成8年8月1日に更新されたときは、その契約期間は平成9年1月31日までであったが、被告は、原告の勤務状況が次の通り芳しくないと判断した。

(1)原告は欠勤が多く、顧客からの問合わせに対する対応にも適切さを欠き、顧客からの苦情が絶えないばかりか、顧客の対応に苛立って台を足蹴にしたり、独り言を吐いたり、悪態をつくなどの行為を繰り返し、上司が指導しても一向に改善されなかった。

(2)原告は雇用期間が終了する間際の平成8年7月27日から30日まで無断欠勤し、その後一から気合を入れてやり直したい旨述べたため、被告は契約更新したが、顧客との応対中台を足蹴にし、一方的に回線を切断するなどし、上司が注意すると、顧客の方が悪いといって反省を示さなかった。

(3)平成8年9月、所長らが原告宅を訪問し、原告及び両親に対し、(イ)顧客との応対中、一方的切断はしない、(ロ)顧客と口論しない、(ハ)キーボードの乱暴な取扱いや台の足蹴りをしないという3条件の遵守を確約するならば、引き続き業務に従事させる旨述べたが、原告はこれに納得しなかった。

 被告は、原告のこれらの行為は、NTTに対する顧客の信頼、評価の低下につながりかねない行為であり、職場秩序を乱す行為であって許されないとして、平成8年12月10日付けで就業規則に基づき原告を解雇した。なお、その際被告は、原告が反省して従業員として守るべき3条件を遵守するならば職場復帰を認めるべく交渉したが、原告は3条件の遵守をかたくなに拒んだ。
 これに対し原告は、被告の主張する事実は、いずれも事実と相違するか、特に問題とするには及ばないものであるとして、原告には解雇事由が存在しないこと、被告が提示する3条件に同意しなかった点についても原告のみを責めることはできないことを主張し、本件解雇は解雇権の濫用であるとして、その無効の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 被告は、原告に対し、48万7529円を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解雇の効力について

 原告が顧客とトラブルを生じ、被告において厳しく禁じられているオペレーターの側から回線の切断に出た行為は、就業規則の「職責を尽くさず、又は職務を怠り、よって業務に支障をきたしたとき」「業務上の指示に従わないとき」に該当するものということができる。これに加え、原告は雇用契約が更新される前である平成8年7月以前にも、欠勤、顧客とのトラブル、キーボードの乱暴な取扱いや台の足蹴り、独り言などが多く、4日間の無断欠勤をするなど、勤務態度が良いとは決していえなかったこと、原告の回線切断行為があった同年8月、上司から今後回線切断をしないよう注意されたのに対し、「自分は悪くない。システムが悪い。今後も切ることがある。」と反省の色を見せず、かえって開き直るような対応を取ったこと、翌日以降の原告と被告との交渉においても、被告側が求めた「電話回線を切断しない」ことの確約に難色を示し続けたことを勘案すれば、本件解雇に及んだのもやむを得ないことといわなければならず、本件解雇は解雇権の濫用となるものではなく、有効というべきである。なお原告は、雇用契約更新前の事情は解雇の正当性を基礎付ける事実とはなり得ないと主張するところ、確かに被告は原告のそれまでの勤務態度等を認識した上で雇用契約を更新したのであるから、それ以前の事実そのものを解雇理由とすることは許されないといわなければならない。しかしながら、本件のように短期の雇用契約の更新が続けられていた場合において、雇用契約更新後行われた就業規則違反行為を理由とする解雇の有効性を判断するに際し、雇用契約更新前の勤務態度等を考慮することはもとより許されるというべきである。

2 原告の賃金請求権について

 平成8年8月28日から同年12月10日(解雇の効力が発生した日)までの原告の賃金請求権については、右期間の原告の不就労が、被告の責に帰すべき事由による就労不能であるか否かによって決すべきところ、被告の所長代理は同年8月27日、原告に対し「解雇だ。明日から来なくてよろしい」と告げて、原告のIDカードを取り上げたこと、その後被告が、原告に対し出勤を命じた形跡がないことに照らせば、同月28日以降原告が就労しなかったのは、被告による不当な就労拒否によるものというべきであるから、原告は右期間の賃金請求権を失わないというべきである。
 原告の各月の出勤日数は、17日から21日までの間で変動することが認められるから、直近3ヶ月に給与の平均をもって、同年8月28日以降の原告の賃金額とすべきところ、右平均額は14万1247円となるから、原告の平成8年8月28日から同年12月10日までの賃金額は、48万7529円になる。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1673号14頁
その他特記事項