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M社整理解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- M社整理解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成11年(ヨ)第21153号
- 当事者
- その他債権者 9名(女性4名 A、B,C、D、男性5名 E、F,G,H,I)
その他債務者 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年01月12日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、高校用教科書の出版等を業とする株式会社であり、債権者らはいずれも債務者の従業員であり、労働組合の組合員であった。
平成6年度以降債務者教科書の採択実績は年々減少し、今後もますます厳しさが予想されることから、債務者は役員報酬、賞与など人件費の削減を行ったほか、事業本部制の採用など業務の効率化に取り組んだ。しかしその後も業績が悪化を続けたことから、債務者は組合との団交を経て、平成11年3月18日、15名の希望退職を募集した。これには5名の応募があったが、債務者は更に同年5月16日、10名の希望退職の募集(第2次募集)を行った。しかし、第2次募集には1人も応募がなかったため、債務者は組合に対し10名の整理解雇が必要であることを説明し、解雇の人選基準について協議するため団交の開催を求めたが、組合は雇用確保緊急要求書の提出を主張して団交を拒否した。そこで債務者は組合に対し人選基準を通知し、全従業員に対しその発表を行った。債務者はその後も組合に対し団交を申し入れ、開催された団交の場で、整理解雇の必要性を説明した上で、本件解雇の対象者として債権者ら10名の氏名を通告し、同年7月16日付けをもって、債権者らに解雇通知書を手交して,本件解雇を行った。
これに対し原告らは、経常損失が続いた時期にも人員を減少させず、本件解雇前に退職者が相次いでおり、役員に対して多額の報酬を支払い続けていることから人員削減の必要性はないこと、債務者は解雇回避の努力を行うどころか労働組合を壊滅させるため本件解雇を強行したこと、人選基準は対象者を組合員に絞り込むことを企図したものであること、組合が第2次の希望退職募集に先立って提出しようとした雇用確保緊急要求書について、書面の交付は団交で行うのが慣行であるとしてその受領を拒否したこと、具体的な人選に当たって非組合員を外すなど恣意的な運用があったことなどから、本件整理解雇は解雇権の濫用により無効であるとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 債務者は、債権者Aに対し、平成12年1月から同年12月まで毎月25日限り金19万円を仮に支払え。
2 債権者Aのその余の申立て及びその余の債権者らの申立てをいずれも却下する。
3 申立費用は、債権者Aに生じた費用と債務者に生じた費用の9分の1を債務者の負担とし、その余の債権者らに生じた費用と債務者に生じたその余の費用を同債権者らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 人員削減の必要性について
債務者の業績は悪化の一途を辿っているということができる一方、債務者においては業態の多角化を図ったとはいえ、これを徹底するまでには至っておらず、いまだ高校用教科書販売を主たる経営内容としており、しかも教科書の採択が債務者にとって有利な状況にはない事情に鑑みれば、債務者の業績の悪化は単に一時的なものではなく、この傾向は少なくとも今後数年は継続すると予想されること、2度にわたる希望退職募集に応じた5名の人件費では足りず、なお6400万円の人件費削減が必要であった事実が一応認められる。よって、債務者は、本件解雇を行った平成11年7月の時点において人員削減の必要性を認めるに足りる合理的かつ客観的な理由があったものというべきである。
2 解雇回避努力について
債務者は経費節減の努力をしてきたこと、業務の効率化のための施策を実施してきていること、それにもかかわらず債務者の経営状況は好転せず、平成11年初頭において人件費を一定額削減しなければならない状況に陥ったため、債務者は2度の希望退職募集を行ったが、募集人員には達しなかったため、債務者はやむを得ず整理解雇によってこれに対応することを選択したこと、の事実が一応認められる。そうすると、債務者は本件解雇を回避するための相当な努力を尽くしたものというべきである。
3 人選の合理性について
本件解雇に当たって採用された人選基準は、平成9年2月21日から平成11年6月20日までの間の遅刻、早退、欠勤の総合計時間の多寡(昭和19年12月31日以前に生まれた従業員及び平成8年4月1日以降に入社した従業員を除く。)というものであり、生年月日による制限については、高齢者は一般に再就職が困難であること、入社歴が浅い者については教育、研修を行っている最中であり、教育等のために支出した費用の回収が十分でないこと、以上の点を債務者が慮った結果によるものであることが一応認められる。これらの事実に加え、遅刻、早退、欠勤の総合計時間の多寡を整理解雇の人選基準とすることは、整理解雇の人選基準として想定し得る基準の中でも相当程度客観的かつ合理的な部類に属するものであるということができることに鑑みれば、本件人選基準は合理性を有するというべきである。
4 組合との協議について
債務者が平成11年3月9日開催の団交の開催を申し入れた際、議題として「会社よりの説明事項」としか挙げていなかったこと、第2次希望退職者募集に先立って組合が提出しようとした雇用確保緊急要求書について受領を拒否したこと等経営者として硬直的、形式的な対応をしたという面は否定できない。また、債務者において、整理解雇に踏み切るに当たり性急のそしりは必ずしも免れないともいうべきである。しかし、一方で、債務者と組合との間の協議等の経過に鑑みて、その協議等に当たって債務者が柔軟に対応していたとしても、また、なお組合との協議を続行することを選択しても、その結果として真に相互に共通の理解を得られる可能性があったかは疑問の余地なしとしない。そうすると、右の点をもって、債務者が整理解雇に当たり、組合との間で要求されるべき協議を尽くしたことを否定すべき事情とまではいい難いというべきである。以上の点に鑑みると、債務者は整理解雇に当たってこれを正当化する程度に組合と協議を尽くしたものということができる。
5 具体的な人選について
本件人選基準を適用すると、非組合員であるJを除けば、遅刻、早退、欠勤の総合計時間の多い者のうち上位10名が債権者ら10名となることが一応認められる。したがって、本件人選基準を適用した結果、その該当者が債権者ら10名となった旨の債務者の主張は、債権者らのうち上位9名については理由があるが、その順位10位に該当する債権者Aについては、Jを含めれば、遅刻、早退、欠勤の総合計時間の上位11位に当たることになり、債務者は本件人選基準の適用を誤ったというべきである。
6 解雇権濫用の成否について
整理解雇が解雇権の濫用に当たるか否かについては、人員削減の必要性、解雇回避努力の有無、程度、人選の合理性及び組合との協議等の各要素を総合考慮して判断するのが相当であるというべきところ、右各要素に関する検討を総合考慮すれば、債権者Aを除く各債権者について、本件解雇が解雇権の濫用に当たるとは認められない。しかし、債権者Aに関しては、債務者が本件人選基準を誤ったから、本件解雇のうち同債権者については解雇権の濫用に当たるというほかはなく、無効である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例779号27頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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