判例データベース
労働者派遣会社・出版社(派遣労働者)解雇事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 労働者派遣会社・出版社(派遣労働者)解雇事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成17年(ネ)第3981号
- 当事者
- 控訴人 個人1名(第1審原告)
被控訴人 株式会社(A)、株式会社(B) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年06月29日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)Aは、学術書、教科書等の出版・販売等を目的とする株式会社であり、被控訴人Bは労働者派遣法に基づく人材の派遣事業、出版物の編集等を目的とする株式会社であって、AはBの株式を保有している。一方控訴人(第1審原告)は、平成13年5月にBに採用され、A及びBの派遣契約に基づいて、6ヶ月ごとにAに派遣され、編集業務等に従事していた。
平成15年3月下旬、AはBに対し同年5月20日をもって派遣契約を終了する旨通告し、これを受けてBは控訴人に対し同日以降労働契約を締結しない旨通告したところ、控訴人は本件労働契約は実質的に期間の定めのない契約である等を主張し、被控訴人A、Bは実質的には一体であるとして、被控訴人らとの間において控訴人が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。
第1審では、被控訴人A、Bが一体であることを否定し、控訴人とAとの間に黙示の労働契約が成立したと認めることはできないとした上で、本件雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないとして、本件労働契約は雇用期間満了により有効に終了したと判断した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 被控訴人Aと控訴人との間の黙示の労働契約の成否
労働契約も当事者間の明示の合意によって締結されるばかりでなく、黙示の合意によっても成立し得るところ、労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し、労働者が賃金の支払いを受けて労務を提供することにあるから、黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは、明示された契約の形式だけでなく、当該労務供給形態の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係があるかどうか、この使用従属関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。そして労働者派遣法所定の労働者派遣は、労働者が派遣元との間の派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先へ派遣された場合でも、派遣元が形式的存在に過ぎず、派遣労働者の労務管理を行っていない反面、派遣先が実質的に派遣労働者の就業条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別し難い状況になっており、派遣先が、派遣労働者に対し、労務請求権を有し、賃金を支払っており、当事者間に事実上の使用従属関係があると認められる特段の事情があるときには、上記派遣労働契約は名目的なものに過ぎず、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立したと認める余地があるというべきである。
本件において、AのBに対する出資比率は17.5%に留まるのみならず、Bの派遣先としてA以外に常時100名ないし140名程度の労働者を派遣しており、Aに対する売上高の比率も15%程度であって、その収入、経費等の会計も全く別個独立に行っていることなどが認められることから、Bは形式的かつ名目的な存在ではなく、派遣先とされるAとの関係においても、派遣元としての独立した企業又は使用者としての実質を有しており、企業又は使用者としての独立性があり、Aが実質的に控訴人の募集・採用を行い、賃金、労働時間等の労働条件を決定して賃金を支払っていたと認定することはできず、控訴人も自分がBの派遣スタッフであることを理解していたのであるから、就労の具体的実態から、Aと控訴人との間に事実上の使用従属関係があり、労働契約締結の黙示の意思の合致があったものと認めることはできない。したがって、控訴人とAとの間に黙示の労働契約が成立したと認めることはできない。
2 法人格否認の法理によるAと控訴人との間の労働契約の成否
一般に、法人格否認の法理は、法人格を否認することによって、法人の背後にあってこれを道具として支配している者について法律効果を帰属させ、又は責任追及を可能にするものであるから、その適用に当たっては、「支配」の要件と共に、法的安定性の要請から、「違法又は不当な目的」という「目的の要件」も必要であると解される。
本件では、(1)AはBの発行済み株式の17.5%を保有するに過ぎず、BはAと別個独立に存在して営業活動を行い、派遣先もA以外に100名ないし140名程度の労働者を派遣し、会計処理上も別個独立であったこと、(2)Aに対する売上高比率は約15%に過ぎなかったこと、(3)BはAに対する派遣料を、通常派遣労働者の賃金に20~30%加算するところ、控訴人の時間単価に消費税を加えた額に抑えていたが、これが直ちに不当に低廉な派遣料であるとはいえないこと、(4)Bは控訴人に対し賃金を支払い、社会保険についても控訴人をBの社員として加入し、所得税等の徴収手続きを行っていたことが認められ、AがBを支配していると認めることはできないから、法人格否認の法理によりAと控訴人との間の労働契約の成立を認めることはできない。
3 被控訴人Bと控訴人との間の労働契約終了の有無
一般に、有期の労働契約が単に反復継続して更新されたとしても、特段の事情がない限り、当該契約が期間の定めのない契約に転化するとは認められないが、有期の労働契約が当然更新を重ねるなどしてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合、当該労働契約の更新拒絶(雇止め)をするに当たっては、解雇の法理を類推すべきであり、当該労働契約が終了となってもやむを得ない合理的理由がない限り、更新拒絶は許されないというべきである。控訴人がBから渡された説明書には、雇用期限はとりあえず6ヶ月間とするが、特段の事情がない限り、当初の6ヶ月ということはない旨記載されていた。そして本件派遣労働契約は6ヶ月毎に4回更新されたが、就業通知書の交付は雇用期間の始期を過ぎたこともあった。
平成11年改正の労働者派遣法は、書籍等の製作編修業務について派遣期間を1年に限定していなかった上、本件業務は当初から6ヶ月では終わらない見通しであったことが認められるが、本件派遣社員就業通知書には契約の更新に関する記載はなく、Bは控訴人に対し、雇用期間が終了する都度、新たに雇用期間6ヶ月の派遣社員就業通知書を交付し、控訴人はこれに対し異議を述べなかったこと、Bにおいては、業務が継続する場合、雇用期間が満了した派遣社員を同じ派遣先に派遣することが通例であり、Aから控訴人を代えて欲しい旨の要請もなかったので、引き続き本件派遣契約が締結されたことが認められる。
ところで、4回の派遣労働契約が通算して2年間にわたり締結されたこと、控訴人が引き継ぐべき正社員の採用がなかったことなどに鑑みると、控訴人が雇用の継続をある程度期待したものといえなくもない。しかしながら、労働者派遣法は、派遣労働者の雇用安定のみならず、派遣先の常用労働者の雇用安定も立法目的とし、派遣期間の制限を設けるなどして上記目的の調和を図っており、同一の労働者を同一の派遣先へ長期間継続して派遣することは常用代替防止の観点から本来同法の予定するところではないから、労働者派遣契約の存在を前提とする派遣労働契約について、派遣でない通常の労働契約の場合と同様に雇用継続の期待に対する合理性を認めることは、一般的に困難であるというべきである。そして、(1)本件派遣労働契約は、被控訴人らの間の労働者派遣契約を前提として存在すること、(2)Bは契約期間満了前である平成15年3月下旬頃、Aから派遣打ち切りの申し入れを受け、同年4月16日、控訴人に対し今後派遣労働契約を締結しない旨通告したことが認められるから、本件最後の派遣労働契約については、控訴人が期間満了後も雇用が継続されると期待することに合理性が認められる場合には当たらないというべきである。
以上のとおり、本件派遣労働契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは本件最後の派遣労働契約の期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には当たらないというべきであるから、Bによる当該労働契約の不当な更新拒絶(いわゆる雇止め)はなく、解雇の法理を類推すべき前提も欠いているので、平成15年5月20日、同雇用期間満了により本件最後の派遣労働契約も他の本件派遣労働契約と同様に有効に終了したというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1944号18頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 − 平成15年(ワ)第26279号 | 棄却(控訴) | 2005年07月25日 |
東京高裁 - 平成17年(ネ)第3981号 | 棄却 | 2006年06月29日 |