判例データベース
N社雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N社雇止事件
- 事件番号
- 神戸地裁明石支部 - 平成16年(ワ)第146号
- 当事者
- 原告 個人2名A、B
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年07月22日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告らは、平成15年2月21日、派遣業者N産業から派遣されて、N産業の親会社である被告の工場に就労し、被告の従業員である班長の指揮命令を受けて勤務していた。原告Aは、同年11月頃社外の労働組合に加入し、N産業と団体交渉を行ったが、N産業の派遣が偽装請負かどうかということで終始した。その頃N産業は職業安定所から事情聴取を受け、職業安定所は平成16年1月14日N産業に対し、同年3月5日被告に対し、(1)適正な請負により雇入れ業務を処理すること、(2)N産業の労働者派遣を中止すること。その際、当該業務に従事していた労働者を被告に直接雇用するよう務めること、との是正指導を行った。
被告はこの指導を受けて、同年2月6日、原告らパート6名を個別に呼び、同年3月31日をもってN産業と被告との契約が終了するので雇止めする旨の通知書を手渡し、同日原告らを雇止めした。これに対し原告らは、被告との労働契約は継続しているとして、労働契約上の地位の確認と賃金の支払を請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 1 原告らと被告との間に労働契約が成立しているか
社外労働者と受入れ企業間に黙示の労働契約が成立すると認められるためには、社外労働者が受入れ企業の事業場において同企業から作業場の指揮命令を受けて労務に従事していること、実質的にみて派遣企業ではなく受入れ企業が社外労働者に賃金を支払い、社外労働者の労務提供の相手方が派遣企業ではなく受入れ企業であることが必要であると解される。本件において原告らは、勤務開始当初から、被告西神工場において、被告社員の指揮命令を受けて各自の担当作業を行っており、労働契約上の使用者であるN産業による指揮命令を受けていなかったということができる。被告は、N産業の現場責任者を工場に置いたと主張するが、同責任者は作業について具体的な指示をすることはなく、朝のミーティングで一般的な話をしたに過ぎないこと、原告らは実際の作業では被告従業員である班長から作業の指示がされていたことが認められる上、被告が行った上記措置は、職業安定所からの是正指導を受けて適正な業務処理請負とするためになされたものであり、原告らの勤務開始から約1年後に行われた事後の対応をもって黙示の労働契約の成立を否定する事情と解することはできない。
N産業は、それ自体としては、被告とは独立の事業を行い、法人格も形骸化していないということができるが、N産業が事業を開始したのは、原告らが勤務した西神工場においては平成15年からであること、業務請負としては、専ら完全親会社である被告の工場に対する労働力の供給しか行っていなかったことが認められ、N産業による原告らの採用は、完全親会社である被告の採用を代行していたに過ぎないというべきである。また、原告らは、その他の複数の被告の正社員と同一の作業を渾然一体となって行っていたといえるし、原告らの出勤簿は被告が管理し、残業についても被告工場長の指示で行われていたこと、有給休暇の申請についても被告の班長に提出していたことが認められるから、実質的に見れば、受入れ企業である被告から指揮命令を受けて労務に従事しており、被告が社外労働者である原告らに賃金を支払い、原告らの労務提供の相手方は被告であるということができるから、原告と被告との間には黙示の労働契約が成立したというべきである。
2 原告らの労働契約が実質的に期間の定めのない契約と同視し得るか
臨時従業員の短期労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、更新拒否には解雇と同様に客観的で合理的な理由が必要であり、そのような理由が認められない場合には、使用者は雇止めをすることができないと解される。期間雇用が実質的に期間の定めのない労働契約と同視し得るには、現実に更新が反復更新されることが最も重要な要素であると解される。原告らの場合、平成15年9月末に1回更新されただけで本件雇止めがなされたのであるから、実質的に期間の定めのない労働契約と完全に同視することは困難である。もっともN産業の募集広告には有期雇用との表示はなく、原告らの面接の際もその旨告知がなかったこと等が認められ、平成15年9月末の更新では、特段の面接もなく、新たな契約書を作成するだけで契約が更新されたものであり、これらの事情からすれば、更新時期において特段の問題がなければ継続雇用されることについて原告らが期待を持つことは当然である。したがって、形式的には期間雇用である場合でも、労働者が継続雇用を期待する合理性の程度と、雇止めの理由の不合理性の程度の相関関係によって雇止めをすることは許されない場合もあると解することができ、使用者による雇止めの理由の不合理性の程度が大きい場合には、雇止めの効力が否定されるというべきである。
3 原告らの雇止めに合理的な理由が認められるか
労働組合との団体交渉の経緯からすると、N産業が本件雇止めを行った実質的な理由は、被告の要員調整の必要性というよりは、主として適正な業務処理請負を実現するにはコスト問題をクリアーできないという専らN産業の経済的なものであったとみるのが相当である。この経済的理由は、製造現場への派遣を禁止していた平成15年当時の法律の制約の下で実質的に製造現場への人材派遣を行おうとした被告及びN産業が業務処理請負の形式を採用したことに起因するものであるから、原告らの雇止めによって問題の解決に当たることは、原告らの雇用の犠牲によって自ら作り出した違法状態を解消しようとするものであり、著しく不合理といわざるを得ない。したがってN産業による本件雇止めの理由は著しく不合理なものであり、本件雇止めの効力を認めることはできない。そうすると、原告らは、黙示の労働契約に基づき、現時点においても、N産業を吸収合併した被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあり、本件雇止め直前3ヶ月の平均賃金相当額の賃金請求権を有することになる。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 平成18年版年間労働判例命令要旨集82頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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